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SFTSのヒト-ヒト感染事例について(文献レビュー)

(IASR Vol. 37 p. 48-49: 2016年3月号)

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)はSFTSウイルス(SFTSV)によるマダニ媒介感染症である1)。SFTSVのヒトへの感染経路はSFTSVを獲得したマダニの刺咬によるものが主である。一方で限定的ではあるものの、海外では家族内感染あるいは院内感染といったヒト-ヒト感染事例が報告されている。報告されたSFTSVのヒト-ヒト感染に関連する文献を収集し、結果をまとめた。

方 法
PubMed (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed)で“severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS)”に加え“person to person”または”human to human”をキーワードとして文献検索を行った。さらに、国内例については医中誌Web (http://login.jamas.or.jp/)で「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」をキーワードに用い同様の検索を行った。検索期間は2016年1月13日までとした。

結 果 
SFTSVのヒト-ヒト感染事例は、中国から10事例(9文献)、韓国から1事例(1文献)報告され、国内からの報告はなかった2-11)。初発例の年齢中央値は64.5歳(範囲:50~80歳、n=11)、男女比は1:1であった。初発例の多くは発熱・消化器症状・出血傾向を来すものが多く、全例が死亡していた。二次感染を来した症例は計58人で、年齢中央値は59.5歳(範囲:33~74歳、n=34)、男女比は1.7:1であった。うち不顕性感染例として2人が報告され、死亡例は3人であった。三次感染を来した症例はなかった。判明している潜伏期間の中央値は9日(範囲:5~14日、n=39)であった。これらの多くは家族内感染で、初発例の埋葬の際に感染したと考えられた症例が18人を占めた。

院内感染は中国から2事例、韓国から1事例報告されていた。これらの3事例では、医療関係者の感染は合計10人(医師:6人、看護師:4人)が報告された。記載のない4人を除いた6人のうち5人は心肺蘇生や気管挿管などの蘇生処置に携わっており、グローブを着用していないも者が3人、フェイスシールド/ゴーグルをしていない者が6人であった。感染経路は血液や体液との接触が大部分を占めいた。

考 察
これまでの報告では、SFTSVのヒト-ヒト感染の経路は接触感染が主であった。SFTSVは血液・尿・便等の体液から検出され、それらがヒト-ヒト感染に関与していると考えられる12)。特に、Tangらの報告では、SFTSVの感染伝播経路は血液との接触が高頻度であるほどSFTSV感染のリスクが上昇すると報告されている7)。さらに血液と接触した人の発症割合は尿・便と接触した人の発症割合に比べ高いことが報告されている10)。従って、二次感染の感染経路は血液や体液が粘膜や傷ついた皮膚を通して、二次感染をする場合が多いと考えられた。初発例は全例死亡していた。死亡例は出血傾向を来すことが多く報告されており、ヒト-ヒト感染での特徴として、死亡例の周囲の人が血液と接触する機会が多いこと、死亡例の血液中ウイルスゲノム量が生存例に比べて多いことが関係している可能性が考えられた12)。一方で、二次感染例は比較的軽症例が多く、血中のウイルス量も低い傾向にあり、転帰も良好であった8)

今回の文献レビューでは家族内でのヒト-ヒト感染が多くみられた。中国では感染患者の介護や埋葬の際に何らかの形で患者の血液や体液に触れ、二次感染が発生した事例が報告されていた9)。院内感染事例は、症例の多くが心肺蘇生や気管挿管などの蘇生処置に関わっていた。韓国の報告によると、呼吸器分泌物や血液に曝露された人が発症する傾向にあり、適切な防護をせずに処置をした場合に感染するリスクが高かったことが報告されている11)。一方で、SFTS患者に接触した医療従事者に血清抗体価測定を含む接触状況調査が実施され、対象者全員がSFTSV抗体陰性であった。このことから医療従事者の適切な防護は院内感染防止に有効であると考えられた。

日本においては、家族内発症例が2事例(4症例)報告されているものの、4症例ともダニの刺咬歴があり、明らかなヒト-ヒト感染を疑わせる報告はない13,14)。また、山口県の1医療機関においてSFTS患者に接触した医療従事者の血清抗体価測定を含む接触状況調査が実施され、対象者全員がSFTSV抗体陰性であった15)。現在のところ、日本においてSFTSVの家族内でのヒト-ヒト感染事例の報告はないが、患者との接触によるヒト-ヒト感染が発生する可能性は否定できない。医療機関において、SFTS疑い患者や確定患者に接する際はグローブ、ガウン、マスク、必要な場合にはゴーグル、フェイスシールド等を着用し、接触予防策を確実に実施する必要がある。さらに、エアロゾルが発生する可能性のある処置を行う場合は、空気感染対策も考慮に入れた診療にあたることが必要であると考えられた。

 
参考文献
  1. Yu XJ, et al., N Engl J Med 364(16): 1523-1532, 2011
  2. Bao CJ, et al., N Engl J Med 365(9): 862-863; author reply 864-865, 2011, Available from: http://www.ncbi.nlm.nih. gov/pubmed/21879913
  3. Bao CJ, et al., Clin Infect Dis 53(12): 1208-1214, 2011
  4. Gai Z, et al., Clin Infect Dis 54(2): 249-252, 2012
  5. Liu Y, et al., Vector-Borne Zoonotic Dis 12 (2): 156-160, 2012
  6. Chen H, et al., Int J Infect Dis 17(3): 2012-2014, 2013
  7. Tang X, et al., J Infect Dis 207(5): 736-739, 2013
  8. Wang Y, et al., Intern Med 53(8): 903-906, 2014
  9. Gong Z, et al., Clin Microbiol Infect 21(12): 1115-1120, 2015
  10. Jiang XL, et al., Clin Microbiol Infect 21(3): 274-279, 2015
  11. Kim WY, et al., Clin Infect Dis 60(11): 1681-1683, 2015
  12. Zhang YZ, et al., Clin Infect Dis 54(4): 527-533, 2012
  13. 武田志穂, 他, 愛媛臨検技会誌 34: 55-61, 2015
  14. 本間義人, 他, IASR 34: 312-313, 2013
  15. 高橋 徹, 他, IASR 34: 269-270, 2013

国立感染症研究所感染症疫学センター
  加藤博史 八幡裕一郎 砂川富正 大石和徳

 

 

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