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2012/13シーズン最初に分離されたA(H1N1)pdm09、A(H3N2)亜型およびB型インフルエンザウイルスの性状-横浜市

(IASR Vol. 33 p. 300-302: 2012年11月号)

 

横浜市では2011/12シーズンの流行終息後、7月に集団事例や散発事例からA(H3N2)亜型ウイルスが分離され、沖縄県や大阪府の報告1、2) 同様、夏季においてもインフルエンザウイルスの分離・検出がみられていた。その後、2012/13シーズンに入った9月に、集団事例よりA(H3N2)亜型ウイルス、タイから帰国した患者よりA(H1N1)pdm09ウイルス、10月に散発事例より山形系統のB型ウイルスが分離されたので報告する。

1. A(H3N2)亜型ウイルスの集団事例
事例1は2012年9月7日(第36週)にA区の福祉施設で、迅速診断キットA陽性患者19名(入所者11名、職員8名)のインフルエンザ集団発生報告があり、3名からうがい液および鼻かみ検体を採取した。このうち1名(24歳)からAH3亜型ウイルスのHA遺伝子を検出し、MDCK細胞でも同患者からウイルスを分離した。事例2は9月11日(第37週)にB区の保育園で、迅速診断キットA陽性患者13名の発生報告があり、5名からうがい液および鼻かみ検体を採取し、2名の患者からAH3亜型ウイルスのHA遺伝子を検出し、4名(1~4歳)の患者からウイルスを分離した。2事例とも海外渡航歴や沖縄県への滞在歴は無かった。

分離した5株のウイルスについて2012/13シーズンインフルエンザサーベイランスキットを用い、HI試験による抗原解析を実施した。0.75%モルモット赤血球を用いたA(H3N2)亜型 A/Victoria/361/2011の抗血清に対するHI価は1,280(ホモ価2,560)を示し、A(H1N1)pdm09ウイルスA/California/7/2009(同2,560)の抗血清、B型山形系統B/Wisconsin/1/2010(同1,280)の抗血清、Victoria系統B/Brisbane/60/2008(同1,280)の抗血清に対するHI価は10未満であった。

HA遺伝子について遺伝子系統樹解析を行ったところ、2012/13シーズンワクチン株のA/Victoria/361/2011と同じVictoria/208クレードのサブクレード3Cに属し、T128A、R142G、N145Sのアミノ酸置換が共通であった(図1)。NA遺伝子については薬剤耐性に関与することが報告されている変異部位アミノ酸置換はみられず、国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター(以下感染研)で実施した分離株の薬剤感受性試験においても感受性の低下はみられなかった。なお、M2遺伝子ではアマンタジンに対する耐性変異(N31S)がみられた。

2. AH1pdm09ウイルスの輸入事例
2012年9月13日(第37週)にC区の医療機関より、タイから帰国した患者(37歳)でインフルエンザA型と診断されたとの報告があり、うがい液と鼻かみ検体を採取した。リアルタイムRT-PCRによる遺伝子検査でA(H1N1)pdm09ウイルスのHA遺伝子を検出し、2シーズンぶりにMDCK細胞でウイルスを分離した。0.75%モルモット赤血球を用いたHI試験による抗原解析では、A(H1N1)pdm09ウイルスA/California/7/2009の抗血清に対するHI価は2,560(ホモ価2,560)を示した。なお、A/Victoria/361/2011(H3N2)の抗血清(同2,560)、山形系統B/Wisconsin/1/2010(同1,280)の抗血清、Victoria系統B/Brisbane/60/2008(同1,280)の抗血清に対するHI価は10未満であった。

HA遺伝子解析ではクレード7に属し、2012年初夏に南半球で分離されたA/Christchurch/11/2012株とはP271T、E499Kのアミノ酸置換が共通であった(図2)。NA遺伝子解析ではペラミビル投与後ではあったが、耐性マーカーH275Yは検出されず、感染研においても分離株のオセルタミビル、ザナミビル、ペラミビルおよびラニナミビルに対する感受性の低下はみられなかった。内部遺伝子のPB2遺伝子では627番目のアミノ酸はトリ型(グルタミン)のままで、高温での増殖性が依然高い性状を保有していた。

3. B型(山形系統)の散発事例
2012年10月10日(第41週)にD区の基幹定点医療機関からインフルエンザB型と診断された患者(91歳)の鼻腔ぬぐい液が搬入され、MDCK細胞でウイルスを分離した。0.5%ニワトリ赤血球を用いたHI試験による抗原解析では、B型山形系統B/Wisconsin/1/2010の抗血清に対するHI価は320(ホモ価1,280)、Victoria系統B/Brisbane/60/2008(同1,280)の抗血清に対して10を示し、A(H3N2)亜型A/Victoria/361/2011(同2,560)の抗血清およびA(H1N1)pdm09ウイルスA/California/7/2009(同2,560)の抗血清に対するHI価は10未満であった。

HA遺伝子解析では昨シーズンの山形系統のウイルス株は2012/13シーズンワクチン株B/Wisconsin/1/2010を含むBangladesh/3333クレード(S150I、N165Y、G229Dのアミノ酸置換が共通)とBrisbane/3クレード(R48K、P108K、T181Aのアミノ酸置換が共通)に分かれたが、今シーズンの分離株は後者のクレードに属した(図3)。

AH3亜型ウイルスについては昨シーズン学童を中心に流行し、夏季以降高齢者や成人、就学前の小児からの分離例が続いており、今シーズンも流行が懸念される。A(H1N1)pdm09ウイルスはインド・ネパール・ラオス・タイなど2012年夏以降アジアでの報告が目立っており3) 、今後の発生動向に注意が必要である。また、山形系統のB型ウイルスは2004/05シーズン以降主流となった流行はなく、抗体保有率も低いことからワクチン接種等の感染予防対策が必要と思われる。

謝辞:薬剤感受性試験を実施していただいたインフルエンザウイルス研究センター第一室のチームの方々に深謝いたします。
 
 参考文献
1) IASR 33: 242, 2012
2) IASR 33: 270-271, 2012
3)Influenza update 12 October 2012- Update number 170
http://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/2012_10_12A_update_GIP_surveillance/en/index.html

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