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中国・韓国におけるSFTS流行状況:更新情報

(IASR Vol. 37 p. 47-48: 2016年3月号)

中国におけるSFTS
2010年以降、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の年間患者数は増加を続け1)、2014年までに約3,500人のSFTS患者が報告されている2)。湖北省・安徽省・河南省にわたる地域と、特に山東省内の2地域に患者が多く発生している1)

患者が示す症状や一般検査結果の傾向は以前と変わっておらず、発熱、食欲不振、筋肉痛は8割以上の患者で、リンパ節腫脹は約4割の患者で認められる。血中酵素値(LDH、AST、ALT、CK)は8割以上の患者で増加し、末梢血液検査における血小板数減少や白血球減少が9割以上の患者で認められる。患者年齢は8か月~93歳と幅広いが、40歳以上が9割を占めること、農業従事者が8割以上を占めること、発症時期は3~11月でピークは5~7月であること、のいずれも以前と変わっていない2,3)

一方、致命率は年々減少しているが、これは検査法の普及や疾患の啓発活動による可能性がある1)。平均の致命率をLiは7.8%と報告している2)が、Guoらは退院後の追跡調査も含めて12.2%と算出している3)。死亡との関連が強い因子として年齢と発症から入院までの日数があげられている3)

SFTSの治療薬として様々なウイルスの増殖を抑制することで知られるリバビリンがSFTS患者に用いられたが、致命率の改善および症状の改善は認められなかった4)

健常人における抗体保有率は地域により異なるが(0.44~6.37%)、平均で3.0%である2,3)。患者が多く発生する地域では健常人における抗体保有率も高いとされる3)。SFTSウイルス(SFTSV)に感染するリスク因子として気候(気温、降雨量、湿度)・標高・緑地度・ダニ密度・ウシ密度が挙げられている1)

韓国におけるSFTS
2012年8月の患者の発症(死亡例)が韓国における後方視的調査により初めて確認された事例である5)。2013年3月より国レベルの前方視的調査が行われ、2013年には36名(うち17名死亡)、2014年には55名(うち15名死亡)の患者発生があった6)(済州大学校Lee教授私信)。

2013年の患者データでは、年齢は28~84歳(中央値69歳)、居住地は農村部が74%、職業は農業が71%、発症時期は5~11月である。症状は発熱もしくは悪寒(100%)、消化器症状(94%)、疲労(74%)、筋肉痛(54%)が高頻度で認められる。血液検査では血小板減少、白血球減少、肝酵素値上昇が高頻度で認められる。これらは中国におけるデータと傾向は似ている。一方、韓国のSFTSにおける致命率(Shinらの報告では2013年は46%)、神経症状の出現頻度(77%)は高く、人口当たりの発生率(100万人当たり0.7人)は低い。この大きな差の原因は明らかではない。2014年には院内感染事例が1件発生している7)(本号10ページ参照)。家族内感染事例の報告はない。

韓国国内では広く患者発生が認められるが、南部に若干多い傾向がある6)。SFTS患者に付着していることが多いフタトゲチマダニの数は南部に多い傾向があり8,9)、さらにマダニにおけるSFTSVの保有率も南部に多い傾向があるとの報告と一致する10)

SFTSVはその遺伝子情報から大別して中国でよく分離されるものと日本でよく分離されるものの2グループに分けることができる11)。韓国の患者および周辺のマダニから分離もしくは検出されるSFTSVは約25%が中国グループ、残り75%は日本グループである5,12,13)

治療としてリバビリン投与、免疫グロブリン投与、血漿交換を行っても予後は変わらないとする報告がある6)。その一方、SFTS患者2人に血漿交換/リバビリン投与を併用し回復したとの報告もある14)


参考文献

  1. Liu, et al., Sci Rep 5: 9679, 2015, doi:10.1038/srep09679
  2. Li, Clin Microbiol Infect 21(7): 614-620, 2015, doi:10.1016/j.cmi.2015.03.001
  3. Guo, et al., Epidemiol Infect 2015, 1-10
  4. Liu, et al., Clin Infect Dis 57(9): 1292-1299, 2013, doi:10.1093/cid/cit530
  5. Kim, et al., Emerg Infect Dis 19(11): 1892-1894, 2013, doi:10.3201/eid1911.130792
  6. Shin, et al., Emerg Infect Dis 21(10): 1704-1710, 2015, doi:10.3201/eid2110.141928
  7. Kim, et al., Clin Infect Dis 60(11): 1681-1683, 2015, doi:10.1093/cid/civ128
  8. Ko, et al., J Vet Sci, 11(3): 197-203, 2010
  9. Yun, et al., Osong Public Health Res Perspect 3(4): 213-221, 2012, doi:10.1016/j.phrp.2012.10.004
  10. Park, et al., Ticks Tick Borne Dis 5(6): 975-977, 2014, doi:10.1016/j.ttbdis.2014.07.020
  11. Yoshikawa, et al., J Infect Dis 12(6): 889-898, 2015, doi:10.1093/infdis/jiv144
  12. Yun, et al., Am J Trop Med Hyg 93(3): 468-474, 2015, doi:10.4269/ajtmh.15-0047
  13. Yun, et al., Vector Borne Zoonotic Dis 16 (1): 66-70, 2016, doi:10.1089/vbz.2015.1832
  14. Oh, et al., Int J Infect Dis 18: 84-6, 2014, doi:10.1016/j.ijid.2013.08.011

国立感染症研究所ウイルス第一部 下島昌幸

 

 

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