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風しんに関する特定感染症予防指針の策定について

(IASR Vol. 36 p. 133-134: 2015年7月号)

はじめに
風しんが定期接種化される以前には、国民の多くが幼少期に風しんに自然に感染し、5~6年ごとに大規模な流行を繰り返していたが、予防接種の進展とともに、流行は小規模化し、2004(平成16)年に推計で約39,000人の患者が報告されて以降、大きな流行はみられてこなかった。しかし、2012(平成24)年から、首都圏や関西地方などの都市部において、20~40代の成人男性を中心に患者数が増加し、2013(平成25)年には14,000例を超える患者が報告され、平成24年10月以降、これまでに45例の先天性風しん症候群が報告される状況となった。平成25年の夏以降には風しん患者の報告数は減少したものの、今後の流行の有無にかかわらず、中長期的視点に立ち国と多くの関係者が連携して風しんに対する施策に取り組む必要があることから、「風しんに関する特定感染症予防指針(以下、指針という。)」が2014(平成26)年3月28日に告示、同年4月1日から適用された。ここでは、指針の概要について述べる。

原因の究明
風しんについての情報の収集および分析を進めるとともに、発生原因を特定するため、国および都道府県等において、正確かつ迅速に風しんの発生動向を調査することが重要となる。風しんの届出は感染症法第12条の規定に基づき、医師に全数の報告を求めているが、指針では風しんを診断した医師の届出については、風しんの発生に対して迅速な対応が取れるよう、可能な限り臨床診断による24時間以内の報告を求めている。さらに届出後に検査診断された場合には、その結果についても報告を求めるものとしている。検査診断においては、風しんの発症初期には抗体検査が陰性の結果となることや、風しんウイルスの遺伝子型等の詳細な情報を評価するため、国や地方公共団体は、行政検体が提出された場合には、可能な限りウイルス遺伝子検査等を実施することとしている。

先天性風しん症候群については、風しんの流行がみられる地域において、妊娠初期の風しんの抗体検査結果において十分に高い抗体価を持たない妊婦から出生した児については、先天性風しん症候群の可能性も念頭に入れて、注意深い対応を行い、適切な療育に繋げるために可能な限り早期の診断を求めている。

発生の予防およびまん延の防止
平成25年に、20~40代の年齢層の男性を中心に風しんが流行した主な原因としては、多くの世代では9割以上が抗体を保有しているが、当該年齢層の男性では抗体の保有率が8割程度と低下していることから、この世代の男性が幼少期に風しんに自然感染しておらず、かつ、風しんの定期の予防接種を受ける機会がなかった方や接種を受けていなかった方が一定程度いたためと考えられる。また、多くの風しん患者が大都市を中心に報告されており、感受性者が地域に一定程度蓄積することで感染の循環が生じたと考えられる。

風しんウイルスは感染力が強く、感染者は発症前からウイルスを排出し、感染後に症状が出現しない方も一定程度存在することから、感受性者が予防接種により風しんへの免疫を獲得することが風しんの対策として最も有効な手段である。一方で、日本国民の8割から9割程度が既に風しんの抗体を保有していることから、必要に応じ抗体検査を実施することで、より効果的かつ効率的に感受性者に予防接種を実施することができると考えられる。

具体的には、定期の予防接種を確実に継続して実施することが特に重要であり、指針では風しんの接種率が95パーセント以上となることを目標とし、市町村に対して、確実な接種勧奨を行うよう求めている。

また、風しん含有ワクチンの任意接種においては、特に妊娠を希望する女性や風しんの免疫のない妊婦の家族、1962(昭和37)年度から1989(平成元)年度に出生した男性および1979(昭和54)年度から1989(平成元)年度に出生した女性、医療関係者、保育所等の児童福祉施設の職員、学校の職員、海外渡航者等に対して、関係者と協力の上、対策の必要性を理解するための情報提供を行い、予防接種や抗体検査等の免疫を獲得するための対策を推奨することが重要となる。

なお、多くの自治体では、先天性風しん症候群の予防のため、主として妊娠を希望する女性を対象に風しんの抗体検査を無料で実施する抗体検査助成事業を平成26年度より実施している。

医療等の提供
先天性風しん症候群のように出生児が障害を有するおそれのある感染症については、妊婦への情報提供が特に重要となる。このため、小児科医のみではなく、すべての医師が風しんを適切に診断できるよう、国は風しんの流行状況等について注意を喚起し、また、風しん患者の診断後には、療養等の適切な対応を講じられるよう、積極的に情報提供を行う必要がある。

先天性風しん症候群と診断された児に対しては、その症状に応じて適切な医療を受けることができるよう、日本医師会や関連する専門学会等に対して、専門医療機関の紹介等の対応を依頼している。また、地方自治体に対しては、先天性風しん症候群と診断された児に対する医療および保育等が適切に行われるよう、必要な情報提供を行い、症状に応じた支援制度を利用できるよう、積極的な情報提供および制度のより適切な運用を依頼している。

国際的な連携
世界保健機関をはじめとする関係国際機関との連携を強化し、情報交換等を積極的に行うことにより、世界的な風しんの発生動向の把握、風しん排除達成国の施策の研究等に努め、日本における風しん対策の充実を図っていくことが重要となる。

評価および推進体制と普及啓発の充実
風しんの予防対策の実施状況を評価・公表し、必要に応じて、施策の見直しを含めた積極的な対応を講じるため、様々な分野の関係者と協力の上、国においては「風しん対策推進会議」を、都道府県においては「風しん対策の会議」を開催することとしている。また、風しんおよび先天性風しん症候群に関する正しい知識に加え、医療機関受診の際の検査や積極的疫学調査への協力の必要性等を広く周知するため、関係機関との連携を強化し、国民に対して適切に情報提供を行うよう努めることとしている。

指針の目標
指針での目標については、「早期に先天性風しん症候群の発生をなくすとともに、2020(平成32)年度までに風しんの排除を達成することを目標とする。」としている。

今後の課題
本指針の目標を達成するには、医療関係者、企業、専門家など多くの関係者の協力が必要不可欠であり、また、風しん対策の必要性を国民の方々に我がこととして理解いただくことも重要である。社会全体で風しん対策を推進していくために、指針に基づき継続的な対策を実施できるよう取り組んで参りたい。

厚生労働省健康局結核感染症課

 

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