国立感染症研究所

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タイから輸入されたD8型による麻疹集団発生事例―宮崎県

(IASR Vol. 34 p. 33-34: 2013年2月号)

 

2012年8月末にタイへの渡航歴がある患者から麻疹ウイルス遺伝子を検出した。その後、9月末までに計8名の麻疹患者が発生し、すべての患者からD8型麻疹ウイルス遺伝子を検出したので概要を報告する。

患者発生状況を表1に示した。患者1は日向市内の中学校に勤務する宮崎市在住の30代女性で、8月12日~15日にタイへの渡航歴があった。25日に38~39℃の発熱、咳の風邪様症状が出現し、宮崎市の医療機関Aを受診した。28日に中学校に出勤したが、顔に発疹と口腔内に水疱が出現しており、体調不良のため早退した。30日に再び医療機関Aを受診し麻疹疑いと診断され、31日に咽頭ぬぐい液、血液、尿が当所に搬入された。NおよびH遺伝子のRT-nested PCRを実施した結果、すべての検体から麻疹ウイルス遺伝子が検出された。

9月7日に日向保健所が行った接触者の健康観察により患者1の同僚(患者2)、宮崎市保健所の接触者の健康観察により患者1の夫(患者3)に発熱が確認された。検査の結果、麻疹ウイルス遺伝子が検出され、感染拡大防止のため当該中学校では9月10日~14日まで臨時休校の措置がとられた。その後、9月12日に患者1の同僚(患者4)に発熱が確認され、13日に麻疹が確定した。

同13日に、患者1が受診した医療機関Aから宮崎市保健所へ30代女性(患者5)に麻疹疑いがあると連絡があり、検査の結果、麻疹ウイルス遺伝子が検出された。患者5は、宮崎市保健所が当初実施した接触者調査の対象にはなっていなかったが、診断当日の疫学調査により医療機関Aを患者1とほぼ同じ時間帯に子供を受診させるため訪れていたことが判明した。

翌14日に医療機関Bから小学生(患者6)の麻疹疑いの連絡があり、検査の結果、麻疹が確定した。この患者6は宮崎市内の小学校に通学しており、本人および家族に患者1の勤務する中学校との接点はなく、医療機関Aにも受診した記録はなかった。しかし、宮崎市保健所の疫学調査により、8月30日に患者1と同じ時間帯に医療機関Aを家族と訪れていたことが判明した。患者6の通っている小学校と、隣接する中学校では感染拡大防止のため9月15日~23日まで臨時休校の措置がとられた。その後、患者6の家族2名に麻疹様の症状が認められ、麻疹ウイルス遺伝子が検出された。

これら8名の患者の推定される感染経路を図1に示した。

8名の患者から検出されたN遺伝子の増幅産物について、ダイレクトシークエンスを行い塩基配列を決定した。得られた塩基配列の一部について系統樹解析を実施した結果、D8型麻疹ウイルスに分類された(図2)。D8型はタイ、カンボジアなどで検出されており、患者1はタイに渡航歴があることからタイより輸入されたと推定された。

今回の一連の事例で、患者が在籍または勤務する学校等では健康調査、予防接種の勧奨や臨時休校を行い、保健所でも接触者の健康調査や受診した医療機関への注意喚起を行い、10月23日に終息した。麻疹の感染力は強いことが知られているが、今回の事例では、同じ医療機関に立ち寄っただけで感染したと推測され、改めて麻疹の感染力の強さが示唆された。

宮崎県では、2007年に当時日本で主に検出されていたD5型麻疹ウイルスが分離され、2008年にワクチン接種後の乳児にワクチン株が分離されている。今回は海外に由来する遺伝子型が検出されたことから、麻疹ウイルスの遺伝子型の同定が感染経路の特定に重要であると考えられた。

 

宮崎県衛生環境研究所
三浦美穂 伊東愛梨 矢野浩司 吉野修司 大浦裕子 古家 隆
日向保健所
宮崎市保健所
宮崎県福祉保健部健康増進課感染症対策室

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