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Haemophilus influenzae b型菌(Hib)ワクチン導入前後の侵襲性感染症由来H. influenzae 分離株の解析:9県における検討

(IASR Vol. 34 p. 195-197: 2013年7月号)

 

わが国においては、Haemophilus influenzae莢膜b型菌(Hib)に対するワクチンの任意接種が2008年12月より開始され、全国的公的補助が平成22(2010)年度補正予算により開始された(それ以前から公的補助を出していた自治体もある)。対象とした9県(福島、新潟、千葉、三重、岡山、高知、福岡、鹿児島、沖縄)におけるH. influenzae による侵襲性感染症症例の髄液、血液あるいは関節液由来のH. influenzae 菌株について、Hibワクチン導入前後において莢膜型別解析ならびに髄膜炎治療によく使用される抗菌薬について感受性試験を実施した。以下の3期間に分けて解析を実施した。期間1)Hibワクチン接種開始前(2007年6月~2008年11月)、期間2)Hibワクチン任意接種開始後(2008年12月~2010年12月)、期間3)Hibワクチンの任意接種に対する全国的公的補助開始後(2011年1月~2013年3月)。

解析方法
莢膜型別解析:インフルエンザ菌莢膜型別用免疫血清「生研」(デンカ生研)を用いた菌体凝集法により解析した。a, b, c, d, e, f株に対する抗血清のいずれの存在下においても凝集しない株をnon-typable H.influenzae(NTHi)とした1)

遺伝子解析による莢膜型別:一部の菌株については、抗血清による菌凝集法に加えて、a~f型莢膜遺伝子の有無について、polymerase chain reaction (PCR)法による解析を行った。H. influenzae 莢膜型特異的遺伝子に対するPCR法は、Falla らの方法2)をもとに、一部のプライマー配列を改良して実施した。

薬剤感受性試験:E-test(AB BIODISK)を用い、試験用培地にはHaemophilus Test Medium(HTM、ベクトン・ディッキンソン)を用いた。供試薬剤は、表2に示す。

結果と考察
分離菌株が国立感染症研究所に送付されたH. influenzae による侵襲性感染症症例数(入院日が明らかな症例)と対象9県でのHib ワクチン出荷本数を5歳未満人口で割った割合の累計%(人口は平成22年度10月1日時点の推定値)の経時的変化から、全国的公的補助開始以降に症例数が減少していることが示唆された(図1)。

分離株の莢膜型について:Hibワクチン接種開始前ならびに任意接種開始後も全国的公的補助以前には、Hibが検討分離株の97%以上を占めていたが、全国的公的補助開始後に83%に減少し、一方、NTHiの割合が増加傾向を示した(表1)。NTHiは、2例の髄膜炎症例の髄液ならびに18例の菌血症症例の血液から分離された。対象9県においては、他の莢膜型菌の分離は無かった。ワクチン3回接種後にHib髄膜炎あるいは菌血症を発症した症例が1例ずつ報告された(参考までに、他県でHibワクチン3回接種後に髄膜炎を発症した患者の血液から分離された莢膜f型菌の解析結果例を図2に示す)。

分離菌の薬剤感受性試験結果について:Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の微量液体希釈法の基準を参考値として、感性と考えられる株の割合を表2に示す。検討抗菌薬のいずれも、調査期間中感性株の割合に大きな変化は観察されなかった。一方、アンピシリン耐性株中のβ-lactamase非産生株の割合は、7.1%(期間1)、38.5%(期間2)、26.7%(期間3)と増加傾向を示したが、増加時期は、ワクチン普及時期と一致しなかった。

謝辞:本解析は、厚生労働科学研究費補助金(新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業)、「新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」班において実施したものです[班員の方々:菅 秀、庵原俊昭、浅田和豊、中野貴司、神谷 齋(国立病院機構三重病院)、細矢光亮、陶山和秀(福島県立医科大学)、石和田稔彦(千葉大学)、鳥谷部真一、内山 聖、大石智洋、齋藤昭彦(新潟大学)、小田 慈(岡山大学)、脇口 宏、佐藤哲也(高知大学)、岡田賢司(国立病院機構福岡病院)、西 順一郎(鹿児島大学)、安慶田英樹(沖縄県立南部医療センター)3)]。また、Hibワクチンの出荷本数は、サノフィパスツール社社内資料を出典としました。

 

参考文献
1) 病原体検出マニュアル、細菌性髄膜炎(髄膜炎性髄膜炎をのぞく)検査マニュアル  
   http://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/hib-meningitis.pdf
2) Falla TJ, et al., J Clin Microbiol 32: 2382-2386, 1994
3) 厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業 「新しく開発されたHib 、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV 等の各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」平成22年度~24年度 総合研究報告書; p69-80, 2013

 

国立感染症研究所細菌第二部
     佐々木裕子 木村幸司 新谷三春 増田まり子 甲斐久美子 吉村由美子 瀧世志江 加藤はる
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