国立感染症研究所

鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応

平成29年2月9日現在
国立感染症研究所

 

背景

H7N9ra fig3 今回、中国における鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症の第5波(2016年9月~)によるヒトの感染例の増加を受けて、リスクアセスメントをアップデートする。今後も、事態の展開があれば、リスクアセスメントを更新していく予定である。

 

疫学的所見

1)事例の概要

  • 最初の鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス(以下、H7N9ウイルス)感染のヒト症例は、2013年3月に中国からWHOへ報告された。以後、2017年2月9日現在までに、中国本土からの報告歴、もしくは中国本土に滞在歴があるか、中国本土から輸入した家禽との接触歴のある台湾・香港・マカオ・マレーシア・カナダからの患者を含め、918例が報告されており、うち少なくとも359例(39%)が死亡している。患者の発生は、中国での冬季にピークを示し、2013年から現在までで5つのピークを認めている1図1参照)。
  • 第1波の大部分の症例は2013年3月から4月、第2波は2013年11月から2014年4月、第3波は2014年11月から2015年4月、第4波は2015年11月以降の期間に報告されている2。中国CDCは、第5波が2016年9月からはじまり、同年12月初旬より報告数が急峻に増加していることを報告した(2016年12月の時点で114例)。第5波では、これまでの4つの流行期と比べ、同期間での報告数が多く、流行の始まりが相対的に早く、県のレベルでより広い範囲に発生していることが分かった。しかし、年齢、性別、重症例の割合や家禽への曝露歴などについては、これまでの流行期と変わっていないことが報告された。第1波から第4波(2013年2月~2016年8月)の775例では年齢中央値は57歳、性別は男性が533例(69%)、第5波(2016年9月~同年12月)の114例では年齢中央値は55歳であった。第5波の性別は男性が77例(68%)であった3。これまでの中国本土からの報告の分布を示す(図2参照)。
  • 香港CHP(Centre for Health Protection)は、2016年11月から2017年1月23日までの時点で、中国本土から229例の発生があり、2013年5月から2017年1月9日までで計1033例に及ぶことを報告した4

2)臨床情報

  • これまでの報告から、潜伏期間は多くが3日~7日(最長10日)と推定されている5

  • 発熱、咳嗽、呼吸困難、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感などの症状が出現し、症例の多くは、重症肺炎の病像を呈する6。一方で、軽症から中等度の病像を呈し、インフルエンザ様疾患に対する病院定点サーベイランスで探知された報告もある9。111例のH7N9ウイルス感染症による入院患者の研究によると、85例(77%)が集中治療室に入室し、30例(27%)が死亡した。症状としては、発熱(100%)、咳嗽(90%)が多く、14%の症例では、下痢や嘔吐の消化器症状をみとめた。入院時、108例(97%)の症例で肺炎をみとめた。経過中、71%の症例でARDS(急性呼吸窮迫症候群)、26%でショック、16%で急性腎不全、10%で横紋筋融解症を合併した7
  • 111例のH7N9ウイルス感染症による入院患者の研究によると、85例(77%)が集中治療室に入室し、30例(27%)が死亡した。症状としては、発熱(100%)、咳嗽(90%)が多く、14%の症例では、下痢や嘔吐の消化器症状をみとめた。入院時、108例(97%)の症例で肺炎をみとめた。経過中、71%の症例でARDS(急性呼吸窮迫症候群)、26%でショック、16%で急性腎不全、10%で横紋筋融解症を合併した7
  • 死亡10例と生存30例を比較した疫学研究によると、死亡のリスク因子として高齢、慢性肺疾患、免疫不全状態、長期の投薬歴、オセルタミビル投与の遅延(生存例で発症から治療までの中央値で4.6日、死亡例で7.4日。両群ともオセルタミビル感受性あり)が報告されている8
  • H7N9ウイルス感染症に関して、リアルタイムRT-PCR法による呼吸器検体を用いた検査が推奨されている10

