国立感染症研究所

更新日:2019年5月17日

研究課題名

成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの充実化に資する研究

研究員の構成

研究責任者  大石和徳 (富山県衛生研究所所長)

鈴木 基

国立感染症研究所感染症疫学センター

センター長

黒沼 幸治

札幌医科大学医学部内科学第三講座

講師

大島 謙吾

東北大学大学院医学系研究科

助教

武田 博明

済生会山形済生病院Total Quality Management センター

センター長

田邊 嘉也

新潟大学医歯学総合研究科

非常勤講師

西 順一郎

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野

教授

藤田 次郎

琉球大学大学院 感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科)

教授

丸山 貴也

独立行政法人国立病院機構三重病院

内科医師

笠原 敬

奈良県立医科大学大学院感染症センター

病院教授

窪田 哲也

高知大学医学部・内科学呼吸器内科

準教授

渡邊 浩

久留米大学医学部臨床感染医学部門

教授

砂川 富正

国立感染症研究所感染症疫学センター第二室

室長

神谷 元

国立感染症研究所感染症疫学センター第一室

主任研究官

土橋 酉紀

国立感染症研究所感染症疫学センター第二室

主任研究官

村上 光一

国立感染症研究所感染症疫学センター第五室

室長

金城 雄樹

東京慈恵会医科大学細菌学講座

教授

常 彬

国立感染症研究所細菌第一部第三室

主任研究官

池辺 忠義

国立感染症研究所細菌第一部第三室

主任研究官

高橋 英之

国立感染症研究所細菌第一部第五室

室長

1.研究の目的と概要

本研究の目的は、侵襲性肺炎球菌感染症(IPD), 侵襲性インフルエンザ菌感染症(IHD), 侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD),劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の感染症法上の発生動向を解析し、届け出症例の患者情報と原因菌を医療機関と自治体の協力のもとに収集し、各疾患の感染症発生動向と原因菌の血清型や遺伝子型等の関連性を明らかにすることにある。

上記4疾患では患者の致命率が高いことから、公衆衛生対策が必要である。本研究では、IPD, IHD, STSSについては国内10道県で、IMDについては全国47都道府県の医療機関と自治体の連携体制により、患者及び病原体の積極的サーベイランスを実施し、ワクチンの効果、感染症発生動向に関連する原因菌の病原性因子の変化を前向きに評価する。

本研究の経緯としては、平成25〜27年度の厚生労働科学研究費補助金「成人重症肺炎サーベイランス構築に関する研究(H25-新興-指定-001)」において構築した成人IPD,IHDの積極的サーベイランス体制に、平成28〜30年度に厚生労働科学研究費補助金「成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの構築に関する研究」においてIMD,STSSを追加した患者及び病原体の積極的サーベイランスを構築した。

平成31年度4月からは令和4年3月までの3年間に厚生労働科学研究費補助金「成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの充実化に資する研究(19HA1005)」においては、構築された4疾患のサーベイランスを用い各疾患の症例の情報収集を更に強化し、公衆衛生施策に資するエビデンスを構築することを目的としている。

