国立感染症研究所

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レジオネラ臨床分離株の型別-レファレンスセンター活動報告として

(IASR Vol. 34 p. 161-162: 2013年6月号)

 

衛生微生物技術協議会レジオネラ・レファレンスセンターにおいて、レジオネラ臨床分離株の収集を行っている。2008~2012年には195株のレジオネラ菌株(集団感染に由来する異なる患者に由来する同一菌株の重複を除いた菌株数で、発生動向調査未報告3株を含む)が収集された(2008年分離47株、2009年28株、2010年33株、2011年39株、2012年48株)。複合感染によりひとりの患者から異なる血清群あるいは遺伝子型の株が分離されることがあるため事例数は 187である。そのうち環境調査で得られた菌株とパルスフィールド・ゲル電気泳動によるパターンが一致したのは16事例あった(すべて風呂関連)。欧米では空調の冷却塔が感染源となることが多く、その場合広域の感染源調査が必要なこともあり、散発事例で感染源が判明することはほとんどなく、感染源の違いが、欧米より感染源調査が進んでいる一因となっている。反面、入浴施設を利用していないおよそ半数の事例のほとんどは感染源不明であるが、一部は農作業などとの関連が推定されている。菌種の内訳は191株がLegionella pneumophila[血清群(SG)1が165株、SG2が4株、SG3が8株、SG5が2株、SG6が5株、SG9、SG10が各2株、SG12、SG15、群別不能が各1株)で、それ以外の菌種はLegionella feeleiiLegionella londiniensisLegionella longbeachaeLegionella rubrilucens各1株だった。

L. pneumophilaについては、EWGLI(European Working Group of Legionella Infections)の提唱するSBT(sequence-based typing)法に従い、flaApilEasdmipmompSproAneuA遺伝子の一部領域の塩基配列を決定し、遺伝子型別を行った(http://www.hpa-bioinformatics.org.uk/legionella/legionella_sbt/php/sbt_homepage.php )。

L. pneumophila 191株は100種類の遺伝子型(ST)に分けられた。そのうち、66種類の遺伝子型は日本独自の型であった。1株しかない遺伝子型は68種類(うち国外では報告のないものは48種類)で、SBT法の疫学的有用性が確かめられた。一方、多数分離されるSTもあり、ST23およびST138は13株、ST120は10株、ST1およびST93は8株分離されている(表1)。ST23は国外でも多数の臨床分離例があり、病原性が高いSTと考えられている。ST138は13例中11例について感染源は浴槽水と確定あるいは推定されており、日本固有のSTである。ST120は感染源不明事例が多いが、意外な感染源の可能性が最近示唆された(本号9ページ参照)。ST1は、世界各地で患者からも環境からもよく分離され、ST1の臨床分離株の感染源は1事例のみ浴槽水と推定されているが、多くは浴槽水以外から感染していると推測される。ST93については本号10ページを参照されたい。

L. pneumophila SG1環境分離株(冷却塔水由来50株、浴槽水由来50株、土壌由来34株)についてSBTを行ったところ、8つの遺伝子型グループを形成した(浴槽水分離株が多いグループB-1、B-2、B-3、冷却塔水分離株が多いグループC-1、C-2、土壌由来株が多いS-1、S-2、S-3)1)。臨床分離株のSTは、環境分離株ではみられないSTであっても、上述のグループのいずれかに属するものが多かった。調べた環境分離株との対応がつくと考えられるSG1株についてみると、Sグループに属したのが63株(ST23、ST120を含む)、Bグループに属したのが67株(ST138 を含む)、Cグループに属したのが10株(ST1を含む)であった。また、15株(8種類のST)については新たな遺伝子型グループを形成したので、環境での由来が不明ということでUグループと名付けた。残りの10株はいずれのグループにも属さなかった。すなわち、まだ未解明の感染源の存在が示唆された。Bグループに属する臨床分離株の75%が、実際に浴槽水が感染源と推定・確定されていて、他のグループの臨床分離株においては、浴槽水が感染源と推定・確定された割合は、Sグループでは30%、Uグループでは27%、Cグループでは10%となっており、臨床分離株のSTは、起因菌の生息環境を反映している可能性があり、感染源不明の事例において臨床分離株の遺伝子型別を行うことは、感染源推定の手がかりとなると考えられた。例数は少ないが、感染原因が土木作業、農作業と報告されている4菌株(3種類のST)はすべてSグループに属していた。一方、臨床分離株では見出されない環境分離株の遺伝子型も多く、一部特定の遺伝子型のものが感染すると考えられた。

レジオネラ症患者から菌分離が行われると、患者周辺環境からの分離菌との異同の確認により、感染源を明らかにすることができる。また、L. pneumophila SG1以外のレジオネラ症起因菌の場合は、ほとんど尿中抗原陰性となるので、菌分離による確定診断が必要となる。臨床検体から菌を分離することの重要性を改めて強調したい。

臨床分離株が収集された場合、あるいは既に臨床分離株を保有している場合、レジオネラ・レファレンスセンターまでお知らせ下さい。送付された菌株の型別の結果は随時送付者にお返ししています。菌株収集にご尽力いただいた地方衛生研究所、保健所、病院関係者に感謝申し上げます。さらに引き続きご協力お願いいたします。

 

参考文献
1) Amemura-Maekawa J,  et al., Appl Environ Microbiol 78: 4263-4270, 2012

 

衛生微生物技術協議会レジオネラ・レファレンスセンター
国立感染症研究所細菌第一部 
    前川純子 倉 文明  大西 真
仙台市衛生研究所 渡辺ユウ
神奈川県衛生研究所 渡辺祐子
富山県衛生研究所 磯部順子
神戸市環境保健研究所 田中 忍
岡山県環境保健センター 中嶋 洋
宮崎県衛生環境研究所 吉野修司

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