国立感染症研究所

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日本のHIV/AIDS (1985~2011年)の特徴:頻度の人口依存性とHIV感染検出パタンの感染経路による違い

(IASR Vol. 36 p. 174-175: 2015年9月号)

日本では、AIDS発症以前に感染が分かった患者を「HIV感染者」、AIDS発症以降に感染が分かった患者を「AIDS患者」、として統計を取っている。いったん「HIV感染者」として届けられると、後にAIDS発症しても統計上「AIDS患者」にはならない。従って、HIV治療薬導入によるAIDS発症の抑制、AIDS発症者の合計数、などの情報は得られないが、届出の単純さから統計は正確である。以下、エイズ動向委員会統計表(http://api-net.jfap.or.jp/status/2013/13nenpo/nenpo_menu.htm)の分析結果を紹介する。

1. HIV/AIDSの人口数人口密度依存性
日本のHIV/AIDS患者数を縦軸に都道府県人口数を横軸に、47都道府県をプロットすると、人口当たり患者数が均一であればその分布勾配は1(45度)となるが、実際にはAIDSは1.5285となり、人口増加とともに人口当たり患者数は増える。同じ性感染症である梅毒は勾配1.3823である。結核は勾配1.0108で感染頻度は人口数に左右されない(2011年のデータ)。米国のAIDS患者データ(2009年)を用いた同様のプロットでは、勾配は1.3382で日本の値に近い。次に、AIDS患者頻度(人口当たり患者数)を縦軸に、人口密度を横軸にとり都道府県をプロットすると、頻度が人口密度に無関係であれば分布勾配は0であるが、日本の場合0.3836となる。即ち、人口密度が高ければAIDSの頻度が増す。米国のAIDSの勾配は0.3821で、日本の値0.3836と一致する。日本の15~64歳人口の大都市圏都道府県集中に対し、米国の州間の年齢分布差がほとんど無いなど、人口構成地域環境が異なる日米二国でAIDS患者数または頻度と人口数または人口密度の関係がこれほど一致するのは、驚くべきことである(詳細はhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken/advpub/0/advpub_JJID.2014.462/_article参照)。

2.感染経路と感染検出時病態の関係
男性異性間感染、男性同性間感染、女性異性間感染につき、縦軸に「AIDS患者」としてみつかった数、横軸に「HIV感染者」としてみつかった数を、1985~2013間の毎年(1992年外国人女性は除外)につきプロットしたのが図1Aである。分布の勾配は「AIDS患者」対「HIV感染者」の比であるが、日本国籍の男性異性間感染は0.7219、男性同性間感染は0.2933、女性は0.3287の勾配となる。即ち、男性異性間感染は7割が「AIDS患者」として見つかるが、男性同性間感染、女性感染者はその7割が「HIV感染者」として見つかる。在日外国人では、男性異性間は0.7255で日本人と同じく7割が「AIDS患者」として見つかるが、男性同性間は0.1186、女性は0.1014で9割が「HIV感染者」としてみつかる。

次に、患者年齢と感染検出時病態の関係を図1Bに示す。AIDS/HIVの比は年齢が進むに従い大きくなる。即ち、若年者ではより「HIV感染者」として検出され、年齢が高いとより「AIDS患者」として検出される。また、男性異性間感染者は「AIDS患者」の割合が上昇し続けるのに、男性同性間感染者と女性は40歳位で頭打ちとなる。

感染経路および年齢による「HIV感染者」あるいは「AIDS患者」としての検出の差については、AIDSは感染後時間を経て発症するため、年配ほど「AIDS患者」として検出され、また、男性同性間性行為者や女性はよりエイズのリスクを知っており、若年者ほどその割合が高いので「HIV感染者」としてみつかると言う解釈がある。しかし、その統計的根拠は無い。検出パタンが似ている男性同性間性行為者と女性は、いずれも、ウイルスを含む精液を注入される側であり、男性異性間性行為者はウイルスを含む精液を注入する側であることは考慮して良い。日本国籍者と在日外国人が、同様な傾向を示すのは社会学的理由よりも生物学的理由を支持し、後者の考え方も追求の価値がある。AIDS発症時期については、血液製剤感染データから感染後10年位とされているが、性感染におけるAIDS発症時期は不明である。少なくとも「HIV感染者」に対し「AIDS患者」の流行が10年遅れたという統計は無い(詳細との由来はhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25420648参照)。

 

国立感染症研究所名誉所員 吉倉 廣

 

 

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