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先天梅毒の動向(2011~2014年)

(IASR Vol. 36 p. 230: 2015年11月号)

梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による細菌感染症である。早期感染者の患部からの浸出液などに含まれるT. pallidumが主に性的接触により粘膜や皮膚の小さな傷から侵入し感染する。梅毒に感染した妊婦から胎盤を通じて胎児にも感染した場合、適切な治療がなされなければ流産や死産、先天梅毒を生じる原因となる(先天梅毒を含む梅毒の届出基準と届出票はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-11.htmlを参照)。

日本における梅毒患者の発生動向は2010年以降増加傾向に転じ、2013年には前年比1.4倍となる1200例超の報告を認めた。近年は女性患者の増加が顕著であり、2013~2014年には10代後半~20代の女性の早期顕性梅毒報告数が倍増した。2015年第1週~第38週までの暫定報告数は、全報告1,758例中女性が494例(28%)[2014年の年間暫定報告数1,688例中387例(23%)]であり、うち15歳~29歳が290例(59%)[2014年の年間暫定報告数387例中214例(55%)]を占めた。

こうした背景の中、本邦における先天梅毒の報告数も2014年に増加傾向となっており、今後もさらなる先天梅毒の増加が懸念される。実際に、2015年第1週~第38週までの先天梅毒の暫定報告数は11例であった(2015年10月8日集計暫定値)。

今回、2011年第1週~2014年第52週に感染症発生動向調査(NESID)に報告された先天梅毒22例(2015年7月24日集計暫定値)について、届出票に記載された情報から記述疫学をまとめた。

報告数は2011年5例、2012年4例、2013年4例、2014年9例であり、2014年には前年の約2倍へ増加した。

都道府県別の報告数は、北海道2例、宮城県2例、新潟県1例、群馬県1例、東京都4例、神奈川県1例、千葉県6例、岐阜県1例、大阪府1例、兵庫県1例、広島県1例、大分県1例であった。22例中10例は東京都と千葉県からの報告であり、全国の報告数のうち45%を占めた。

患者情報として、性別は男児10例、女児12例であった。報告時の月齢は0か月が21例、3か月が1例であった。3か月で診断に至った理由については報告された情報からは不明であった。報告時の転帰は22例全例が生存例であった。症状としては、有症状例17例、無症状例4例、不明1例であった。届出票に選択式で報告された症状(重複あり)は、丘疹性梅毒疹3例、神経症状3例、骨軟骨炎3例、梅毒性バラ疹2例であり、鼠径部リンパ節腫脹、眼症状、硬性下疳が各1例であった。初期硬結、扁平コンジローマ、心血管症状の報告はなかった。また、晩期先天梅毒症状としては、実質性角膜炎1例(診断時年齢0か月)を認めたが、その他ゴム腫、感音性難聴、Hutchinson歯は認めなかった。また、その他の欄に任意に記載された症状(重複あり)は肝脾腫5例、肝腫大3例、水疱性発疹3例、血小板減少3例、点状出血2例、腹水貯留2例、肺炎2例、貧血1例、汎血球減少1例、呼吸不全1例、早産1例、肝機能障害1例、発疹1例であった。肝脾腫もしくは肝腫大の報告例は8例(36%)と、症状の中で最多であった。

先天梅毒の届出基準5項目についてみると、早期先天梅毒の症状を呈する場合を満たした症例が15例、児のT. pallidumを抗原とするIgM抗体陽性を満たした症例が8例、母体の血清抗体価に比して児の血清抗体価が著しく高い場合を満たした症例が4例、児の血清抗体価が移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続する場合、晩期先天梅毒の症状を呈する場合を満たした症例が各1例(重複あり)認められた。

また、届出時の任意記載から母親の届出票が同定できた症例は22例中6例(27%)であった。これらの症例の年齢中央値は23歳(範囲15~27歳)であり、近年報告が倍増し、女性の梅毒報告例の主体となっている年齢層と一致していた。

先天梅毒は稀な疾患であるため、その臨床像や経過についての包括的な報告が限られており、NESIDの報告による一例一例の把握が重要である。母子感染予防のためには、梅毒に感染した妊婦の早期診断・治療とともに、妊婦の感染の背景にある梅毒の増加傾向を止めることが重要である。予防可能な疾患であることを念頭におき、適切な対応を検討していく必要がある。

 

参考文献
  1. 病原微生物検出情報(IASR)「梅毒2008-2014年」Vol.36 p.17-19: 2015年2月号
    http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/iasr/36/420j.pdf
  2. 感染症週報(IDWR)注目すべき感染症「梅毒 2015年4月までの報告数増加と疫学的特徴」
    http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2015/idwr2015-18-19.pdf
  3. 感染症週報(IDWR)注目すべき感染症「梅毒 2014年における報告数増加と疫学的特徴」
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/syphilis-m/syphilis-idwrc/5228-idwrc-1447.html
  4. 病原微生物検出情報(IASR)「本邦における先天梅毒の発生予防に向けて-感染症発生動向調査報告症例におけるリスク因子の検討-」Vol.34 p.113-114: 2013年4月号
    http://www.nih.go.jp/niid/ja/syphilis-m/syphilis-iasrd/3456-kj3985.html


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