国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.36 No.1(No.419)

A型肝炎 2010年~2014年11月現在

(IASR Vol. 36 p. 1- 2: 2015年1月号)

A型肝炎は、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)ヘパトウイルス属(Hepatovirus)のA型肝炎ウイルス(HAV)感染による急性感染症である。HAVの血清型は1種類で、遺伝子型により6つ(I~VI型)に分類される。ヒトから検出されるのは遺伝子型I~III型で、それぞれがAとBのサブグループに分けられる。A型肝炎は感染者の糞便中に排泄されたウイルスが経口摂取されることで感染が拡がる。時に汚染された食品・飲料水を介する集団発生がみられる(本号9ページ)。全世界では、毎年140万人の患者が発生していると推計されている(WHO Fact sheet N°328, June 2014, http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs328/en/)。日本を含む先進諸国では、上下水道等、衛生環境整備に伴い、A型肝炎の大規模な集団発生は稀になった。しかし、わが国では依然年間100例以上の患者が報告されている。

わが国ではA型肝炎は、2003年11月の感染症法改正で「A型肝炎」として4類感染症となり、無症状病原体保有者を含め全症例の届出が義務づけられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-03.html参照)。

潜伏期間は2~6週間(平均4週間)で、臨床症状は38℃以上の発熱、全身倦怠感、食欲不振、頭痛、筋肉痛、腹痛などの症状に続き、黄疸、肝腫大などの特徴的な肝症状が出現する。劇症例・死亡例は稀であるが、HAVに対する抗体を持っていない場合は加齢とともに発症者の重症化の割合が増える。一般に予後良好で(致命率<0.5%)、慢性化することはない。特異的な治療法はなく、安静や対症療法が中心で、2~3カ月で自然治癒する。5歳以下の小児では約90%が不顕性感染であるが、成人では90%が顕性感染で、そのうち60%は黄疸を示す。一度感染すると、顕性・不顕性にかかわらず終生免疫が得られる。

HAVは感染後約1週間~発症後数カ月まで長期に便中に排出されるため、感染者は発症前から感染源となり得る。

感染症発生動向調査
A型肝炎は、以前は1月~5月に多いという季節性が認められていたが、2004年以降、患者(以下、無症状病原体保有者を含む)減少とともに、季節性は患者の多い年に限られるようになった (2004年以前の状況はIASR 31: 284-285, 2010を参照)。2004~2014年の間で、2006年、2010年、2014年(第48週現在)が多く、それぞれ320、347、421例の患者を記録したが、その他の年は115~176例程度であった(図1)。ちなみに2010年~2014年11月までの届出のうち、無症状病原体保有者と記載のあったものは毎年2~6例、劇症肝炎と記載があったものは6例(年齢範囲:56~67歳)であった。

推定感染地:2010年~2014年第48週に報告された1,229例の感染地域のほとんど(約80%)は国内で、地域集積性はみられない(図2)。国外感染例が毎年40~50例報告されており(表1)、国外感染例228例のうち、主な渡航先はフィリピン34、インド33、パキスタン17、韓国14、インドネシア12などであった。

推定感染経路:2010年~2014年第48週に報告された1,229例のうち、987例(80%)は経口感染が疑われていた。そのうち41%(405/987)は推定原因食がカキやその他の魚介類であったが、49%(486/987)は原因不明であった。性的接触による感染が9例あった。

性別年齢分布:患者1,229例のうち、男性は723例(59%)、女性は506例(41%)であった。20~60歳に緩やかな山があり、40代~60代前半、特に男性が多かった(図3)。患者年齢は上昇傾向にあり、患者年齢中央値は、2000年は41歳、2004年は44歳、2010年は47歳、2014年(第48週まで)は49歳であった。

診断検査法と遺伝子型: 2010年~2014年第48週までの届出時の検査診断法は、IgM抗体の検出が1,205例(98%)、PCR法による遺伝子検出が105例(9%)(検体は便65、血液38、便と血液2)であった(1患者の重複検査を含む)。病原微生物検出情報へ報告されたHAV 333例のうち、2012年以降、遺伝子型別された割合が増加し、2014年にはIA型の報告数が増加した(2014年12月8日現在)(表2およびhttp://www0.nih.go.jp/niid/idsc/iasr/Byogentai/Pdf/data68j.pdf)。

2014年の流行
厚生労働省は2014年2月の患者報告数の急増を受け、2014年3月14日付事務連絡(「A型肝炎の発生動向及び注意喚起について」)を発出し、2010年4月26日付通知(IASR 31: 140, 2010)に基づき、各自治体に、分子疫学的解析のための患者糞便検体の確保と積極的疫学調査への協力の周知・徹底を依頼した。国立感染症研究所(感染研)と地方衛生研究所(地衛研)が行ったHAVの塩基配列解析結果によると(本号3, 4, 5, 6, 7ページ)、解析された2014年の159例のうち、遺伝子型IAが137例、IIIAが18例、IBが4例であった。また、宮城県から鹿児島県まで広範囲で検出されたIA型の103例(75%)は、塩基配列がほぼ同一で、共通の感染源による可能性が疑われている。

本広域型IA株は、「A型肝炎検査マニュアル(平成18年8月)」に記載のリアルタイムPCRでは偽陰性となるため、現在は、遺伝子検出には1)コンベンショナルなRT-PCR、または2)新たに推奨されたプライマーを用いたリアルタイムPCRが推奨されている(本号7ページ、IASR 35: 154-156, 2014)。

HAV感染対策・予防
HAVは酸や乾燥にも耐性であることに注意し、患者の排泄物や汚染食品等の適切な処理、手洗いを始めとする衛生管理の徹底、充分な加熱調理(85℃、1分以上)、塩素剤等による消毒などにより、感染源・感染経路対策を行うことが重要である。

A型肝炎はワクチンにより、長期間の発症予防効果が期待できる。国産の不活化A型肝炎ワクチンが、16歳以上に任意接種されていたが、2013年3月から16歳未満にも任意接種の適応が拡大された(本号10ページ)。流行地(本号10ページ下段)への長期旅行者(特に1カ月以上の滞在)、A型肝炎患者との接触機会が多い医療従事者、慢性肝疾患などの基礎疾患を有しHAVの抗体もたない者、男性同性愛者等のA型肝炎のハイリスク者にあっては、任意ではあるものの、ワクチン接種を受けることが望まれる。

2003年に行われた調査から、わが国では、70歳以上ではHAVに対する抗体保有率は70%以上と高く、50歳以下での保有率は、ほぼ0%であると推定される(IASR 31: 286-287, 2010)。海外の流行状況を考慮すると、日本にもA型肝炎が流行する可能性がある。また、疫学的解析からは、年平均1割ほどが家族内感染(同一感染源による曝露を含む)と推定されている(本号8ページ)。

A型肝炎は潜伏期間が長く、感染源や感染経路の特定は困難であるが、分子疫学的解析によりその推定が可能である(IASR 32: 78-79, 2011、IASR34: 311-312, 2013)。患者のウイルス排泄期間が長いので、感染拡大防止に、患者届出の徹底と医療機関・保健所・地衛研・感染研などの間での情報共有が欠かせない。

 

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