国立感染症研究所

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インフルエンザ検査体制の変更に伴う検査実施状況-埼玉県

(IASR Vol. 37 p.227-228: 2016年11月号)

2016(平成28)年4月から,改正感染症法が完全施行され,インフルエンザの検体採取が法的に定められた。これを受け,埼玉県では,埼玉県感染症発生動向調査事業実施要綱を改正,さらに埼玉県病原体サーベイランス実施要領を新たに策定し,病原体情報収集体制を強化した。改正法完全施行から6カ月が過ぎ,埼玉県衛生研究所への検体の搬入状況に例年に比べ大きな変化がみられている。本稿では,インフルエンザに限定して,平成28年4月からのウイルス検査状況を報告する。なお,検体数には中核市からの依頼検査分も含み,さいたま市分は除いている。

平成28年1月~9月までのインフルエンザ検体数およびインフルエンザウイルスの亜型別検出数の推移を患者報告数の推移とともに図1に示した。改正感染症法施行前の1月~3月(第1週~第12週)の検体数は,患者報告数の推移に沿って増減していくという,例年通りの推移であった。例年であれば,流行が4月にまでずれ込んでも,採取される検体数は漸減する傾向であったが,平成28年4月(第13週~第17週)は,患者報告数の推移とは逆に,3月よりも検体数が増加した。法改正により患者報告数が1以上の流行期には,指定されたインフルエンザ定点医療機関は週に少なくとも1検体を提出することになり,第17週まで患者報告数が1以上で,4月は依然としてインフルエンザ流行期であった埼玉県では,検体数が増加したものと考えられた。

平成28年4月~9月までに採取された検体を患者年齢階級別にみると,0-9歳が36%と最も多く,10-19歳が18%,20歳以上が46%であった(図2)。小児だけでなく成人からの検体採取も問題なく行われたと考えられた。

非流行期となった5月~9月の検体搬入状況をみると,5月前半(第18週,第19週)は,検体搬入があったが,5月後半以降は,ほとんど検体搬入はなかった。非流行期には医療機関でインフルエンザを疑う患者がなかったということであり,患者情報とも一致している。病原体サーベイランスについては発生動向調査事業実施要綱でインフルエンザにはインフルエンザ様疾患も含む,とされているが,インフルエンザ様疾患の症例定義が明確にされていないため,積極的な検体採取はなされなかったと思われる。しかし,インフルエンザ様疾患の定義を,発熱と呼吸器症状がひとつあればよい,等とかなり広くすると,たとえばRSウイルス感染症を疑ったが迅速キットが陰性であったもの等も含まれることになる。インフルエンザの中に症例定義の異なる疾患が混在することになり,解析する上で混乱を招く恐れがある。一方,定義を狭くすると,非流行期に感染症発生動向調査事業実施要綱の規定に準じた検体数の収集が困難となる。非流行期のインフルエンザ検体採取については,全国データとして解析が行われるという前提を考慮し,症例定義,検体採取基準等の検討が必要である。また,今後,患者報告数が1以上になった流行期間においても,恒常的かつ計画的な検体数が採取されることが,解析上重要であり,関係機関との連携は一層必要となってきている。


埼玉県衛生研究所
 篠原美千代 内田和江 岸本 剛

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