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流行シーズン途中で臨床症状の変化が認められた長野県中部(松本市)における手足口病について   
 ―過去の臨床症状と比較した2013年の流行状況―

(IASR Vol. 34 p. 306-308: 2013年10月号

 

はじめに:手足口病は、国内ではヒトエンテロウイルスA群に属するコクサッキーウイルスA群16型(CA16)、エンテロウイルス71型(EV71)、コクサッキーウイルスA群10型(CA10)などが毎年の流行における主たる病原体として知られている。

近年、長野県中部では、2006年にEV71、2011年にコクサッキーウイルスA群6型(CA6)による手足口病の流行を経験した。今季においても、本県中部では手足口病が流行した。今季の臨床像と検出ウイルスについて報告する。

過去に流行したEV71 、CA6 の特徴:2006年、本県中部ではEV71による手足口病の流行を経験した。当院において観察された患者の特徴は次の通りである。1)平均年齢が他のウイルスによる手足口病と比較して高いと考えられること、2)約70%が最高体温37.5℃未満であったこと(必ずしも高熱を有する場合ばかりではない)、3)口腔粘膜疹は頬部および舌など口腔前方に1~2mm大程度であったこと、4)皮疹は手掌手背・足底足背、膝と肘、臀部を中心とする紅斑性小水疱であったこと、であった。

2011年には、ヘルパンギーナの主病因ウイルスのひとつであったCA6が、突然手足口病の流行ウイルスとして国内に登場したことは記憶に新しい。当院においても、受診した手足口病患者のうち43例からCA6、CA10、CA16が検出され、その割合は31:10:2であった。主因ウイルスであったCA6では、最初から四肢を中心とした皮疹で受診する患者以外に、発熱とヘルパンギーナ様の口腔粘膜疹(口蓋垂や口蓋弓)が先行した後、皮疹を認める例が全患者の約40%であった。また、発症年齢は2歳以下が多く、経過中の最高体温が37.8℃以上と高く、発疹は半数近くが従来の手足口病の分布範囲を超え、体幹、口唇周囲など広範囲に出現した。中には大きな水疱を認めたため水痘との鑑別に苦慮した例や、治癒後3~4週を経て、爪甲の層状変化や脱落を認めた例も散見された1,2))。これらはいずれも2008年のEV71を主因とする手足口病の臨床像と異なるものである。

今シーズンの流行状況と検出ウイルス:長野県中部地区(松本市)における2013年の手足口病の流行は、第25週(6/17~)から始まり第29週(7/15~)~第30週(7/22~)にピークを迎えた。第31週(7/29~)現在、当院のみにおいても、のべ200名近くが受診した(図1)。期間中、患者から無作為に抽出し、採取した26検体についてウイルスの検出を行ったところ、ウイルスはシーズン当初、EV71が検出されたが、7月中旬以降EV71に加えCA16やCA6も検出され混合流行となっていた。

臨床症状の違いを感じた第28週以前と以降:手足口病におけるEV71優位のCA16との混合流行と考えられる第28週以前と、さらにCA6が混在したと考えられる第29週以降で、患者の年齢や発熱(最高体温)、発疹等の臨床症状の違いがうかがわれた。すなわち、受診者の年齢は、第28週以前では、3~5歳が多くみられたが、それ以降は1~2歳も増加した(図2)。

また、発熱分布は、第28週以前は、患者の70%近くは37.5℃未満であったのに対し、それ以降では37.5℃未満は50%程度に減少した。逆に39.5℃以上の高熱例が10%程度に増加した(図3)。

このように、診療の現場でシーズン途中に疫学的および臨床症状の違いがうかがわれたのは、過去に経験したEV71、CA6が主病因ウイルスであった手足口病の特徴をふまえると、EV71主流の流行からCA6との混合流行に移行したためと推察された。

まとめ:今期前半を終えて、手足口病に関連するところとして、6月初旬にはEV71による無菌性髄膜炎例、7月初旬には、CA6による爪脱落例を伴う手足口病を経験した(いずれも原因ウイルスを特定できた)。また、今期流行内における反復感染例(二度かかり例)も散見された。さらにデータが蓄積されていけば、症候群としての手足口病における起因ウイルスごとの症状について、有意差を持った違いを明らかにすることができる可能性がある。エンテロウイルス属の持つ多様性に一層の関心を払いつつ、今期後半も臨床ウイルス学的なデータの蓄積を継続していきたい。

 

参考文献
1)松岡高史, 他, 小児科臨床 66: 1735- 1741, 2013
2)内山友里恵, 中沢春幸, 長野県環境保全研究所研究報告 8: 77-82, 2012

 

松岡小児科医院 松岡高史  
長野県環境保全研究所感染症部 内山友里恵

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