国立感染症研究所

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外国系労働者の多い事業所における風疹の集団感染事例-前橋市

(IASR Vol. 34 p. 100-101: 2013年4月号)

 

2012年12月、前橋市内の医療機関から麻疹疑い症例(34歳男性、表1No.4)の報告があり、前橋市保健所が積極的疫学調査を実施した。医療機関が実施した検査では麻疹IgM 陰性、風疹IgM 陽性であり、麻疹および風疹の遺伝子検査を実施したところ、咽頭ぬぐい液から風疹ウイルスを検出した。遺伝子型は2B型で、2012年以降日本で最も報告の多い株であった1)。患者は企業Aの工場内で特定の製造ラインを担当している会社Bに勤務しており、11月以降発熱と発疹を生じた者が複数いるとの情報を得た。

積極的疫学調査の症例定義は、「企業Aの工場に出入りする者であって、2012年11~12月に発熱、発疹、リンパ節腫脹、結膜充血のいずれか(未受診者もいるため、自覚症状も含めた)を生じた者」とした。有症者は24~44歳の男性10名で、多くが日系ブラジル人であった(表1)。医師の診断を受けて感染症法に基づく届出がなされたのは3名で、他は未受診または風疹以外の診断であった。全員最近の海外渡航歴はなく、風疹の予防接種歴は不明であった。企業Aの工場内では、A社(650名)、B社(50名)の他、C社(112名)が一部の製造ラインで操業していた。B社とC社は外国人が多く、休憩室と食堂を共同利用していた。No.10はC社の所属で、B社の有症者との接触があったと考えられる。

風疹は、14~21日(平均16~18日)の潜伏期の後、発熱、発疹、リンパ節腫脹が出現し、発疹出現の前後約1週間ウイルスを排泄する2)。本件では、有症者10名のうち3名(No.4, 6, 10)が風疹と臨床または検査診断された。他の7名(No.1~3, 5, 7~9)も罹患者と仮定すると、事業所内で初発のNo.1から他の9名に二次感染、三次感染した可能性がある(図1)。

感染拡大防止対策として、従業員の健康観察、有症状時の受診、未発症者への予防接種勧奨、職場の衛生管理等を事業所の管理者に指導、依頼した。従業員向けチラシを提供し、必要な方にはポルトガル語に翻訳して配布していただいた。しかし、受療意識の違いからか、有症状でも受診しない者が多く、産業医と協力して予防接種を勧めたが、費用の問題等で実施できなかった。

2011年以降、全国で20~40代の男性を中心に風疹の流行が続いている。群馬県/全国の患者数はそれぞれ2009年1人/ 147人、2010年2人/87人、2011年0人/ 371人であったが、2012年は18人/ 2,353人と増加している3)。前橋市も、2009~2011年は年間0~1人で推移していたが、2012年に4人と増加し、2013年の届出は、3月1日現在2例である。

今回、外国系労働者が多く勤務する工場内で、風疹の集団感染が疑われた事例を経験し、予防接種歴の不明や未受診、予防接種に対する理解不十分などの課題に直面した。同様の就業形態の企業は少なからず存在すると思われ、未受診、未診断のため保健所の探知が遅れ、感染が拡大する可能性がある。集団感染や先天性風疹症候群(CRS)の発生防止のため、今後は、事業所における労務管理者・衛生管理者による従業員の健康管理や産業医との連携の強化を推進していく必要がある。

謝辞:本報告にあたり、ご協力いただいた医療機関の皆様、ご助言いただいた群馬県保健予防課様、麻疹PCR 検査、風疹ウイルス遺伝子検査、遺伝子解析を実施していただいた群馬県衛生環境研究所の皆様および貴重なご指導を賜りました国立感染症研究所感染症疫学センター・多屋馨子先生に深謝いたします。

 

参考文献
1)風疹ウイルス分離・検出状況 2012~2013年  http://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-rubella.html
2)IDWR:感染症の話 風疹  http://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html
3)群馬県感染症情報  http://www.pref.gunma.jp/02/p07110014.html

 

前橋市保健所
澁澤美奈 高橋宏子 新島とよ子 武井祥一 中村多美子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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