国立感染症研究所

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神奈川県の風疹流行状況と麻疹疑い患者からの風疹ウイルスの検出

(IASR Vol. 34 p. 96-97: 2013年4月号)

 

神奈川県の風疹報告数は、2008年に風疹が全数報告対象疾病になって以降、2010年までは減少傾向であったが、2011年より増加に転じている。2012年には259例と報告数が急増し、2013年第9週までの報告数は168例にのぼり、2012年の報告数の半数を超え流行している。2012年からの風疹の報告は、年齢別では20~40代の年齢群からの報告が多く、次いで10代からの報告が多かった。また、2013年第1~9週に報告された患者の性別割合は男性81.5%、女性18.5%であったが、10代では男女の差は認められなかった(図1)。風疹の罹患率が高い年齢群や男性は、過去の定期予防接種の機会が少なかった群で、風疹ウイルスの抗体を保有していない、あるいは抗体価が低いためと思われる。

神奈川県域(横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市を除く)では国の通知に基づき、麻疹疑い例報告についてPCR検査を実施しているが、風疹疑い例報告については検査対象としていない。しかし、2012年以降、当所に搬入された麻疹疑い報告66例からは麻疹ウイルスが検出されず、原因ウイルスを把握するために麻疹と臨床症状の類似した風疹ウイルスについてPCR検査を行い、66例中18例から風疹ウイルス遺伝子を検出した。これらの検出時期は、報告数の増加した2012年第25週以降に集中しており、2012年7月3例、8月3例、10月1例、11月3例、12月3例、2013年1月2例、2月3例であった。

風疹ウイルスの検索は、血液、咽頭ぬぐい液、尿から抽出したRNAを用い風疹ウイルスのNS領域とE1蛋白質領域(739bp)を対象としたnested PCR1)を行い、ダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定し、NJ法によりE1遺伝子(739bp)の系統樹を作成し遺伝子型の解析を行った。E1蛋白質領域の増幅がみられた18例中5例は、南~東南~東アジアの広域で報告されている遺伝子型2Bであった(図2)。13例はE1-(3)領域の塩基配列を決定できなかったため、18例のE1-(2)領域(426bp)について系統樹解析を行ったところ、2B型5例と同一のクラスターを形成した。18例の中で、13例は愛知県で2012年に報告されたRVs/Aichi.JPN/32.12 、5例は千葉県で2012年に報告されたRVi/Chiba.JPN/48.12と近縁な2つのサブクラスターを形成した。2011年に神奈川県域で検出された風疹ウイルスもすべて2B型であること、患者には渡航歴がないことから神奈川県近郊での感染が疑われ、2B型が神奈川県を含む首都圏で定着していると思われる。

風疹ウイルスが検出された18例29検体の内訳は、咽頭ぬぐい液18検体、血液10検体、尿7検体で、採取時期は発熱・発疹の後1週間以内であった。咽頭ぬぐい液および尿からの検出率は100%(計25検体)であったが、血液の検出率は40%(4検体)と低く、血液からのウイルス分離や遺伝子検出率が低いとされているWHOのマニュアル2)と一致しており、咽頭ぬぐい液や尿による検査が有効であると思われた。

風疹ウイルスが検出された18例の性別割合は男性83.3%、女性16.7%、年齢別では10代2名、20代7名、30代3名および40代6名、そのうちワクチン接種歴があったのは20代女性1名のみであった。

今回の報告は、麻疹疑い症例からの風疹ウイルス検出例であるが、他府県でも同様に風疹ウイルスが検出されている3)。発疹症状を呈して麻疹ウイルスが検出されなかった事例については、引き続き風疹の遺伝子検査を行う必要がある。

 

参考文献
1)病原体検出マニュアル 風疹 第二版
2) WHO,Manual for the laboratory diagnosis of measles and rubella virus infection, Second edition, WHO/IVB/07.01.2007
3) IASR 32: 258-259, 2011

 

神奈川県衛生研究所
微生物部 鈴木理恵子 木村睦未 近藤真規子 丹羽加世子
企画情報部 近内美乃里 齋藤隆行

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