国立感染症研究所

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インターネット上での、MSMを対象とした啓発の取り組み-ウェブサイト「HIVマップ」

(IASR Vol. 36 p. 173-174: 2015年9月号)

HIVマップ構築の背景
「HIVマップ www.hiv-map.net/」は2007年7月より一般に公開されたウェブサイトである。このサイトは、「エイズ予防のための戦略研究」により企画・運営された。

厚生労働省は、「エイズ予防のための戦略研究」を2006~2010年まで、5カ年の間実施した。MSM(men who have sex with men) を対象としたプロジェクト(研究リーダー・市川誠一)は首都圏と京阪神圏に分かれて取り組まれ、首都圏では、NPO/NGOのぷれいす東京、Rainbow Ring(現akta)、日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス、横浜Cruiseネットワーク(現SHIP)が協働して、首都圏居住のMSMを対象とする啓発普及の企画・実施・評価に取り組んだ。その際に相談・支援環境改善のために制作されたのが、HIVマップである。

戦略研究終了後、厚生労働省は研究成果を評価し、2011年にはMSM向けコミュニティセンター全国6カ所(仙台、新宿、名古屋、大阪、福岡、那覇)を「同性愛者等のHIVに関する相談・支援事業」として事業化し、同時にインターネット上の事業としてHIVマップを事業化した。

HIVマップの概要
HIVマップの2014年度のセッション数(閲覧者のべ人数)は、104,642件だった。コンテンツは主に4点である。

「HIVお役立ちナビ」:支援・相談情報リソース集

「あんしんHIV検査サーチ」:MSMが安心して受検できる保健所の案内や、検査に関する基礎知識・用語集 

「HIV/エイズガイド」:HIVに関する基礎知識や福祉制度等のポイントを、イラストを用いて解説

「HIV/エイズ情報ファイル」:MSMと関係のあるHIVの疫学・研究情報を解説

このようにHIVマップは、検査情報提供に限定されない、MSMを対象とした「HIVの総合情報サイト」であることを編集方針として構築されている。

 「エイズ予防のための戦略研究」のMSM首都圏グループでは、MSMを対象とした大規模なHIV検査啓発を企画していた。その際企画の段階で、HIV陽性者や陽性者等への支援者から、受検行動への促進だけを目的にする啓発の限界を指摘された。

受検者のHIV陽性がわかった後、医療アクセスやその後の生活を継続するためには、相談・支援情報が必要となるだろう。しかし当時の段階では、信頼できうる相談・支援情報はインターネット上に散在している状態であり、またMSMの視点で編集された情報も少なかった。そのために、大規模な検査プロモーションを行う前提として、まずは受検者等が相談支援情報にアクセスしやすい環境整備を行うべきではないかという議論がグループ内で起こった。

こうした議論の結果として、相談・支援環境改善のために構築されたのがHIVマップである。HIVマップの特長は、編集体制に保健・医療者だけではなく、様々な立場の人が関わっているところにある。その結果、検査情報だけに限定されない、MSMという視点で、HIVに関する様々なフェーズにある閲覧者のニーズに応えるサイトを構築している。

HIV関連情報を調べる際に用いる、デバイスの変化
公開開始から8年を超えた中で、閲覧者がHIVマップにアクセスするために用いるデバイスが変化してきていることも指摘しておきたい。HIVマップのアクセス分析では、2009年よりスマートフォンを用いてアクセスする件数が現れた(参考までに、2008年にApple社製のiPhone 3Gが初めて日本で販売されている)。2013年には、HIVマップにアクセスするデバイスの割合は、スマートフォンがパソコンの割合を超え、その後、一定して約60%超の人がスマートフォンでアクセスをしている。

またこうしたデバイスの傾向が、インターネット上のHIV関連情報閲覧に共通してみられるものなのかを検討するために、HIVに関連するワードを検索する際に用いるデバイスの傾向とその推移について分析を行った。データ抽出にはGoogle Japanの協力のもと、Google Trends 、Keyword Plannerを用い、GoogleでのHIVに関連するワードの検索数推移と、その際に用いるデバイスの推移の分析を行った。結果は図1の通りである。

この分析では、HIV関連ワードの検索時に用いるデバイスの実数が、2011年の第4四半期にスマートフォンが従来型携帯電話を超えており、また、2012年第2四半期にはパソコンを抜いて1位となっている。また注目したいのは、パソコンを使用した検索数はそれほど変化していないが、2011年までは1位だった従来型携帯電話は2012年を境に検索数が減少し、スマートフォンがその後増加している。

分析から、HIVマップに限らず、HIV関連の情報収集の傾向として、スマートフォンが最も多く用いられていることが明らかになった。また仮説として、HIV関連情報の情報収集については、従来型携帯電話やスマートフォンなど、個人のプライバシーを守ることができるデバイスで行われる傾向があることが考えられる。このことから、今後インターネット上でのHIV関連の情報提供では、スマートフォンでの閲覧を前提とした企画が必要とされるだろう。

今後の課題
HIV検査情報を提供するウェブサイトは、HIV検査・相談マップが先行して国民向けに公開され、2014年度のセッション数は1,935,067件と報告されている。これに対してHIVマップはMSMに特化したサイトとして開発された。HIVマップのMSMの間での認知率は、保健所HIV検査受検者を対象としたアンケートでは、MSM受検者の17%を超える状況となって(図2)、HIVマップが対象とするMSMの間での認知は広がっていることがうかがえる。

わが国ではHIV感染者の大半をMSMが占める現状にあり、MSMのHIV検査受検行動と医療アクセスの向上はエイズ対策の要である。今後、HIVマップのセッション数と認知率をより上げる取り組みが必要だ。また、HIVマップは主にMSMを対象としているが、掲載されている情報は幅広く、他の個別施策層にも有用と考えられ、医療者や支援者を通じて広く活用してもらえるように期待したい。


参考文献
  1. 市川誠一, 他, 厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業 総合研究報告書, 「エイズ予防のための戦略研究」, 91-128
  2. 佐野貴子, 他, 厚生労働科学研究費補助券エイズ対策研究事業 総合研究報告書, 「HIV検査相談の充実と利用機会の促進に関する研究」, 161-179
  3. 塩野徳史, 他, 厚生労働科学研究費補助券エイズ対策研究事業 総合研究報告書, 「MSMのHIV感染対策の企画、実施、評価の体制整備に関する研究」, 127-171

特定非営利活動法人akta 理事長 岩橋恒太

 

 

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