国立感染症研究所

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山形県で検出された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス

(IASR Vol. 35 p. 76-78: 2014年3月号)

 

2013/14シーズン開始以来、札幌市を中心に、抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルスの検出報告が続いている1-3)。山形県において、札幌市および三重県で検出された耐性ウイルスと同一由来と考えられる耐性ウイルスが検出されたので報告する。

日本国内における抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスは、全国の地方衛生研究所(地衛研)と国立感染症研究所(感染研)が共同で実施している。2013/14シーズンに山形県の患者から分離されたA(H1N1)pdm09ウイルス11株について、山形県衛生研究所において遺伝子解析による薬剤耐性マーカーの一次スクリーニングを行ったところ、11株のうち2株がNA蛋白にH275Y耐性変異をもつことが明らかになった。そこで、引き続き感染研においてオセルタミビル(商品名タミフル)、ペラミビル(商品名ラピアクタ)、ザナミビル(商品名リレンザ)およびラニナミビル(商品名イナビル)に対する薬剤感受性試験を行った。その結果、H275Y変異をもつ2株はいずれもオセルタミビルおよびペラミビルに対して耐性を示すことが確認された。一方、ザナミビルおよびラニナミビルに対しては感受性を保持していた。

山形県で検出された2株のオセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルスについて、NA遺伝子の塩基配列を2013/14シーズンに国内外で検出された耐性ウイルスと比較した結果を図1に示す。山形県で検出された耐性ウイルスは、国内の耐性ウイルスに特徴的なV241I、N369KおよびN386K変異をすべてもっており、札幌市および三重県で検出された耐性ウイルスと同一由来であると考えられる。

オセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルスが検出された山形県の2名は同じ小学校に通っており、患者1は患者2の兄弟とクラスメートであった。2名の患者はいずれも検体採取前に抗インフルエンザ薬の投与を受けておらず、薬剤によって患者の体内で耐性ウイルスが選択された可能性は否定される。患者1は、発症1~2日前に関東地方のテーマパークを訪問していた。このテーマパークは海外からの訪問客も多く、患者1がこの訪問の際に抗インフルエンザ薬耐性のA(H1N1)pdm09ウイルスに感染した可能性も考えられる。なお、患者1、患者2ともにザナミビル(リレンザ)の服用により軽快し、家族内に発症者はいなかった。

山形県では2013/14シーズンには、2013年11月に2株、2014年1月に9株の合計11株のA(H1N1)pdm09ウイルスが検出されている。2株のオセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルスはいずれも2013年11月に検出された。2014年1月に検出されたウイルス9株は、すべての抗インフルエンザ薬に対して感受性を示し、2013年11月に検出されたオセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルスの地域流行は認められていない。

2013/14シーズンには、2014年第5週までに、国内で22株(7%)のオセルタミビル・ペラミビル耐性A(H1N1)pdm09ウイルスが報告されている。これらの耐性ウイルスは、ウイルスの安定化をもたらす変異を伴っている1,2)。2014年1月からはA(H1N1)pdm09が流行ウイルスの優位を占める傾向がみられることから、今後のインフルエンザの流行に伴って、耐性ウイルスの拡大も懸念される。米国ルイジアナ州および隣接するミシシッピ州においても、オセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルスの報告が続いているが、国内の耐性ウイルスは、遺伝子配列から米国の耐性ウイルスとは区別される1,2)。一方、2014年1月中旬に中国から報告された2013/14シーズンのオセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルスの遺伝子配列から、国内の耐性ウイルスは中国株と共通の祖先に由来する可能性が示された(図1)。

国内で分離されたオセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルスについて抗原性解析を行った結果、2013/14シーズンのワクチン株A/California/7/2009の抗原性と一致していることが明らかになった。したがって、今シーズンのワクチンは、オセルタミビル・ペラミビル耐性A(H1N1)pdm09ウイルスに対する有効性が期待される。

また、国内のオセルタミビル・ペラミビル耐性ウイルス感染患者の症状・病態は、札幌での重症の肺炎症例4)を除き、感受性ウイルス感染患者とは違いはないと報告されている。ウイルス遺伝子の解析では、2009年の(H1N1)2009パンデミックの際にヨーロッパの重症患者の一部で報告された、鳥型レセプターへの結合性を高めるようなHA遺伝子の変異(D222G、Q223Rなど)5-7) は起こっておらず、耐性ウイルスの病原性が増強している所見はない。

2014年1月28日に日本小児科学会インフルエンザ対策ワーキンググループにより2013/2014シーズンのインフルエンザ治療指針が示された8)。その中で、現時点での外来治療における対応として、「多くは自然軽快する疾患でもあり、抗インフルエンザ薬の投与は必須ではない」とされている。また、NA蛋白にH275Y耐性変異をもつインフルエンザウイルスに関して、小児ではオセルタミビル投与群と非投与群の間で有熱期間に差がなかったという報告もある9)。日本国内の抗インフルエンザ薬耐性ウイルスの検出状況は地衛研と感染研により随時発表されている10)。抗インフルエンザ薬の投与に際しては、各地域での耐性ウイルスの検出状況に注意を払うことが必要であろう。

オセルタミビル、ペラミビルおよびザナミビルは研究用試薬を購入し、ラニナミビルは第一三共株式会社から研究用に提供を受けた。

 

参考文献
1) 2013/14シーズンに札幌市で検出された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス
http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/flutoppage/593-idsc/iasr-news/4232-pr4081.html
2) Takashita E, et al., Euro Surveill 19: pii: 20666, 2014
3) 家族内感染が疑われたオセルタミビル投与前の小児患者から分離された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス―三重県
http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/flutoppage/593-idsc/iasr-news/4313-pr4084.html
4) 今インフルエンザシーズンの初めに経験したA(H1)pdm09亜型ウイルスによる健康成人の重症インフルエンザ肺炎症例について―札幌 http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrs/4216-pr4073.html
5) Chutinimitkul S, et al., J Virol 84: 11802-11813, 2010
6) Liu Y, et al., J Virol 84: 12069-12074, 2010
7) Zhang Y, et al., J Virol 86: 9666-9674, 2012
8) 日本小児科学会インフルエンザ対策ワーキンググループ, 2013/2014シーズンのインフルエンザ治療指針 http://www.jpeds.or.jp/modules/news/index.php?content_id=86
9) Saito R, et al., Pediatr Infect Dis J 29: 898-904, 2010
10) 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-m/2068-flu/flu-dr/

 

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