2.研究の方法

(1)実施場所、研究の流れ、研究対象

  • 国内の10道県(北海道、宮城県、山形県、新潟県、三重県、奈良県、高知県、福岡県、鹿児島県、沖縄県;全国の18%の人口を占める)において、感染症法に基づく感染症サーベイランスシステム(以下、NESIDと略す。)に届出された成人IPD,IHD,STSS症例を登録し、その基本情報を各自治体から研究分担者に報告する。成人IMDについては年齢に関係なく全国47都道府県において、NESIDに届出された症例を登録し、その基本情報を各自治体から研究分担者に報告する。研究分担者は医療機関から患者症例記録票と原因菌株を、自治体を経由して収集する。分担研究者は自治体と医療機関と協力のもとにNESID上の匿名化された患者情報及び医療機関の患者診療録から症例記録票を作成する。
  • 分離株の収集と検査:地衛研は医療機関で分離された血液、髄液などの無菌的検体由来の菌株を収集し、感染研にゆうパックで送付しする。感染研では原因菌の血清型および遺伝子型(MLSTなど)を実施する。原因菌の解析結果を地衛研または分担研究者経由で医療機関の担当者に報告する。
  • 研究対象: a. IPD,IHD,IMD症例: 血液、髄液などの無菌的検体から肺炎球菌、インフルエンザ菌あるいは髄膜炎菌が分離された症例で、臨床的に肺炎(画像診断を含む)、敗血症、髄膜炎と診断された症例。 b. STSS症例:血液、髄液などの無菌的検体からβ溶血性レンサ球菌が分離され、かつ「ショック症状」に加え、「肝不全、腎不全、急性呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、軟部組織炎、全身性紅斑性発疹、中枢神経症状」のうち2つ以上を伴う症例。対象年齢は15歳以上とする。
  • 患者情報:登録症例の年齢、性別、併存症(慢性肺疾患、慢性腎疾患、慢性肝疾患、糖尿病、自己免疫性疾患、悪性疾患、無脾症など)、免疫抑制剤投与、ステロイド剤投与、喫煙歴、飲酒歴、先行するインフルエンザウイルス感染、ワクチン接種歴 (23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン,13価結合型肺炎球菌ワクチン,4価髄膜炎菌ワクチンなど)、病型、重症度、転機、原因菌の性状等について記録する。

(2)研究実施施設

  • 感染研感染症疫学センター、細菌第一部、地方衛生研究所、保健所、各医療機関(主に呼吸器内科および総合内科)が研究フィールドとなる。臨床情報および原因菌の解析は、感染研(感染症疫学センターおよび細菌第一部)、地方衛生研究所が研究施設となる。
  • 医療機関で分離された血液、髄液などの無菌的検体あるいは喀痰由来菌株を保健所経由、あるいは医療機関から直接、感染研にゆうパックで送付し、感染研細菌一部で血清型およびMLST検査を実施する。また、地研では肺炎球菌のserotyping multiplex PCR検出を実施する。

3.研究期間

平成31年4月〜令和4年3月までの期間に、10道県における成人IPD,IHD,STSSと全47都道府県における全年齢のIMDを対象とした、医療機関と自治体を結ぶサーベイランス体制を充実させ、精度の高い患者及び病原体サーベイランスを構築する。

