国立感染症研究所

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健常人におけるHaemophilus influenzaeの保菌状況

(IASR Vol. 34 p. 193-194: 2013年7月号)

 

2000~2002(平成12~14)年度の厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「髄膜炎菌性髄膜炎の発生動向調査及び研修方法の研究」において、10の地方衛生研究所(地研)および国立感染症研究所が参加して、健常人におけるNeisseria meningitidis の保有調査を行ったが、同時にHaemophilus influenzaeStreptococcus pyogenesも調査対象とした。また、愛媛県立衛生環境研究所では、愛媛県内の医療機関の協力を得て、摘出扁桃からNeisseria 属菌、Haemophilus 属菌およびStreptococcus 属菌の分離を試みた。本稿では、本研究班の成果のうちH. influenzae に関する調査結果を述べる。

保有調査は協力が得られた集団を対象に、綿棒で被験者の扁桃部表面をぬぐい取り、分離用培地に塗布して被験菌を分離した。本調査ではH. influenzae の分離にとどめ、血清型別は行わなかった。2000(平成12)年度は5地研が参加し、調査対象は高校生から大学生までの10代後半~20代前半の集団と、20代~60代の公務員の集団を主体とした。被験者数は 1,498人(男性 434人、女性 1,064人)で、18人(1.2%)(男性5人: 1.2%、女性13人: 1.2%)からH. influenzae を検出した。10代後半の 549人では7人(1.3%)、20代の 398人では2人(0.5%)、31歳以上の 281人では4人(1.4%)から検出した。

2001(平成13)年度は10地研が参加し、調査対象は10代後半~20代前半の学生が主体であったが、公務員(20~60代)や幼少児(1~10歳)、高齢者(61歳以上)も対象にした。被験者数は1,989人(男性 613人、女性 1,018人、不明 358人)で、102人(5.1%)(男性30人: 4.9%、女性67人: 6.6%、不明5人: 1.4%)から検出した。1~10歳の幼少児では 237人中49人(20.7%)に対し、16~20歳では587人中22人(3.7%)、21~30歳では642人中26人(4.0%)、31歳以上では 347人中5人(1.4%)から検出した。

2002(平成14)年度は、9地研が参加し、調査対象は学生が主体であったが、幼少児や社会人、老健施設入所者も対象とした。被験者数は1,204人(男性 456人、女性 748人)で、142人(11.8%)(男性46人:10.1%、女性96人:12.8%)から検出した。1~15歳の幼少児では177人中22人(12.4%)からの検出に対し、16~30歳の791人中95人(12.0%)、31歳以上の236人中25人(10.6%)から検出した。

3年間の調査結果を表1に示した。年齢層別では15歳以下の幼少児の保有率が高かった。一方で、H. influenzae の検出率には年度や調査を実施した地研間で幅があり、これはH. influenzae の時間的、空間的侵淫状況の変化や、調査対象とした集団における保有率の相違を反映していることが推測された。

愛媛県立衛生環境研究所では、愛媛県内の医療機関にて手術により摘出された扁桃52例(慢性扁桃炎等41例、扁桃肥大11例)の割面から菌分離を試みた。患者は3~10歳が20例、11~20歳が10例、21歳以上が22例であった。各年齢層で81.0~95.0%と高率にHaemophilus 属菌が検出され、3~10歳では65.0%がH. influenzaeであった(表2)。これに対し、21歳以上の成人では57%がH. parainfluenzae で、H. influenzae は10%を占めるのみであった。同時に検出を試みたNeisseria 属菌はN. lactamica が1例から、Streptococus 属菌は6例(A群3例、B群2例、C群1例)から検出された。

本調査により、健常者におけるH. influenzae の保有率はN. meningitidis(0.4%)よりも高く、S. pyogenes(9.6%)よりも低いが、幼少児の保有率が高いことが明らかとなった。これは10代後半から保有率が増加するN. meningitidis とは異なっており、H. influenzae感染症の発生を考察するうえで極めて重要なことであると考えられる。H. influenzae は小児の髄膜炎、敗血症、中耳炎、副鼻腔炎等の原因となるが、小児における高い保有率とH. influenzae による疾患の発生は関連していると推測される。本調査でのH. influenzaeに占めるHibの割合は明らかではないが、ワクチン導入による保有率の変化を監視することは、ワクチン効果の検証として重要であると考える。

本調査は上述の研究班(主任研究者:山井志朗及び益川邦彦 神奈川県衛生研究所)の分担研究(分担研究者:井上博雄 愛媛県立衛生環境研究所)として企画・立案され、以下の研究協力者により実施された(IASR 26: 38-40, 2005参照)。大谷勝美(山形県衛生研究所)、須釜久美子、力田正二、長沢正秋(福島県衛生公害研究所)、渡辺祐子、浅井良夫(神奈川県衛生研究所)、庄田丈夫、芹川俊彦、倉本早苗(石川県保健環境研究所)、中嶋 洋(岡山県環境保健センター)、山西重機、砂原千寿子(香川県環境保健研究センター)、田中 博(愛媛県立衛生環境研究所)、帆足喜久雄、鷲見悦子、緒方喜久代(大分県衛生環境研究センター)、山口仁孝(長崎県衛生公害研究所)、久高 潤(沖縄県衛生環境研究所)、高橋英之(国立感染症研究所)(所属は調査当時)。

 

神奈川県衛生研究所 黒木俊郎

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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