国立感染症研究所

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<速報>介護老人保健施設内で発生したAH3亜型インフルエンザウイルスの性状、2014年8月―三重県

(掲載日 2014/9/19)  (IASR Vol. 35 p. 272: 2014年11月号)

2014年8月中旬に介護老人保健施設から管轄保健所に施設内でのインフルエンザ集団発生の通報があり、当研究所でウイルス学的検査を実施した結果、AH3亜型インフルエンザウイルスであることが判明したので、その概要について報告する。

2014年8月16日に介護老人保健施設(入所者97名、通所者47名、職員102名)において当該施設の職員1名がインフルエンザウイルスA型に感染したと診断され、その後、入所者および通所者計22名、職員5名の合計28名が発症した。発症者のうち、2014年8月19日に3名の患者(入所者2名、職員1名)から採取された咽頭ぬぐい液が当研究所に搬入された。これらの検体を用いてインフルエンザウイルス遺伝子検査(conventional RT-PCR法、real-time RT-PCR法)を実施したところ、3名中2名(入所者1名、職員1名)からAH3亜型インフルエンザウイルスが検出された。MDCK細胞によるウイルス分離においても、2名から2代培養で細胞変性が認められた。これらのウイルス培養上清液に対して0.75%モルモット赤血球を用いた赤血球凝集(HA)試験を行ったところ、両株ともHA価は16倍を示した。そこで国立感染症研究所より2013年に配布された2013/14シーズンインフルエンザウイルス同定キット(ウサギ免疫血清)にて0.75%モルモット赤血球を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験による同定試験を行った。これらの2株はA/Texas/50/2012(H3N2)の抗血清に対するHI価は640(ホモ価2,560)を示した。なお、A/California/7/2009(H1N1)pdm09の抗血清(同1,280)、B/ Massachusetts/02/2012(山形系統)の抗血清(同640)、B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)の抗血清(同640)に対するHI価は10未満であった。分離株のHA遺伝子系統樹解析を行ったところ、本県で2014年1~3月に分離されたウイルスと同じアミノ酸置換(S45N、T48I)を有するVictoria/208クレードのサブクレード3Cに属していたが、さらに異なるアミノ酸置換(L3I、A128T、G142R、N144S、F159Y、K160T、N225D、Q311H等)を有していた。

集団発生のあった当該施設では入所中の罹患者は個室や感染部屋にて隔離対応を行った。未罹患の利用者および職員においても、他のフロアへの移動を制限するなどの感染拡大防止の措置が行われた。その他の対応は入所、ショートステイおよび通所リハビリの受け入れ制限を行い、面会者にはマスク、手指消毒が義務付けられた。抗インフルエンザ薬の予防投与はショートステイを含む入所者および全職員を対象に行われた。2014年8月27日以降、新たな発症者は認められておらず、同年9月1日に本事例は終息したものと判断された。当該施設の迅速かつ適切な感染拡大防止対応によって小規模な施設内流行にとどまったものと考えられ、初動対応の重要性が明らかとなった事例である。インフルエンザ流行期には、特に高齢者や乳幼児の重症化には警戒が必要で、感染拡大防止の徹底が重要であると思われた。

今回、2013/14シーズン終盤のインフルエンザ非流行期に検出されたAH3亜型インフルエンザウイルスは、昨シーズン(2013/14シーズン)のワクチン株(A/Texas/50/2012)とは異なるアミノ酸置換を有しており、次シーズン(2014/15シーズン)の流行ウイルスとなり得る可能性があるため、今後のインフルエンザウイルスの動向および抗原性状に注視が必要である。

謝辞:本報告を行うにあたり、貴重なご意見をいただきました国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの藤崎誠一郎先生、小田切孝人先生にお礼申し上げます。検体採取および情報提供にご協力いただいた関係機関の諸先生方および関係各位に深謝いたします。

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