国立感染症研究所

【速報一覧へ戻る】
インフルエンザ抗体保有状況 -2014年速報第2報- (2014年12月9日現在)

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、インフルエンザの本格的な流行が始まる前に、インフルエンザに対する国民の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対するワクチン接種の注意喚起ならびに今後のインフルエンザ対策における資料とすることを目的として実施している。
 わが国で使われているインフルエンザワクチン(3価ワクチン)は、A(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統あるいは山形系統)の3つのインフルエンザウイルスがワクチン株として用いられているが、インフルエンザ感受性調査では、これら3つのワクチン株に加え、ワクチンに用いられなかった別系統のB型インフルエンザウイルスについて抗体保有状況の検討を行っている。
 本速報では、2014年度の調査によるインフルエンザに対する年齢群別抗体保有状況について掲載する。

1. 調査対象および方法
 2014年度の調査は、25都道府県から各198名、合計4,950名を対象として実施された。インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。採血時期は原則として2014年7~9月(例年のインフルエンザの流行シーズン前かつワクチン接種前)とした。また、HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、このうちa)~c)は今シーズン(2014/15シーズン)のワクチン株、d)はワクチン株と別系統のB型インフルエンザウイルスである。
a) A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
b) A/New York(ニューヨーク)/39/2012 [A(H3N2)亜型]
c) B/Massachusetts(マサチュセッツ)/2/2012 [B型(山形系統)]
d) B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]

2. 調査結果
 2014年12月9日現在、北海道、山形県、福島県、栃木県、千葉県、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、静岡県、三重県、京都府、山口県、愛媛県、高知県、佐賀県、熊本県、宮崎県の21道府県から合計5,412名の対象者についての結果が報告された。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:614名、5-9歳群:428名、10-14歳群:510名、15-19歳群:449名、20-24歳群:392名、25-29歳群:475名、30-34歳群:390名、35-39歳群:421名、40-44歳群:382名、45-49歳群:320名、50-54歳群:354名、55-59歳群:262名、60-64歳群:232名、65-69歳群:102名、70歳以上群:81名であった(※調査株により対象者数が異なる場合あり)。
 なお、本速報における抗体保有率とは、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上の抗体保有率を示し、抗体保有率が60%以上を「高い」、40%以上60%未満を「比較的高い」、25%以上40%未満を「中程度」、10%以上25%未満を「比較的低い」、5%以上10%未満を「低い」、5%未満を「きわめて低い」と表す。

【年齢群別抗体保有状況】
A/California(カリフォルニア)/7/2009 [A(H1N1)pdm09亜型]
:図1上段
 本調査株は2009年に世界的大流行(パンデミック)を起こしたインフルエンザウイルスの代表株であり、2009/10シーズンは本ウイルスを用いた単価ワクチンが製造され、従来の3価ワクチンとは別に接種が行われたが、2010/11シーズン以降は5シーズン続けて3価ワクチンの株の1つとして選定されている。
 本ウイルスに対する抗体保有率は、5~29歳の各年齢群で60%以上(70~80%)と高かった。また、30~50代の各年齢群における抗体保有率(42~58%)は比較的高かったが、それ以外の年齢群は中程度以下(22~37%)であり、中でも0-4歳群(24%)および65-69歳群(22%)は25%未満の抗体保有率であった。全体では57%の抗体保有率であった。

A/New York(ニューヨーク)/39/2012 [A(H3N2)亜型]:図1下段
 本調査株は今シーズンのワクチン株の1つとして選定されたウイルスであり、前シーズン(2013/14シーズン)のワクチン株であったA/Texas(テキサス)/50/2012から変更となった。
 本ウイルスに対する全体の抗体保有率は58%とA(H1N1)pdm09亜型と同等であり、年齢群別の抗体保有率も5~29歳の各年齢群で60%以上(63~81%)と高かった。また、30代以降のすべての年齢群で40%以上(43~59%)の比較的高い抗体保有率を示し、0-4歳群(29%)のみ中程度の抗体保有率であった。

B/Massachusetts(マサチュセッツ)/2/2012 [B型(山形系統)]:図2上段
 今シーズンのB型のワクチン株は前シーズンに続き山形系統の本ウイルス株が選定され、本年度調査においても同ウイルス株が用いられた。
 本ウイルスに対する抗体保有率は20~34歳の各年齢群で60%以上(68~76%)と高く、10代および35~49歳の各年齢群では比較的高い抗体保有率(42~59%)であった。しかし、それ以外の年齢群は中程度以下(11~35%)であり、中でも0-4歳群(11%)および60代以降の年齢群(17~24%)では25%未満の抗体保有率であった。全体の抗体保有率は46%であった。

B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008 [B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 本ウイルスは2009/10~2011/12シーズンまで3シーズン連続してワクチン株に選ばれたウイルスであり、本年度調査におけるビクトリア系統の代表として用いた。
 本ウイルスに対する抗体保有率は他の調査株における年齢分布の傾向と異なり、40-44歳群で最も高く(52%)、その前後の35-39歳群(48%)および45-49歳群(45%)で比較的高い抗体保有率であった。それ以外の年齢群では、10-14歳群(41%)を除き中程度以下の抗体保有率(12~39%)であり、中でも0-4歳群(12%)および60代以降の年齢群(17~23%)では25%未満であった。全体の抗体保有率は調査株中最も低い33%であった。


図1


図2

コメント
 病原微生物検出情報におけるインフルエンザウイルス分離・検出状況(2014年12月4日現在報告数)によると、今シーズンは2014年第36~49週にA(H1)pdm09亜型6件、A(H3)亜型177件、B型の山形系統6件の報告があり、現時点ではA(H3)亜型の分離・検出報告数が多い1)。また、感染症発生動向調査によるインフルエンザの定点あたり患者報告数は、2014年第48週(11月24日~30日)の速報値で1.90と2)、全国的な流行の指標となる1.0を超えており、本調査で抗体保有率が低かった年齢層においてはワクチン接種等の予防対策を行うことが望まれる。

1)病原微生物検出情報‐インフルエンザウイルス分離・検出状況
2)感染症発生動向調査‐速報データ 2014年第48週

国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザウイルス研究センター

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version