国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.36 No.11(No.429)

インフルエンザ2014/15シーズン

(IASR Vol. 36 p. 199-201: 2015年11月号)

2014/15シーズン(2014年第36週/9月~2015年第35週/8月)のインフルエンザは、国内では2シーズンぶりにAH3が流行の主体で、2015年1月がピークであった。後半にはB型も流行し、2015年第12週にピークを迎えた。

患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000、内科約2,000)から、インフルエンザの患者数が毎週報告されている。週別定点当たり報告数の推移(図1)(http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html)をみると、2014年第48週に全国レベルの流行開始の指標である1.0人を超え、2015年第18週まで1.0人以上が持続した。報告のピークは2015年第4週(39.4人)であった(図1)。都道府県別にみると、2014年第48週に初めて岩手県で流行の注意報レベルである定点当たり報告数10.0人を超え、2015年第2週には47都道府県すべてで定点当たり報告数10.0人を超えた(https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/Hasseidoko/Levelmap/flu/2014_2015/trend.html)。本シーズンの定点当たり報告数/週の累積は289.8人であった(前シーズンは301.0人)。

2014/15シーズンは流行開始後間もなく、施設内集団発生事例が報告された(本号9ページ)。沖縄県では2005年以降毎年のように夏季にインフルエンザが流行したが、2013/14シーズン以降みられていない。ただし、沖縄県でのみ定点当たり報告数1.00以上が継続し(2014年第47週~2015年第42週現在)、2015年7月には施設内集団発生事例があった(本号11ページ)。

インフルエンザ定点医療機関の報告数に基づく推計では、2014年第36週~2015年第20週(2014年9月1日~2015年5月17日)の間に全国の医療機関を受診したインフルエンザ患者数の累計は約1,503万人であった。重症例把握を目的とする入院サーベイランス(2011年9月に開始)によると、2014/15シーズンの基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)入院患者数は12,705人で、前シーズンの総数9,905人と比較して約28%の増加であった(本号12ページ)。2014/15シーズンに5類感染症の急性脳炎(脳症を含む)として届け出られた患者のうち、インフルエンザ脳症に分類される患者数は101例(暫定値)であり、前シーズン(96例)と同程度であった(本号14ページ)。また、2014/15シーズンは2015年1月に総死亡者数が閾値を上回り、5,000人程度の超過死亡が発生した(本号15ページ)。

ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所(地衛研)が2014/15シーズンに分離・検出したインフルエンザウイルスの報告総数は6,170(分離4,456、検出のみ1,714)であった(表1)。うち、インフルエンザ定点の検体からの分離・検出数は5,100、インフルエンザ定点以外の検体からの分離・検出数は1,070であった(表2)。AH3が85%、B型が14%(山形系統対Victoria系統の割合は約9:1)、AH1pdm09が1%であった(表2)。AH3は2014年第46週から増加し、2015年第2週にピークに達した。B型は2015年第2週から増加し、第12週のピーク以降A型を上回った(図1および図2)。AH3分離例中、5~9歳が26%で、10~14歳が24%であった(図3およびhttp://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/inf2/2015_35w/innen5_150924.gif)。B型山形系統分離例では、5~9歳が全年齢の32%を占めた。

2014/15シーズン分離ウイルスの抗原性(本号4ページ):国立感染症研究所が行った国内およびアジア地域分離株の抗原性解析結果は以下の通りである。AH1pdm09の99株は、台湾由来2株以外、すべてA/ California/7/2009(2014/15シーズンワクチン株)と同じ抗原性を持っていた。AH3の366株の大部分は、遺伝子系統樹上クレード3C.2aに属し、クレード3C.3aや3C.3bは少数であった。中和試験法で(本シーズンのAH3の多くは赤血球凝集活性が極めて低く、HI試験には不適当)、AH3の7割以上が、A/New York/39/2012(クレード3C.3)(2014/15シーズンワクチン株)と異なる抗原性を示した。B型山形系統205株については、ほぼすべてがB/Massachusetts/02/2012(2014/15シーズンワクチン株)と抗原性が類似し、B型Victoria系統39株はすべて、B/Brisbane/60/2008(2011/12シーズンワクチン株)と抗原性が類似していた。

2014/15シーズン分離ウイルスの薬剤耐性(本号4ページ):国内分離のAH1pdm09の42株すべてが、オセルタミビル/ザナミビル/ペラミビル/ラニナミビルに対し感受性であった。AH3は、国内分離353株中、1株のみがオセルタミビル/ペラミビルに耐性で、ザナミビルには低感受性であった。B型分離株は、国内外すべて、上記4薬剤に対して感受性であった。

抗体保有状況:予防接種法の改正により、2013年4月1日から法に基づき、予防接種による免疫の獲得状況に関する調査(本号16ページ)が行われている。2014/15シーズン前の2014年7~9月に採血された血清(約7,000検体)における抗A/California/7/2009 [A(H1N1) pdm09]抗体保有率(HI価≥1:40)は、10代と20代前半の年齢群では75%以上、0~4歳群および60歳以上では40%未満であった。抗A/New York/39/2012 [A(H3N2)]抗体保有率は、10~14歳が80%以上で、0~4歳群は30%未満、30歳以上群では40~60%であった。B/Massachusetts/2/ 2012(B型山形系統)に対する抗体保有率は10代~40代が50%以上であり、特に20代が70%を上回り、0~4歳群および60歳以上群では30%未満であった。B/Brisbane/60/2008 (B型Victoria系統)に対する抗体保有率は40~44歳群が50%で、0~4歳群、25~29歳群、60歳以上群は30%未満であった。

インフルエンザワクチン:2014/15シーズンには3価ワクチン約3,346万本(1ml換算、以下同様)が製造され、約2,649万本(推計値)が使用された。

2015/16シーズンワクチン株については、近年のインフルエンザの流行においてA(H1N1)pdm09およびA(H3N2)に加えてB型ウイルスの山形系統とVictoria系統の混合流行が続いていることからA型2株とB/山形系統およびB/Victoria系統からそれぞれ1株ずつを製造株とした4価ワクチンが導入されることとなった。なお、インフルエンザHAワクチンの生物学的製剤基準の改正もあわせて行われた[2015(平成27)年3月30日](本号19ページ)。

2015/16シーズンワクチン株は、AH1は2010/11~2014/15シーズンに引き続きA/California/7/2009(X- 179A)が選択され、AH3は2014/15シーズンのA/New York/39/2012(X-233A)からA/Switzerland/9715293/2013(NIB-88)に変更され、B/山形系統は2014/15シーズンのB/Massachusetts/2/2012(BX-51B)からB/Phuket/3073/2013に変更された。新たに加わったB/Victoria系統については、B/Texas/2/2013が選択された。

おわりに:定点、学校(インフルエンザ様疾患発生報告)、入院サーベイランス等による患者発生動向の監視、通年的なウイルス分離、ワクチン候補株確保のための流行株の抗原変異・遺伝子変異の解析、抗インフルエンザ薬耐性ウイルス出現の監視、国民の抗体保有率の監視が今後の対策に引き続き重要となっている。2014/15シーズンのインフルエンザについては、「今冬のインフルエンザについて」(http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1415.pdf)も参考されたい。

2015/16シーズンのインフルエンザウイルス分離・検出速報は、本号25, 26 & 27ページおよびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.htmlに掲載している。

 

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