国立感染症研究所

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2013/14シーズンのインフルエンザ予防接種状況および2014/15シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況-2014年度感染症流行予測調査より

(IASR Vol. 36 p. 214-217: 2015年11月号)

はじめに
感染症流行予測調査事業は厚生労働省健康局結核感染症課を実施主体とする事業であり、感受性調査(抗体保有状況調査)に関しては2013年4月から予防接種法に基づく調査となった。

毎年、健康局長通知に基づいて全国の都道府県と国立感染症研究所が協力して実施しており、そのうちのインフルエンザ感受性調査は、インフルエンザの全国的な流行が始まる前にインフルエンザに対する国民の抗体保有状況を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対するワクチン接種の検討等の注意喚起、ならびに今後のインフルエンザ対策における資料とすることを目的としている。

対象と方法
2014年度のインフルエンザ感受性調査は、北海道、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、山口県、愛媛県、高知県、佐賀県、熊本県、宮崎県の25都道府県から各198名、合計4,950名を対象とし、2014年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)の採血時期を原則として実施された(予防接種歴調査は上記都道府県の他、宮城県、福岡県でも実施された)。

インフルエンザに対する抗体価の測定は、対象者から採取された血清を用い、調査を実施した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。また、HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は1)A/カリフォルニア/7/2009[A(H1N1)pdm09]、2)A/ニューヨーク/39/2012[A(H3N2)]、3)B/マサチュセッツ/2/2012[B型(山形系統)]、4)B/ブリスベン/60/2008[B型(ビクトリア系統)]の4つであり、このうち1)~3)は2014/15シーズンにおけるインフルエンザのワクチン株として選ばれたウイルス、4)は2014/15シーズンのB型ワクチン株とは異なる系統の代表として選ばれたウイルス(2009/10~2011/12シーズンのB型ワクチン株)である。

結 果
1)2013/14シーズンにおけるインフルエンザ予防接種状況
2014年度の調査において2013/14シーズン(前シーズン)の予防接種状況について調査が行われ、7,909名の結果が得られた。図1には1回接種者、2回接種者、回数不明接種者、未接種者、接種歴不明者の割合を年齢あるいは年齢群別に示した(上段:接種歴不明者を含む、下段:接種歴不明者を含まない)。接種歴が不明であった者はすべての年齢層で1~2割程度存在し、これら接種歴不明者を除いた6,745名についてみると、1回以上の接種歴を有していたのは全体で51%(1回接種者:28%、2回接種者:13%、回数不明接種者:10%)であった。年齢あるいは年齢群別にみると、0歳はほとんどが未接種者であり、1歳でも約7割は未接種者であった。しかし、2歳以降は多くの年齢層で半数以上の者に1回以上の接種歴があった。また、2回の接種が推奨されている1~12歳の2回接種者の割合をみると、接種回数が明らかな者(1回および2回接種者)の中では57~91%が2回接種者であり、他の年齢層(5~45%)と比較して高かった。

2)2014/15シーズン前のインフルエンザ抗体保有状況
2014年度は合計で6,805名の対象者について結果が報告された。0歳以降5歳ごとの各年齢群において、0歳~30代は概ね500名以上、40代~60代前半は約300~400名の結果が得られたが、60代後半および70歳以上では100名前後の結果であった。図2には調査株別の年齢群別インフルエンザ抗体保有状況を示した。なお、本稿における抗体保有率とは、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率とした。

A(H1N1)pdm09:A/カリフォルニア/7/2009に対する抗体保有率を年齢群別にみると、5歳~20代の各年齢群では70%以上と高く、特に10代~20代前半は75%以上であった。また、30代~50代の各年齢群は概ね50%前後であったが、0~4歳群および60歳以上の各年齢群は40%未満の抗体保有率であった。

A(H3N2):A/ニューヨーク/39/2012についてみると、5歳~20代の各年齢群の抗体保有率が他の年齢群と比較して高い傾向はA(H1N1)pdm09と同様であったが、抗体保有率のピークはA(H1N1)pdm09より年少側の10~14歳群であった。また、30歳以上のすべての年齢群で概ね40~50%台の抗体保有率を示し、40%未満は0~4歳群のみであった。

B型(山形系統):B/マサチュセッツ/2/2012では20代の75%をピークに10代~40代の各年齢群で概ね50%以上の抗体保有率であった。しかし、10歳未満および50歳以上の各年齢群は40%未満であり、特に0~4歳群および60歳以上の各年齢群は30%未満の抗体保有率であった。

B型(ビクトリア系統):B/ブリスベン/60/2008に対する抗体保有率についてみると、抗体保有率が最も高かったのは40~44歳群であり、他の調査株と明らかに異なる傾向がみられた。また、多くの年齢群で40%未満の抗体保有率であり、特に0~4歳群、25~29歳群、60歳以上の各年齢群は30%未満であった。

3)インフルエンザ抗体保有状況の年度別比較
2014年度調査結果と過去5年度分のインフルエンザ抗体保有状況について図3に示した。

A(H1N1)pdm09は2009年度から6年続けて同じ調査株が用いられた。2009年度はほとんどの年齢群で20%未満(多くは10%未満)の抗体保有率であったが、2010年度はすべての年齢群で抗体保有率が上昇し、特に5~24歳の各年齢群では大きく上昇した。さらに2011年度もすべての年齢群で抗体保有率の上昇がみられた。2012~2013年度は多くの年齢群で2011年度の調査結果とほぼ同等であったが、2014年度は再び抗体保有率が上昇し、約半数の年齢群で前年度より上昇していた。

