国立感染症研究所

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仙台市内で分離されたA群溶血性レンサ球菌T4型におけるemm遺伝子変異について

(IASR Vol. 36 p. 252-253: 2015年12月号)

A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)は、幼児を中心に咽頭炎や扁桃炎、猩紅熱等様々な疾患を引き起こす。また、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の主原因とされ、発症者数は年々増加の一途をたどっている。一方、食中毒の原因菌としても注目されるようになり、毎年数件の発生が報告されている。A群溶血性レンサ球菌感染症の仙台市内における小児科定点からの患者報告数は冬季に多く、夏季に少ない傾向を示していたが、最近では数カ月おきに患者発生数のピークを形成する傾向に変化した。仙台市衛生研究所では仙台市内2カ所の小児科病原体定点でA群溶血性レンサ球菌感染症と診断された患者から検体を採取していただき、分離同定とデンカ生研の型別キットを用いたT型別を行っている。今回、分離したS. pyogenes T4型について、4つの発赤毒遺伝子(speAspeBspeCspeF)の保有状況調査とM蛋白遺伝子(emm)のシークエンスによるM型別法により遺伝子解析を行い、CDCのStrep HOME、Streptococcus pyogenes DatabaseのBLAST-emm検索によりM型別を行った。また、増幅したemm遺伝子のPCR産物について塩基配列を確定した後アミノ酸配列に変換し、配列の比較を行った。

2011~2015年の5年間に109株のS. pyogenesが分離された。分離株のT型はT4型が33株(30.3%)と最も多く、次いでT12型26株(23.9%)、T1型14株(12.8%)、TB3264型12株(11.0%)と続き、T28型8株、T6型とT25型5株、型別不能6株であった(表1)。年別のT型別結果では、2012年はT1型が、2013年TB3264型、2014年T4型が一番多く分離され、年によって流行する型が異なっていた。

発赤毒遺伝子の保有状況調査では、検査したS. pyogenes T4型すべての株でspeA遺伝子不検出、speBCF遺伝子検出で、分離株間で差はみられなかった。

M型別の結果、S. pyogenes T4型33株はすべて、emm-cluster E1のemm 4.0と型別された。一方、emm 遺伝子のPCR増幅産物の大きさは794bp、815bp、836bp、920bpと株により異なっていた。emm 4.0のアミノ酸配列の比較では、emm遺伝子の165番目のアミノ酸から始まる配列の組み換え、すなわち、QISDAから始まる2種類の28個のアミノ酸からなる配列(A列、B列)、7個のアミノ酸からなる2つの配列(C列、D列)からなる4種類の組み合わせがみられた(②③⑤⑥)。

emm遺伝子のアミノ酸配列によるサブタイピングについてはBR Kittangらにより報告され、emm 4.0のアミノ酸配列については4つのサブタイプの存在が明らかとなっている(①②③④)。今回21株で見られた配列(A-C-A-C-B)はBR Kittangらが報告したemm 4.0-2 (②、PCR産物920bp)に、7株で見られた配列(B-D-C-B)はemm 4.0-3③、PCR産物836bp)に相当していた。さらに、emm 4.0-2の配列からA-C列が欠落した配列(⑤、PCR産物815bp)が3株検出された。また、BR Kittangらが報告した上記3つのサブタイプと配列が異なるemm 4.0-4④)から42個のアミノ酸が欠落した株が2株(⑥、PCR産物794bp)検出された。emm 4.0-4 は、emm 4.0遺伝子とこれによく似たenn 4.0遺伝子の組み換えの結果できた株とされており、日本においてもS. pyogenes emm 4.0の組み換え株の侵入が示唆された。さらに、これら2つのサブタイプはこれまでのところ報告されておらず、新しいサブタイプの可能性が示唆された。これらの繰り返し配列の脱落がみられた株の多くは2013年以降にみられ、2014年のS. pyogenes T4型を中心とする流行につながった可能性が示唆された(表2)。以上の結果から、S. pyogenes emm 4.0emm遺伝子配列にはアミノ酸配列の欠落と挿入による多様性がみられ、迅速な疫学解析手法として有効であると思われた。

謝辞:emm 遺伝子解析手法をご指導いただきました国立感染症研究所細菌第一部・池辺忠義先生に深謝いたします。

 

参考文献
  1. A群溶血レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)検査マニュアル 国立感染症研究所
  2. 平成24年度愛媛衛環研年報 15 (2012)
  3. BR Kittang, et al., Eur J Cli MicroBiol Infect Dis, 30(3): 423-433, 2011


仙台市衛生研究所           
  勝見正道 星 俊信 関根雅夫 松原弘明 大金由夫

 

 

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