3)感染源・感染経路

  • 調査が可能であった第5波(2016年9月~同年12月)の97例中、87例(90%)では、鳥への接触歴があり、そのうち72例(83%)が生鳥市場への訪問歴があった。対応として、広東省、浙江省では都市部での生鳥の取引を禁止し、食鳥処理場は集約化されている。また、江蘇省や安徽省などの多くのヒト症例が報告されている地域でも生鳥市場を禁止するなどの対応がとられている3
  • 第5波で、急な症例の増加が報告された原因の一つとして、生鳥市場など飼育鳥に関連する環境中のH7N9ウイルスによる汚染や相対的に流行開始時期が早いことなどが示唆されている3。ヒトの症例が多く報告されている地域では、飼育鳥に関連する環境中のウイルス検出数が多く報告されている(図3参照)。2017年1月に広東省で行われた環境中のサンプリング調査では、15市の21ヵ所の生鳥市場から637検体を採取し、うち60検体(9.42%)でH7が陽性であった。また、同省中南部の江門市では、前年に比較して高いウイルス検出率を報告している11
  • 第5波では、これまでに江蘇省と安徽省から計2つのクラスター(各2例のリンクのある症例)が報告されている3。江蘇省のクラスターは、父とその娘で、生鳥市場で感染したと考えられる入院中の父の世話を3日間した娘が発症している。また、安徽省のクラスターは、入院中に同じ病室となった男性の2例で、20時間の間にindex caseを介助した男性が発症している。第1波から第4波では、計26のクラスター(少なくとも2例以上のリンクのある症例)をみとめた2。これまでに、3次感染例は認めていない。
  • これまでに、中国本土の野鳥からもH7N9ウイルスが検出されたことが報告されている12

 

ウイルス学的所見

  • H7N9ウイルスは少なくとも3種類の異なる鳥インフルエンザウイルスの遺伝子再集合体であると考えられている。当該ウイルスは、鳥に対しては低病原性を示すが、ヒトに重篤な症状を来し得ることが報告されている。これまでに行われた主な遺伝子解析所見については、2014年のリスクアセスメントに記載している。これらのヒト症例由来のH7N9ウイルス株の解析結果として、継続的にヒト-ヒト間で感染伝播するような能力は獲得していないと判断される13,14,15。中国CDCの報告によると、第5波(2016年9月~同年12月)のヒトの症例から分離された33株のウイルスでは、哺乳類への馴化や、抗ウイルス薬への抵抗性を示す遺伝子変異については、これまでの流行期におけるウイルスと同様であるとされている3

日本国内の対応

  • 2013年4月26日、「鳥インフルエンザ(H7N9)を指定感染症として定める等の政令」(2013年政令第129号)、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行令の一部を改正する政令」(2013年政令第130号)、「検疫法施行令の一部を改正する政令」(2013年政令第131号)等が公布され、鳥インフルエンザA(H7N9)は指定感染症に定められた。それに伴い、2013年5月2日付の厚生労働省通知により、38℃以上の発熱及び急性呼吸器症状があり、症状や所見、渡航歴、接触歴等から鳥インフルエンザA(H7N9)が疑われると判断した場合、保健所への情報提供を行い、保健所との相談の上、検体採取(喀痰、咽頭拭い液等)を行うこととなった。2015年1月21日、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 12 条第1項及び第 14 条第2項に基づく届出の基準等について」(2006 年3月8日健感発第0308001 号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)の別紙「医師及び指定届出機関の管理者が都道府県知事に届け出る基準」の一部が改正され、鳥インフルエンザA(H7N9)を指定感染症として定める等の政令が廃止された。現在、鳥インフルエンザA(H7N9)は二類感染症に定められている。二類感染症に追加後の対応に関しては、鳥インフルエンザA(H7N9)に感染した疑いのある患者が発生した場合における標準的な対応において変更はない。

