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国内の発生動向調査よりみられるSFTSの疫学情報

(IASR Vol. 37 p. 41-42: 2016年3月号)

重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)は2013年1月に日本で初めて報告され1)、同年3月4日に感染症法上で全数把握対象の4類感染症に指定された。2016年2月24日までに感染症発生動向調査で届出られた患者報告数は170例(法律施行以前に診断された4例を除く)であり、これらの症例についての届出時点の疫学情報をまとめた。分析上の制約として、発生動向調査により届出られた情報は必ずしも標準化されていないことから、結果の解釈には注意を要する。

2012年以前に発症した8例、2013年40例、2014年61例、2015年60例、2016年1例のSFTS患者が届出られた。患者の発生は通年に見られるが、特に5月~8月に多く、冬期には少ない(本号1ページ図1参照)。届出地域は、西日本を中心とした20府県からであり、患者が多い順に宮崎県(27例)、愛媛県(20例)、高知県(18例)である(本号2ページ図2参照)。性別は男性が77例(45%)、女性が93例(55%)で、年齢は60代以上に多かった(5~95歳、年齢中央値74歳)。届出時点における生存例124例のうち男性は55例(44%)で、年齢中央値は71.5歳であった。死亡例46例(27%)のうち男性は22例(48%)で、年齢中央値は81歳と、死亡例は高齢者により多かった(本号2ページ図3参照)。感染推定日から発症日までの期間は中央値5日(四分位範囲3~7日、n=60)であり、発症から死亡までの日数の中央値は8日(四分位範囲6~10日、n=46)であった。症状は発熱が168例(99%)、消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐、食欲不振のいずれか)が150例(88%)に認められ、血液検査では、血小板減少が162例(95%)、白血球減少が150例(88%)に認められた()。マダニの刺し口が認められたものは66例(39%)であったが、自己申告があったものを含めると、マダニに咬まれる機会があった症例は154例(90%)であった。職業は無職が96例(56%)と最も多く、次いで農業・林業が37例(22%)であった。

日本国内におけるSFTSの流行時期、死亡例が高齢者に多いという特徴は、中国や韓国からの報告と同様である。死亡例は46例(27%)報告されている(あくまで届出段階での死亡の有無による)。海外における致命率の報告は、中国では7.8~12.2%、韓国では46%となっており、各国で差がみられる2-4)。報告症例においては、生存例、死亡例における性差に有意差はなく、中国や韓国からの報告でも明らかな性差は認められていない2,4)。感染推定日から発症までの期間は5日(四分位範囲3~7日)となっており、潜伏期間についての中国や韓国からの報告と比較するとやや短い傾向であるが、発症から死亡までの期間は8日(四分位範囲6~10日)と、中国や韓国からの報告と同様である4-6)。臨床所見としては、感染症発生動向調査の届出症例定義に含まれている、発熱、消化器症状、血小板減少、白血球減少がほとんどの症例で認められており、また死亡例においては、神経学的症状および、出血傾向、紫斑、消化管出血の症状が有意により多く認められた(Fisher正確検定、p<0.05)。これらの所見はこれまでの報告と同様である4,6)。職業は年齢を反映してか無職が多いが、次いで農業・林業従事者の感染が多く、畑や森林において感染したものと推定される症例が多い。マダニの刺し口が確認された例は66例(39%)となっており、刺し口が認められないSFTS症例が半数以上にのぼる。マダニ刺咬の有無にかかわらず、マダニとの接触が疑われ、上記に挙げた特徴的な症状を呈する患者を診た医師は積極的にSFTSを疑う必要がある。

 
参考文献
  1. Takahashi T, et al., J Infect Dis 209: 816- 827, 2014
  2. Guo CT, et al., Epidemiol Infect 2015, 1-10
  3. Li DX, Clin Microbiol Infect ; 21: 614-620, 2015
  4. Shin J, et al., Emerg Infect Dis 21: 1704- 1710, 2015
  5. Gai ZT, et al., J Infect Dis 206: 1095-1102, 2012
  6. Weng Y, et al., Braz J Infect Dis 18: 88-91, 2014


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