国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.35 No.11(No.417)

インフルエンザ2013/14シーズン

(IASR Vol. 35 p. 251-253: 2014年11月号)

2013/14シーズン(2013年第36週/9月~2014年第35週/8月)のインフルエンザは、国内では3シーズンぶりにインフルエンザウイルスA(H1N1)pdm09(以下AH1pdm09)が流行の主体で、次いでB型、AH3亜型であった。患者発生のピークは例年通り1月であった。

患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000、内科約2,000)から、インフルエンザと診断された患者数が週単位で報告されている。定点当たり週別患者数(http://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html)は、2013年第51週以降、全国レベルで流行開始の指標である1.0人を超え、その後2014年第19週までの21週間、全国レベルで1.0人を下回ることはなかった。報告のピークは2014年第5週(34.4人)で(図1)、AH3亜型が流行の主体であった前シーズン(2013年第4週、36.4人)と同時期・同レベルであった。シーズン全体の定点当たり患者報告数の累積は301.0人であった(前シーズン239.0人)。都道府県別にみると、定点当たり患者報告数は2014年第1週に沖縄県で初めて10.0人を超えた。その後10.0人を超えたのは、2014年第3週に30都府県、第5週に47都道府県に及び、全国的な流行となった(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/index.html)。沖縄県では、2005年以降毎年のように夏季のインフルエンザ流行が観察されていたが、2013/14シーズンにはそれが観察されなかった(本号12ページ)。

インフルエンザ定点医療機関からの報告数をもとに推計すると、2013年第36週~2014年第21週(2013年9月2日~2014年5月25日)に全国の医療機関を受診した患者数累計は約1,572万人であった。重症例把握を目的に2011年9月に開始された入院サーベイランスでは、2013/14シーズンの基幹定点医療機関(全国約500カ所の300床以上の病院)入院患者数は9,905人で、前シーズンの総数10,373人と比較して約5%の減少であった(本号11ページ)。

ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所(地衛研)で2013/14シーズンに分離・検出されたインフルエンザウイルスの報告総数は8,230(分離6,345、検出のみ1,885)であった(表1)。うち、インフルエンザ定点の検体からの分離・検出数は6,738、インフルエンザ定点以外の検体からの分離・検出数は1,492であった(表2、本号8ページ)。型・亜型別割合はAH1pdm09が43%、AH3亜型が21%、B型が36%であった。B型のうち、山形系統とVictoria系統の割合は7:3であった(表1)。A型では2010/11シーズン以来の、AH1pdm09が主流となったシーズンであった。AH3亜型は2014年第4週がピークであったが、以後減少した。B型は2014年第10週以降、A型を上回った(図1および図2)。分離例の年齢分布をみると、AH1pdm09およびB型山形系統とも5~9歳が最も多い傾向にあった(図3、本号8ページ)。

2013/14シーズン分離ウイルスの抗原性・薬剤耐性(本号4ページ):国内およびアジア地域から収集した分離株について国立感染症研究所で詳細な抗原性解析を行った。AH1pdm09は255株ほぼすべてがワクチン株A/California/7/2009に類似しており、国内で分離された1株のみがA/California/7/2009に対する抗原変異株であった。AH3亜型は244株すべてがワクチン株A/Texas/50/2012類似株であった。B型山形系統は163株のほぼすべてがワクチン株B/Massachusetts/02/2012類似株で、解析した分離株の28%は、ワクチン株と同じ遺伝子グループ(クレード2)に属したが、72%の分離株は2012/13シーズンのワクチン株B/Wisconsin/1/2010で代表されるグループ(クレード3)に分類された。一方、B型Victoria系統104株はすべて、2011/12シーズンのワクチン株B/Brisbane/60/2008類似株であった。

国内分離のAH1pdm09の4.2%(105/2,524株)が耐性遺伝子マーカー変異H275Yを有するオセルタミビル/ペラミビル耐性株であった。2013年11月~2014年2月にかけて札幌市を中心とするH275Y耐性変異ウイルスの地域流行があり、道内での耐性ウイルス検出率は28%と高率であった。AH3亜型およびB型の解析した国内外すべての分離株は、オセルタミビル/ザナミビル/ペラミビル/ラニナミビルに対し感受性であった。