リスクアセスメントと今後の対応 

  • 冬季に入り、中国の浙江省、広東省、江蘇省、福建省などの東部沿岸部地域を中心に、H7N9ウイルス感染症の流行が活発になっていることが推察される。また、家禽市場での交易は未だ広い地域で行われていると考えられ、継続して症例が発生することが懸念される。日本国内への患者の流入の可能性も否定できない。
  • 限定的なヒト-ヒト感染があることから、国内に入国した感染者から家族内などで二次感染が起こりうる。
  • しかしながら、先に記した疫学的・ウイルス学的所見から、人への感染が確認されているH7N9ウイルスは、ヒト-ヒト間で容易に感染伝播するような能力は獲得しておらず、容易に感染が拡大する可能性は低く、また持続的なヒト-ヒト感染の可能性は低いと考えられる。
  • 症例の大部分が鳥との接触歴や生鳥市場への訪問歴がある。流行地域へ渡航する際には、それらの場所への訪問を控えること、流行地域への渡航後に発熱を認めるなどの体調の変化があった場合には、医療機関の受診時に渡航歴を伝えること、などの注意喚起が必要である。
  • 感染研は 「鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症に関する臨床情報のまとめ:臨床像・検査診断・治療・予防投薬」を2013年4月26日に、「鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染症に対する院内感染対策」を2013年5月17日に、「鳥インフルエンザA(H7N9) 患者搬送における感染対策」を2014年7月16日に、感染研ホームページに掲載しているところであるが、今後もWHO、中国等からの情報に基づき、正確な情報を提供していく。

 

参考文献

  1. World Health Organization. Influenza at the human-animal interface. Summary and assessment, 20 December to 16 January 2017.
  2. Xiang N, Li X, Ren R, et al. Assessing Change in Avian Influenza A(H7N9) Virus Infections During the Fourth Epidemic-China, September 2015-August 2016. MMWR. 2016; 65(49): 1390-1394.
  3. Lei Zhou, Ruiqi Ren, Lei Yang, et al. Sudden increase in human infection with avian in uenza A(H7N9) virus in China, September–December 2016. WPSAR 2017; doi: 10.5365/wpsar.2017.8.1.001
  4. Protecting Hong Kong’s health. Centre for Health Protection. Avian Influenza Report Volume 13, Number 03.
  5. Li Q, Zhou L, Zhou M, et al. Epidemiology of human infections with avian influenza A (H7N9) virus in China. N Engl J Med 2014; 370:520.
  6. Ke Y, Wang Y, Liu S, et al. High severity and fatality of human infections with avian influenza A(H7N9) infection in China. Clin Infect Dis 2013; 57:1506.
  7. Gao HN, Lu HZ, Cao B, et al. Clinical findings in 111 cases of influenza A(H7N9) virus infection. N Engl J Med 2013; 368:2277.
  8. Liu S, Sun J, Cai J, et al. Epidemiological, clinical and viral characteristics of fatal cases of human avian influenza A(H7N9) virus in Zhejiang Province, China. J Infect. 2013 Dec;67(6):595-605.
  9. Ip DKM, Liao Q, Wu P, et al. Detection of mild to moderate influenza A/H7N9 infection by China’s national sentinel surveillance system for influenza-like illness: case series. BMJ 2013; 346: f3693.
  10. Centers for Disease Control and Prevention. Interim guidance for specimen collection, processing, and testing for patients who may be infected with avian influenza A(H7N9) virus.
  11. Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). H7N9 situation update, 24 January 2017
  12. Zhao B, Zhang X, Zhu W, et al. Novel avian influenza A(H7N9) virus in tree sparrow, Shanghai, China, 2013. Emerg Infect Dis. 2014 May;20(5):850-3.
  13. Watanabe T, Kiso M, Fukuyama S, et al. Characterization of H7N9 influenza A viruses isolated from humans. Nature 2013.
  14. Xiong X, Martin S, Haire LF, et al. Receptor binding by an H7N9 influenza virus from humans. Nature 2013.
  15. Tharakaraman K, Jayaraman A, Raman R, et al. Glycan receptor binding of the influenza A virusH7N9 hemagglutinin. Cell 2013; 153: 1-8.

 H7N9ra fig1

図1.鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒトへの感染例 n=918, 2013~2016年(1月13日現在, WHO Summary and assessment, 20 December to 16 January 2017から引用)

 

H7N9ra fig2

図2.中国本土からの鳥インフルエンザA(H7N9)報告地域 2013年2月~2016年12月(n=889, 文献3から引用)

 H7N9ra fig3

図3.中国本土の鳥インフルエンザA(H7N9)ヒト症例とトリ・環境中の陽性例の報告地域 2015年10月~2017年1月(文献11から引用)

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version