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近年の侵襲性髄膜炎菌感染症の国際的な発生動向

(IASR Vol. 34 p. 372-374: 2013年12月号)

 

髄膜炎菌による健康被害は、世界的には髄膜炎ベルトを中心に甚大である。本稿においては、近年の侵襲性髄膜炎菌感染症の発生に関する国際的な動向について、文献情報を中心にまとめる。

髄膜炎ベルトの国々
アフリカ大陸における髄膜炎菌ベルトにおける患者報告は、サブサハラ地域に属する、西はセネガルから、東はエチオピアまでの22か国よりもたらされており、1993~2012年までの間におおよそ百万人の患者発生と、10万人の死亡があったと考えられている1)。これらの流行のうち、80%は血清群Aによるものであった。近年では、2009年に210の行政区において流行閾値(人口3万人超での流行閾値の定義:人口10万人あたり週15例以上、あるいは過去3年間の流行なし/ワクチン接種率が80%未満/流行期早期の警戒閾値*を記録、のいずれかの状況下で人口10万人あたり週10例以上。*なお、人口3万人超での警戒閾値は人口10万人あたり週5例以上。出展:WHO, Managing meningitis epidemics in Africa, 2010)を超えた、ほぼ8万人の患者数に達する流行が最大規模であり、ナイジェリアが流行の中心であった。

2012年の情報がWHOによりまとめられている1)。2012年1月1日~7月1日の間に19のアフリカ諸国より、22,673例の疑い例が報告され、うち1,931例が死亡したことが判明している(致命率:8.5%)。流行の中心は西アフリカ(ベニン、ブルキナファソ、ガーナ)、中央アフリカ(チャド)であった。検査診断の情報から得られる流行の特徴としては、(1)MACV(Meningococcal A conjugate vaccine:結合型A群髄膜炎菌ワクチン)が導入された地域においては血清群Aの発生は低下あるいは消失していること、チャドにおけるアウトブレイクはMACV未導入地域でのみ発生したこと、(2)ベニン、ブルキナファソ、ガーナにおけるアウトブレイクの主な起因菌はW-135群であること、が挙げられる。このうちA群については、分子疫学的な分析の結果、遺伝子型ST-5の菌株であったことが分かっており、この株は流行を起こしやすいST-5 complex に属する。また、W-135群による、2002年以来2番目の大規模なアウトブレイクが発生したブルキナファソでは、(一部、他の病原体を含む)10万人人口当たり100例以上の患者が2行政区より報告された。W-135群が400株以上検出されたブルキナファソではA群の検出はなかったが、X群が100株ほど検出された。これまで推奨されてきた髄膜炎菌による流行のコントロール方法については、(1)強化サーベイランスを通しての早期検出、(2)適切な抗菌薬を用いての臨床管理、(3)流行の発生した地域における、血清群別のワクチンを用いた接種対応(reactive immunization)、の3つに集約できる。2012年においては、特にチャドにおいて全対象人口に対する初のMACVがアウトブレイク対応として使用された一方で(約150万ドーズ)、世界的に供給が限られ、値段も高いW-135含有多糖体ワクチンに対する需要が増大し、ICG(International Coordination Group)による約90万ドーズが認可された状況があった。W-135群およびワクチンのないX群の問題再燃は、アフリカ髄膜炎ベルトにおける今後の重大な公衆衛生上の懸念である2)

2013年の状況としては3)、1月1日~5月12日までに、18か国より9,249例の疑い例が報告され、うち、857例が死亡したとされる(致命率:9.3%)。この数は流行期の情報としては過去10年で最も少ない。アウトブレイクはギニア(W-135群検出事例あり)、南スーダン(A群検出事例あり)、ベニン、ブルキナファソ、ナイジェリアで報告されている。

髄膜炎ベルト以外の主要国(米国、オーストラリア、英国)
米国:髄膜炎菌による侵襲性疾患の発生は、かつて年間1,400~2,800例程度の報告4)があった2000年より前の状況から減少しており、2005~2011年では年間800~1,200例である5)。米国ではB群、C群、Y群が主要な起因血清群であり、アウトブレイクとして、2010年にはB群、C群による各2事例がCDCに報告された5)。ただし、患者の98%は孤発例である。全体として5歳未満(約60%はB群菌の感染)、16~21歳、65歳以上(約60%はY群菌の感染であり、43%が肺炎を合併)の年齢群に大別できる。11歳以上の患者において、起因菌はワクチンに含まれる血清群C、Y、W-135が73%を占める。患者発生は最も低下したが、全体の致命率は10~15%のままであり、生存者における後遺症の発生率も11~19%と高率である。

オーストラリア:髄膜炎菌による侵襲性疾患の発生は、2006~2007年の2年間では622例であり(月平均24.5例)、5歳未満の患者数が3割を占めた6)。うち死亡者は32例であり(致命率:約5%)、その約半数(15例)は5歳未満であった。最新情報としては、1~3月(第1四半期)の患者発生として、2012年33例、2013年39例であり、2013年の血清群別ではB群が32例(82%)、C群が4例(10%)、Y群が1例(3%)、W-135群が2例(5%)であった7)

英国:髄膜炎菌による侵襲性疾患の発生は、1年間の情報としては、2011年7月1日~2012年6月30日(2011/12シーズン)で764例であり(うち死亡は38例:致命率5%)、過去10シーズンで最少であった(前シーズン1,053例から38%の減少)8)。最新情報としては、1~26週(半期)について2012年では420例、2013年では449例であった9)。2013年の血清群別ではB群が346例(77%)、C群が21例(5%)、Y群が40例(9%)、W-135群が34例(8%)であった。第2四半期の患者(201例)について、5歳未満が90例(うち96%はB群菌の感染)、5~64歳が88例(うち61%がB群菌、14%がC群菌、8%がY群菌、15%がW-135群菌の感染)、65歳以上が19例(うち53%はB群菌、26%がY群菌、21%がW-135群菌の感染)であった9)

 

参考文献
1) WHO, WER,88(12): 129-136, 2013
2) WHO, WER,86(47): 521-539, 2011
3) WHO, Disease outbreak news (6 JUNE 2013) http://www.who.int/csr/don/2013_06_06_menin/en/index.html
4) CDC, The Pink Book (May 2012) http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/mening.html#epi
5) CDC, Recommendation of ACIP 62(RR02): 1-22, 2013 http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr6202a1.htm
6) Australian Government DOH http://www.health.gov.au/internet/publications/publishing.nsf/Content/cda-cdi34suppl.htm~cda-cdi34suppl-3-vpd.htm~cda-cdi34suppl-3-vpd7.htm
7) Australian Government DOH. Meningococcal Surveillance Australia. http://www.quitnow.gov.au/internet/main/Publishing.nsf/Content/cdi3702l
8) HPR, PHE, 7(18-22), Published on: 3, 10, 17, 24 and 31 May, 2013 http://www.hpa.org.uk/hpr/archives/2013/hpr18-2213.pdf
9) HPR, PHE, 7(34), Published on: 23 August, 2013 http://www.hpa.org.uk/hpr/archives/2013/hpr3413.pdf

 

国立感染症研究所 感染症疫学センター2室 砂川富正

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