抗体保有状況:予防接種法の改正により、予防接種による免疫の獲得状況に関する調査(本号14ページ)は、2013年4月1日から法に基づく調査になった。2013/14シーズン前の2013年7~9月に採血された血清(n=6,571)における抗A/California/7/2009 [A(H1N1) pdm09亜型]抗体保有率(HI価≥1:40)は、10代と20代前半の年齢群では70%以上と高かったが、0~4歳群および50代後半以上では概ね20~30%と低かった。抗A/ Texas/50/2012[A(H3N2)亜型]抗体保有率は年齢群間の差はA(H1N1)pdm09亜型ほど顕著ではなかったが、0~4歳群および60~64歳群の抗体保有率が30%前後と低かった。抗B/Massachusetts/02/2012(B型山形系統)抗体保有率は20~24歳群をピークに15~29歳で50%以上であったが、0~4歳群で約10%と低かった。抗B/Brisbane/60/2008(B型Victoria系統)抗体保有率は、35~44歳群が50%前後と最も高かったが、0~4歳群および60~64歳群では20%前後で低かった。

インフルエンザワクチン:2013/14シーズンには3価ワクチン約3,388万本(1ml換算、以下同様)が製造され、約2,581万本(推計値)が使用された。

2014/15シーズンワクチン株は、AH1亜型は2010/11~2013/14シーズンに引き続きA/California/7/2009(X-179A)が選択され、AH3 亜型は2013/14シーズンのA/Texas/50/2012(X-223)株から卵馴化による抗原変異の影響が少ないA/New York/39/2012(X-233A)株に変更され、B型は2013/14シーズンに引き続き山形系統のB/Massachusetts/2/2012(BX-51B)が選択された(本号17&19ページ)。

鳥インフルエンザA(H7N9):2013年3月下旬~2014年9月末現在、中国での鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒトへの感染報告は、2つの波を形成した。確定患者総数は454人(うち死亡171)であり、第2波(2013年10月以降)の感染者は318人(うち死亡127)と、第1波(2013年10月以前)よりも多くの患者が報告された(本号21ページ)。鳥インフルエンザ(H7N9)は、わが国では2013年4月26日に指定感染症となり、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス検出マニュアルが作成され、検査試薬(PCR試薬、プライマー・プローブ、陽性対照等)が全国の74地衛研と16検疫所に配布され、検査体制は整っている。

鳥インフルエンザA(H5N1):2014年は、ヒトでの高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスの感染例は13例(うち死亡6)であり、内訳はカンボジア(9例、うち死亡4)、中国(2例、死亡0)、ベトナム(2例、死亡2)である(10月17日現在報告数)(http://www.wpro.who.int/emerging_diseases/AvianInfluenza/en/)。

国内の鳥インフルエンザ:2014年4月、熊本県内の肉用養鶏場において高病原性鳥インフルエンザ(H5N8亜型)が発生した。発生農場の防疫措置を実施し、その完了後21日の経過を待って移動制限区域が解除された。ウイルス遺伝子配列の解析から、熊本県でのウイルスは韓国で分離されたH5N8亜型ウイルスとほぼ同一であり、韓国からの由来であると推定された(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niah/051983.html)。

新型インフルエンザ等対策特別措置法:高病原性新型インフルエンザや同様の危険性のある新感染症に対し、国民の生命・健康を保護し、国民生活・国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が2012年5月11日に公布、2013年4月13日に施行された(http://www.cas.go.jp/jp/influenza/120511houritu.html)。2013年6月には政府行動計画等が取りまとめられ、昨年度中に全都道府県で行動計画作成が終了した。

おわりに:定点、学校(インフルエンザ様疾患発生報告)、入院サーベイランス等による患者発生動向の監視、通年的なウイルス分離、ワクチン候補株確保のための流行株の抗原変異・遺伝子変異の解析、抗インフルエンザ薬耐性ウイルス出現の監視、国民の抗体保有率の監視が今後の対策に引き続き重要となっている。2014/15シーズンのインフルエンザウイルス分離・検出速報は本号22ページおよびhttp://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.htmlに掲載している。

 

 

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