国立感染症研究所

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富山県における小学生を中心とした百日咳の流行

(IASR Vol. 38 p.25-26: 2017年2月号)

はじめに

百日咳は, ワクチンの定期接種により幼児の患者数は減少しているが, 近年, 青年や成人の患者数の増加1)や小中学生の集団感染事例2,3)も報告されており, ワクチンによる免疫防御効果の減衰がその理由と考えられている。今回我々は, 富山県において小学生を中心とした百日咳の流行を経験したので報告する。

集団発生の概要

2015年11月初旬頃より市内の複数の小中学校の生徒が長期間続く咳を主訴に当院を受診し, 複数人が百日咳と確定診断された。百日咳の地域の流行の可能性について厚生センターに報告し, 市の医療課からは学校および保育園の保健担当者を通じて百日咳に対する注意喚起が行われた。2016年に入り, 患者は減少し, 2016年3月以後新たな患者の発生は認めなかった。

対象および方法

2015年10月~2016年3月に遷延する咳嗽を主訴に当院を受診した小児56例を対象に百日咳の検査診断を行った。検査方法として, 後鼻腔ぬぐい液の菌培養検査, LAMP法による遺伝子検査, 血清中のPT-IgG抗体価測定を行った。菌分離した4株は富山県衛生研究所および国立感染症研究所に遺伝子解析を依頼した。

結 果

市内の3地域(A~C)における6施設(A小学校・A中学校, B保育園・B小学校・B中学校, C小学校)の園児および生徒24例が百日咳と実験室診断された。検査法別の内訳は, 単血清15例, ペア血清6例, 菌分離4例, LAMP法4例(重複含む)であった。2015年11月初め~12月末までにほとんどの患者が集中していた(図1)。

確定診断された24例の年齢は1~13歳(平均9.3歳), このうち10歳が10例(42%)と突出しており, 2つの小学校の4年生2クラスに各々3名の患者が集中した(図 2)。臨床症状は, 23例に発作性の咳込みを認め, このうち12例に夜間の咳込み, 6例に咳込み後の嘔吐, 1例に吸気困難を認めた。24例には3組の兄弟姉妹6例が含まれ, このほかに家族に遷延性咳嗽を有した者が3例認められた。1例の不明例を除く23例がワクチン3回以上接種後であった。

B中学校とC小学校の生徒から分離された百日咳菌4株の遺伝子解析の結果, PFGEパターンはほぼ同一であり, MLVA型はMT27aと近年日本で増加傾向にある遺伝子型であった4)図3)。学校や保育園での施設内および家族内感染により, 同一菌株による百日咳菌が地域で流行したと推定された。

考 察

百日咳のワクチン定期接種が, 幼児の百日咳の予防に効果的であることは議論を挟む余地は無い。しかしながら, 近年わが国でも用いられている無細胞ワクチンが比較的早期にその効果が低下することが報告されている。わが国においては, 1歳までに3回(4種混合として), 1歳時に4回目の接種を受けることとなっている。

メタ解析5)や大規模臨床研究6)の結果からは, 接種終了後4年後には約半数が, 8年後には90%ほどが, ワクチンによる防御効果が消失するとの報告もある。今回経験した地域での百日咳の流行では, 従来集団感染の主体と考えられていた中高生よりもさらに低年齢の小学校でその発生が多く認められた。これは, ワクチン接種後の免疫減弱がこれまで考えられていた以上に早期に消失するというデータに合致する結果と考えられる。

百日咳は, ワクチン未接種の乳幼児以外では典型的な症状を示さないことが多い。2016年11月に百日咳菌核酸検出LAMP法が保険適用となり7), 早期診断に繋がるものと期待される。一方で, 気道感染症状のある患者すべてに検査をすることは不可能であり, 遷延性咳嗽などの臨床症状の他に, 患者周囲の類似する症状を有する者の有無など疫学的情報の収集に努め, 同様の症状を示す者も含めて積極的に検査を行う必要があると考えられる。

 

参考文献
  1. IASR 33: 321-322, 2012
  2. 宮野孝一ら, IASR 32: 340-341, 2011
  3. 額賀俊介ら, IASR 36: 142-143, 2015
  4. Miyaji Y, et al., PLoS One 8: e77165, 2013
  5. McGirr A, et al., Pediatrics 135: 331-343, 2015
  6. Schwartz KL, et al., CMAJ 188: E399-406, 2016
  7. Kamachi K, et al., J Microbiol Methods 133: 20-22, 2016

公立南砺中央病院 前田恵美 渡辺麻香
同 小児科 犀川朋子
金沢医科大学臨床感染症学 飯沼由嗣 薄田大輔
富山県衛生研究所 磯部順子 綿引正則
国立感染症研究所細菌第二部 平松征洋 蒲地一成

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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