A(H3N2)については、6年間で5つの調査株が用いられていることから一概に比較することはできないが、2012年度はすべての年齢群で前年度より抗体保有率が低下していた。一方、2013年度および2014年度はそれぞれ前年度の調査結果と比較して、ほとんどの年齢群で抗体保有率が上昇し、2014年度はほとんどの年齢群で2009年度以降で最も高い抗体保有率を示した。

B型(山形系統)は2年ずつ3つの調査株が用いられ、2009~2010年度にかけては抗体保有率が低下していたが、2011~2012年度および2013~2014年度では多くの年齢群で抗体保有率の上昇がみられた。

B型(ビクトリア系統)の調査株は2009~2014年度で同じであり、2012年度までは前年度より抗体保有率の上昇がみられたが、2013年度はほとんどの年齢群で前年度より抗体保有率が低下し、2014年度は多くの年齢群でさらに低下していた。

考 察
インフルエンザの抗体保有率に影響を及ぼす要因として、通常、ワクチン接種や罹患は抗体保有率の上昇要因と考えられるが、ワクチンによる抗体持続は半年程度とされていることから、前シーズンに受けたワクチン(主に前年10~12月に接種)の効果は当該年度の調査(主に7~9月に採血した血清を使用)ではみられない可能性がある。また、調査以前に流行したウイルスと当該年度の調査に用いたウイルスの抗原性が似ている場合、罹患による抗体保有により抗体保有率は上昇すると考えられるが、同じ型(亜型、系統)であっても抗原性が異なる場合、保有する抗体と調査株との反応性が低く、結果として抗体保有率が低下する可能性もある。さらに、抗原性が似ているウイルスの流行規模や流行期間の長さなども抗体保有率の変動に影響すると考えられる。

A(H1N1)pdm09において、2010年度、2011年度、2014年度の調査で抗体保有率が前年度より上昇していたのは、それぞれ2009/10シーズン、2010/11シーズン、2013/14シーズンにみられた同亜型(A/カリフォルニア/7/2009類似株)を主流とした流行の影響と考えられた。また、2012~2013年度の調査結果は2011年度とほぼ同等であったが、これは2011/12~2012/13シーズンにおける同亜型の流行がきわめて小規模であり、抗体保有率にほとんど影響を与えなかったためと考えられた。

A(H3N2)についてみると、2011/12シーズンは同亜型を主流とする流行がみられたが、その後に行われた2012年度の調査では抗体保有率が低下していた。これは、2011/12シーズン流行株と2012年度調査株はともにA/ビクトリア/361/2011類似株であったが、卵馴化によりワクチン株由来である調査株の抗原性が変化した影響と考えられた。一方、2013年度および2014年度の調査でみられた抗体保有率の上昇は、2012/13~2013/14シーズンにおける同亜型の流行に加え、調査株の卵馴化による抗原変異の影響が小さくなったためと考えられた。

B型(山形系統)において、同じ調査株が用いられた2009~2010年度にかけてみられた抗体保有率の低下は、2009/10シーズンに同系統の流行がみられず、またワクチン株がビクトリア系統であったためと考えられた。一方、2011~2012年度および2013~2014年度にみられた抗体保有率の上昇は、それぞれ2011/12シーズンおよび2013/14シーズンにおける流行の影響が考えられ、さらに近年のワクチン株が山形系統であった影響も考えられた。

B型(ビクトリア系統)でみられた2012年度までの抗体保有率の上昇は、2010/11~2011/12シーズンにおける同系統の流行やワクチン株に用いられていたことによる影響が考えられた。また、2012/13~2013/14シーズンにも同系統の流行はみられたが、規模が小さかったことや、同シーズンにおけるワクチン株が山形系統であったことが抗体保有率の低下に影響したと考えられた。

おわりに
2015/16シーズンは、これまでの3価ワクチン[A(H1N1)pdm09、A(H3N2)、B型(山形系統あるいはビクトリア系統のいずれか)]から4価ワクチンに変更となり、B型は両系統がワクチンに使用されている。それぞれのワクチン株はA/カリフォルニア/7/2009、A/スイス/9715293/2013、B/プーケット/3073/2013、B/テキサス/2/2013が選定され、2015年度はこの4つを調査株とした抗体価測定が実施されている。調査結果については速報としてWeb上(http://www.niid.go.jp/niid/ja/y-sokuhou/668-yosoku-rapid.html)で掲載予定である(11月中旬頃)。調査の結果、抗体保有率が低い年齢層においてはワクチン接種等の早めの予防対策が望まれる。

最後に、本調査にご協力頂いた都道府県ならびに都道府県衛生研究所をはじめ、保健所、医療機関等、関係機関の皆様に深謝申し上げます。
 

国立感染症研究所感染症疫学センター
   佐藤 弘 多屋馨子 大石和徳
 同 インフルエンザウイルス研究センター
   渡邉真治 小田切孝人
2014年度インフルエンザ感受性調査・予防接種歴調査実施都道府県
   北海道、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、
   新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、
   山口県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県、宮崎県

 

 

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