国立感染症研究所

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デングウイルス感染症における検査に供する検体の採取時期について―長野県

(IASR Vol. 36 p. 41-42: 2015年3月号)

2014(平成26)年10月、海外で感染したと推定されるデング熱患者において、医療機関で受診(入院)から経日的に採血された血液から、遺伝子(RT-PCR法)および特異タンパク(NS1)の検出について検討を行ったので報告する。

当該患者は、10月6日からマレーシアに滞在し、13日に帰国した女性(年齢46歳)で、滞在中の10月10日に現地にて蚊に刺されたと稟告しており、この際に感染したものと推定された。帰国後18日に発症し(潜伏期間8日)、19日I医療機関を受診した。I医療機関では突然の発熱(入院時:38.0℃)、白血球の減少(入院時:3,080/μl)や血小板の減少(入院時:87,000/μl)が入院後継続的に認められることからデングウイルス感染を疑い、管轄保健所を通じ当所に遺伝子検査および特異タンパクの検出を依頼した。

当所では発症3日目(20日)に採取された血液からRNAを抽出し、逆転写後RT-PCR法により遺伝子検査を実施し、デングウイルス特異PCR産物(490bp)を検出したため、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、遺伝子解析を実施したところ、デングウイルス1型と確認された。また、同時に実施した迅速診断キットで非構造タンパクNS1抗原が検出された。

当所ではさらに、医療機関に患者の入院後毎日採血された血液が保存されていたことから、それぞれの検査法におけるウイルス感染の判定に最も有効な採取時期を検討するため、患者の同意の上、患者臨床データと発症2日目(入院)~7日目の間に経日的に採取された検体の提供を依頼し、後日検査に供した。

患者は入院時(発症2日目)には発熱、白血球数と血小板数の減少が確認された。その後平均体温は発症6日目に一時37℃以下となったが、7日目再び上昇し(2峰性)、8日目以降は37℃以下で推移した。白血球数は発症10日目まで、血小板数は発症7日目まで低値を示していたが、それぞれ12日目、10日目には正常範囲内に回復した。CRP(C反応性タンパク)は発症4日目まで高値であったが、6日目には正常値となった。発疹は発症6日目から確認され、当初は全身に認められたが、症状が回復していくにしたがって四肢から下肢へと限局的になった。なお、患者は入院当初から関節痛、倦怠感を訴えていた他は、消化器、呼吸器症状は認められなかった()。発症3日目から肝機能亢進(AST、ALT、LDH、γGTP)が入院期間中認められたが、患者には入院当初よりアセトアミノフェンが投与されていたため、感染との関連性は不明であった。

それぞれの検査法で検査を行ったところ、遺伝子検査(RT-PCR法)では発症2日目~6日目まで、NS1抗原は7日目まで検出された()。なお、発症8日目以降の血液については医療機関で保存されていなかったため実施できなかった。遺伝子検査(RT-PCR法)による検出可能期間は、発熱期で白血球数、血小板数が回復し始めるまでの時期と一致しており、発疹の出現とともに検出されなくなった。これに対しNS1抗原の検出については遺伝子検査よりもさらに長期間検出可能であることが確認された。

感染症の診断には、患者の臨床検体からの病原体検出が最も有効な情報となる。しかし、検査結果は患者からの検体の採取状況や検査方法など、様々な条件に左右されることが多い。そのため確実に感染した病原体を検出するには、まず患者の病態に即した検体および検査方法を選択することの重要性を改めて認識する必要があると思われた。

 

長野県環境保全研究所感染症部
  藤井ますみ 嶋﨑真実 内山友里恵 粕尾しず子 中沢春幸 藤田 暁
長野県伊那保健福祉事務所(保健所)
  中澤貴子 寺井直樹
昭和伊南総合病院
  牧野敏之 池場明子

 

 

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