4.分担研究者の役割分担

1.研究代表者 大石和徳:研究統括、IPDの疫学情報の解析

2.研究分担者 鈴木 基:小児〜成人IPDの血清型別罹患率の評価

3.研究分担者 砂川富正:IHDの疫学情報の解析

4.研究分担者 神谷 元:IMDの疫学情報の解析

5.研究分担者 土橋酉紀:STSSの疫学情報の解析

6.研究分担者 黒沼幸治:北海道における登録症例情報収集

7.研究分担者 大島謙吾:宮城県における登録症例情報収集

8.研究分担者 武田博明:山形県における登録症例情報収集

9.研究分担者 田邊嘉也: 新潟県における登録症例情報収集

10.研究分担者 丸山貴也:三重県における登録症例情報収集

11.研究分担者 笠原 敬:奈良県における登録症例情報収集

12.研究分担者 窪田哲也:高知県における登録症例情報収集

13.研究分担者 渡邊 浩:福岡県における登録症例情報収集

14.研究分担者 西 順一郎:鹿児島における登録症例情報収集

15.研究分担者 藤田次郎:沖縄県における登録症例情報収集

16.研究分担者 村上光一:インフルエンザ菌の血清型決定を含む細菌学的検討

17.研究分担者 常 彬:肺炎球菌の血清型決定を含む細菌学的検討

18.研究分担者 金城雄樹:肺炎球菌分離株のPspA cladeの分布

19.研究分担者 池辺忠義:β溶血性レンサ球菌の細菌学的検討

20.研究分担者 髙橋英之:髄膜炎菌の血清型決定を含む細菌学的検討

5.倫理的配慮

(1) 研究の意義を明確にし、研究によって生ずる危険性と医学上の成果の総合的判断  

本研究は、NESIDに基づいて得られたIPD, IHD, STSS, IMDの匿名化された患者情報から、患者情報を医療機関に保管されている患者の過去の診療録から調査し、また患者からの分離菌株を収集する。過去の入院患者に追加情報を求める場合でも、新たに患者に侵襲を加えるものではない。通常の診療の範囲を通じて得られた患者情報および患者からの分離株をもとに行う観察研究であり、介入は行わない。医療機関研究担当者はHelsinki宣言に法り、患者の尊厳を守り、症例記録票では患者氏名は連結可能匿名化するため、プライバシーは保護される。

(2) 研究対象者(試料等提供者を含む)個人の情報保護とその家族の人権擁護  

本研究は既存情報を基にした後ろ向き研究であるため、患者に対して研究参加の同意を求めるものではない。また、患者情報については診療録から匿名化して情報を抽出し、解析および発表において個々の患者が同定されることはないため、患者に対する不利益は無い。

(3) 研究対象者(試料等提供者を含む)への説明の内容と同意の確認方法  

本研究は既存の診療情報を用いる研究であるため、インフォームドコンセントの必要性は該当しない。診療録情報の不足について患者へ主治医から問い会わせを行う場合があるが、過去の診療情報を補完するものであり、疫学研究の倫理指針に照らして研究参加の同意は必ずしも必要ない。研究計画については内容を感染研感染症疫学センターのホームページ(http://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html)に公表し、患者から拒否の申し出があった場合にはこれに対応する。

(4) その他参考となるべき事項  

各地域の共同研究機関においては倫理審査を行わず、国立感染症研究所において一括して行う。国立感染症研究所における倫理申請は平成31年3月に承認されている(受付番号:989、研究機関:平成31年4月〜令和4年3月)。

6.研究の資金源

平成31年度からの厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症及び予防接種制作推進研究事業)「成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの充実化に資する研究(19HA1005)」によって実施する。

7.研究成果

  1. Shimbashi R, Chang B, Tanabe Y, Takeda H, Watanabe H, Kubota T, Kasahara K, Oshima K, Nishi J, Maruyama T, Kuronuma K, Fujita J, Ikuse T, Kinjo Y, Suzuki M, Kerdsin A, ShimadaT, Fukusumi M, Tanaka-Taya K, Matsui T, Sunagawa T, Ohnishi M, Oishi K, and the Adult IPD Study Group. Epidemiological and clinical features of invasive pneumococcal disease caused by serotype 12F in adults, Japan. PLoS ONE 2019 Feb 21;14(2):e0212418. doi: 10.1371/journal.pone.0212418. (http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0212418)
  2. Ikuse T, Habuka R, Wakamatsu Y, Nakajima T, Saitoh N, Yoshida H, Chang B, Morita M, Ohnishi M, Oishi K, Saitoh A. Local outbreak of Streptococcus pneumoniae serotype 12F caused by high morbidity and mortality among children and adults. Epidemiol Infect 146:1793-6,2018 (https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/A782A90B6C0EBA6233A8D1F374420E83/S0950268818002133a.pdf/local_outbreak_of_streptococcus_pneumoniae_serotype_12f_caused_high_morbidity_and_mortality_among_children_and_adults.pdf)
  3. Fukusumi M, Chang B, Tanabe Y, Oshima K, Maruyama T, Watanabe H, Kuronuma K, Kasahara K, Takeda H, Nishi J, Fujita J, Kubota T, Sunagawa T, Matsui T, Oishi K, the Adult IPD Study Group. Invasive pneumococcal disease among adults in Japan, April 2013 to March 2015: disease characteristics and serotype distribution. BMC Infect Dis 2017 Jan 3;17(1):2. doi: 10.1186/s12879-016-2113-y. (https://bmcinfectdis.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12879-016-2113-y)

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