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2012年に人から広域に分離された腸管出血性大腸菌O157およびO26のPFGEパターンのクラスター解析

(IASR Vol. 34 p. 139-140: 2013年5月号)

 

国立感染症研究所細菌第一部に送付され解析を行った2012年分離のヒト由来腸管出血性大腸菌(EHEC)は 2,340株あり、そのうちO157は1,422株、O26は388株あった(2013年2月現在)。2012年にはXbaIによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンがO157で691種類(2012年に初めて検出されたパターンはh1~h628)みられ、少なくとも3つ以上の異なる都府県から分離された同一PFGEパターンが32種類あった。このうち、6つ以上の都府県から分離されたO157には6種類の泳動パターンがあり[Type No. (TN)e807、g255、h62、h88、h128、h150]、特にTN e807およびg255を示す株は、それぞれ19府県、12都府県の広域で分離されていた(図1)。また、O26では、2012年にXbaIによるPFGEパターンが 188種類(このうち2012年に初めて分離されたものはh1~h99)みられ、8府県から分離された同一PFGEパターン(TN h13)があった。TN e807は2009年に初めて分離された後、2011年にも分離されているパターンであり、TN g255は2011年に初めて分離されたパターンである。それぞれのパターンを示す株は、2~7カ月にわたって各地の散発事例から分離されていた。

広域分離株および北海道での集団発生事例由来株についてMultiple-locus variable-number tandem repeat analysis (MLVA)法により、O157で9種類、O26で18種類の遺伝子座におけるリピート数について調べると、集団発生由来株(TN h94)でリピート数がよく一致しているものの、広域分離株では複数の遺伝子座でリピート数が異なる株があったことから、その遺伝学的な多様性が示唆された。MLVAタイプ間の関連性をMinimum Spanning Treeで図2に示す(円の大きさは分離株数に基づき、距離は変異の度合を反映する)。TN h88およびh94 を示す株は、リピート数の一致する株が主となって構成されているが、その他の株ではリピート数が少しずつ異なっている株(変異株;枝分かれした小中円で表示)が集合して構成されていることがわかる。TN h94を示す株については、変異株があるものの、大部分が、集団発生由来株で報告されているわずかなリピート数の変異、すなわち、1遺伝子座について繰返し数が1つ異なる変異を示す株であった。広域から分離されているTN e807およびg255については、リピート数の一致するクラスター(中規模円)を形成する株があるとはいえ、枝分かれした小円で示される多数の変異株が集合しており、多様な遺伝子型の株が含まれていることが示唆された。O26については、すべての株でリピート数が一致していた。

PFGEタイプが同一である株にも、分離時期が長期に及ぶ場合には変異株が含まれていることがある一方で、MLVAにおいても同一タイプの株については、その関連性が高いと考えられる。このような株による広域発生事例を早期に探知し拡大を防ぐとともに、原因究明に向けた対策が重要である。

 

国立感染症研究所細菌第一部
寺嶋 淳 伊豫田 淳 泉谷秀昌 三戸部治郎 大西 真

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