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<速報>日本国内で初めて検出されたH275Y/I223R二重耐性変異をもつノイラミニダーゼ阻害剤耐性インフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルス

(掲載日 2014/6/5)  (IASR Vol. 35 p. 176-177: 2014年7月号)

日本国内におけるノイラミニダーゼ(NA)阻害剤耐性A(H1N1)pdm09ウイルスの検出率は、2008/09シーズンの0.5%から2012/13シーズンの1.8%まで、5シーズンにわたってわずかながら増加傾向にあった1,2)。2013/14シーズンは、流行の主流がA(H1N1)pdm09であったこと、また、2013年11月~2014年初頭にかけて、札幌市を中心にNA阻害剤耐性A(H1N1)pdm09ウイルスの地域流行があったことから3-6)、全国地方衛生研究所と国立感染症研究所(感染研)では、耐性ウイルスの監視体制を全国的に強化した。その結果、2014年6月2日の時点で、NA阻害剤耐性A(H1N1)pdm09ウイルスの検出率は4.3%と例年より高いことが明らかになった2)

日本国内で検出された耐性ウイルスはいずれもNA蛋白にH275Y耐性変異をもち、オセルタミビル(商品名タミフル)およびペラミビル(商品名ラピアクタ)に耐性を示す一方で、ザナミビル(商品名リレンザ)およびラニナミビル(商品名イナビル)に対しては感受性を保持していた。しかし2014年4月に、日本国内の抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにおいて初めてH275Y耐性変異に加えてI223R耐性変異をもち、オセルタミビルおよびペラミビルに高い耐性を示し、さらにザナミビルおよびラニナミビルに対しても感受性が低下したA(H1N1)pdm09ウイルスが広島県で検出されたので報告する。

I223R耐性変異を単独でもつA(H1N1)pdm09ウイルスは、これまでにNA阻害剤投与例から検出されており、I223R耐性変異はNA蛋白の活性部位を縮小させることでNA阻害剤との結合力を低下させ、オセルタミビル、ペラミビルおよびザナミビルに対して緩やかな感受性の低下を示すことが報告されている7-9)。一方、H275Y/I223R二重耐性変異をもつA(H1N1)pdm09ウイルスは、2009年に米国ペンシルバニア州で検出され、感受性株に比べてオセルタミビルに対して約9,000倍、ペラミビルに対して約13,000倍、ザナミビルに対しても約20倍感受性が低下していた10)。今回、広島県で検出されたH275Y/I223R二重耐性変異ウイルスは、オセルタミビルに対して約12,000倍、ペラミビルに対して約5,500倍、ザナミビルおよびラニナミビルに対しても約20倍感受性が低下しており、H275Y耐性変異ウイルスに比べて、オセルタミビルに対して約50倍、ペラミビルに対して約70倍、ザナミビルおよびラニナミビルに対しても約15倍程度さらに感受性が低下していることが明らかになった。

広島県で検出されたH275Y/I223R二重耐性変異ウイルスについて、HAおよびNA遺伝子の塩基配列を2013/14シーズンに日本国内で検出されたH275Y耐性変異ウイルスと比較した結果、札幌市を中心に地域流行した耐性ウイルスとは由来が異なることが明らかになった。

2009年にH275Y/I223R二重耐性変異ウイルスが検出されたペンシルバニア州の症例は、自己免疫疾患のため免疫抑制剤による治療を受けていた14歳の女児で、インフルエンザ発症直後にはNA阻害剤感受性ウイルスが検出されたが、11日間のオセルタミビル治療投与後にH275Y/I223R二重耐性変異ウイルスが検出された。一方、今回の広島県の症例は70代の女性で、2014年3月31日にインフルエンザを発症しペラミビルを投与されたが効果が得られず、2014年4月4日にラニナミビルを投与された後に軽快した。H275Y/I223R二重耐性変異ウイルスは2014年4月4日に採取された検体から検出された。その後同病院では80代の女性からH275Y耐性変異ウイルスが1株検出されたが、I223R耐性変異をもたず、H275Y/I223R二重耐性変異ウイルスの伝播は認められていない。米国からは2009年の検出例以降、H275Y/I223R二重耐性変異ウイルスの検出報告はなく、日本国内におけるH275Y/I223R二重耐性変異ウイルスの検出率も0.007%と極めて低い。したがって、現時点ではこのウイルスが流行する可能性は低いと考えられるが、今後もこのような高度耐性ウイルスの出現には注意が必要である。

オセルタミビルとペラミビル、ザナミビルとラニナミビルはそれぞれ同様の作用機序をもつ。NA阻害剤耐性ウイルスは同様の作用機序をもつ薬剤に対して交叉耐性を示すため、臨床経過から薬剤耐性が疑われる場合には、交叉耐性の無い別の作用機序を持つ薬剤への変更を速やかに検討すべきである。日本国内の抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスで検出されたすべての耐性変異ウイルスは、感染研において詳細な解析を行っており、耐性ウイルスの検出状況は毎週公表されている2)。抗インフルエンザ薬の選択に際しては、各地域における耐性ウイルスの検出状況に注意を払うことも必要であろう。

オセルタミビル、ペラミビルおよびザナミビルは研究用試薬を購入し、ラニナミビルは第一三共株式会社から研究用に提供を受けた。

 
参考文献
  1. Takashita E, et al., Influenza Other Respir Viruses 7(6): 1390-1399, 2013
  2. 抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス  http://www.nih.go.jp/niid/ja/influ-resist.html
  3. 2013/14シーズンに札幌市で検出された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス, IASR 35(2): 42-43, 2014
  4. 家族内感染が疑われたオセルタミビル投与前の小児患者から分離された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス―三重県, IASR 35(2): 43-45, 2014
  5. 山形県で検出された抗インフルエンザ薬耐性A(H1N1)pdm09ウイルス, IASR 35(3): 76-78, 2014
  6. Takashita E, et al., Euro Surveill 19(1):pii=20666, 2014
  7. van der Vries E, et al., N Engl J Med 363(14): 1381-1382, 2010
  8. Eshaghi A, et al., Emerg Infect Dis 17(8): 1472-1474, 2011
  9. van der Vries E, et al., PLoS Pathog 7(9): e1002276, 2011
  10. Nguyen HT, et al., Clin Infect Dis 51: 983-984, 2010


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