国立感染症研究所

logo

Bordetella holmesii の病原体検査

(IASR Vol. 33 p. 330-331: 2012年12月号)

 

はじめに
宮崎県における百日咳の集団発生事例において、百日咳様症状を呈した患者6名から遺伝子検査によりB. holmesii が検出され、そのうち5名から菌が分離された1) (本号9ページ参照)。今回、本事例を通じてB. holmesii の病原体検査に関し若干の知見を得たので報告する。

経 緯
2010年11月~2011年4月に宮崎県で百日咳の地域内集団発生が起こった。臨床材料は患者の鼻咽頭ぬぐい液をセファレキシン(CEX)5μg/ml添加シクロデキストリン液体培地に懸濁したものを用いた。遺伝子検査はIS481-PCR法と百日咳菌特異的LAMP法を実施し、菌の分離はCEX 20μg/ml添加Bordet-Gengou血液寒天培地(BG培地)とCEX 5μg/ml添加シクロデキストリン固形培地(CSM培地)を用いた。その結果、29名が百日咳菌陽性となり、そのうち15名から百日咳菌が分離された。しかし、この期間中IS481-PCR法(+)、百日咳LAMP法(-)、CSM培地上で百日咳菌様の形状を示す菌が分離されたため、国立感染症研究所細菌第二部に精査を依頼したところ、分離された菌はB. holmesii と同定された。

その後、IS481-PCR法のみ陽性だった患者6名について、血液寒天培地も併用し分離を試みたところ、5名の患者からB. holmesii が分離された。なお、1名は検体採取前から抗菌薬を服用しており、菌は分離できなかった。

B. holmesii の分離培地表1
B. holmesii は市販の血液寒天培地で分離が可能である。したがって、遺伝子検査でB. holmesii が疑われた場合、血液寒天培地へ画線塗抹し、36℃の好気培養で3~4日後に出現する微細な光沢のある白色コロニーを実体顕微鏡下で釣菌するとよい。しかし、遺伝子検査が実施できない場合はB. holmesii と百日咳菌のどちらも分離できる培地の使用が望ましい。

現在、百日咳菌の分離には、BG培地、炭末血液寒天培地(CA培地)、CSM培地、市販のCFDN培地等が用いられている。このうちBG培地とCA培地は20~40μg/mlのCEX添加が一般的であるが、B. holmesii はCEXに感受性があるため、この濃度では菌を分離することはできない。我々の検討ではCEXを5μg/mlに減量した同培地では分離が可能であることを確認している。なお、どちらの培地もウマ脱繊維血液を添加する必要があり、培地の長期保存(1カ月以上)はできない。

一方、CSMやCFDN培地は血液を添加しない保存性に優れた培地で、当所でも百日咳菌分離用としてCSM培地を常備している。また、BG培地やCA培地に比べ雑菌が発育しにくいため長期の培養を強いられる場合は有用である。ただし、これらの培地ではB. holmesii の発育が百日咳菌に比べ遅い傾向が認められており、菌の分離には注意深い観察が必要となる。

その他、レジオネラ属菌用のBCYEα培地の利用があげられる。分離株を用いた検討ではBCYEα培地はCSM培地に比べ百日咳菌の分離は劣るがB. holmesii の分離は優れており、さらに5μg/mlのCEX添加ではBG培地やCA培地よりも雑菌が抑えられ、コロニーが判別しやすいことを確認している。

B. holmesii の遺伝子検査
海外ではReal-time PCR法が汎用され、鼻腔分泌物からの検出報告が増えている。また、国内では操作の簡便なB. holmesii 特異的LAMP法が開発され、同菌の病原体サーベイランスに使用されている2) 。なお、LAMP法は定量を目的としないが、当所における比較試験ではReal-time PCR法のCt値とLAMP法のTt値はほぼ相関しており、Real-time PCR法と同様の感度と特異性を有することが確認されている(表2)。

いずれの方法も前述のようにB. holmesii の分離が一般細菌に比べ難しいことから、B. holmesii を検出するのには遺伝子検査を第一選択にすることが望ましいと考えられる。

おわりに
現在、国内でのB. holmesii の報告例は少ないが、B. holmesii がCEX感受性であることや、菌の分離が難しいために見逃されている可能性も否定できない。また、海外では自動細菌同定装置でAcinetobacter lwoffii と誤同定される事例が報告されており3)、疑わしい菌が分離された場合は、カタラーゼ試験等を実施する必要がある。

B. holmesii は病態も含め不明な点が多いが、今後、遺伝子検査の普及などで検出数が増えれば、より詳細な菌の性状等も明らかになるものと思われる。

 

参考文献
1) Kamiya H, et al ., Emerg Infect Dis 18: 1166-1169, 2012
2) Otsuka N, et al ., Microbiol Immunol 56: 486-489, 2012
3) Panagopoulos MI, et al ., J Clin Microbiol 48: 3762-3764, 2010

 

宮崎県衛生環境研究所
吉野修司 黒木真理子 岩切 章 大浦裕子 古家 隆

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version