国立感染症研究所

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国立感染症研究所

インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター

第1室

全国地方衛生研究所

流行株抗原性解析

 国立感染症研究所(感染研)では、国内で流行するインフルエンザウイルスの性状を把握し、インフルエンザ対策およびワクチン株選定に役立てるため、全国地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、解析を行っている。

 流行株とワクチン株の抗原性を比較する目的で、フェレット感染血清を用いた赤血球凝集阻止(HI)試験または中和試験による抗原性解析を実施した。

 現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。

 抗原性解析試験:結果の見方

2023/2024シーズン抗原性解析結果 (データ更新日:2024年 3月21日)NEW

A(H1N1)pdm09 図1

2023年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したほとんどの株が、2023/24シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/ウィスコンシン/67/2022株および卵分離A/ビクトリア/4897/2022株に対するフェレット感染血清とよく反応した。

 

A(H3N2)図2

2023年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した多くの株において、2023/24シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/ダーウィン/6/2021株に対するフェレット感染血清とは比較的よく反応したが、卵分離A/ダーウィン/9/2021株に対するフェレット感染血清との反応性は低下する株が認められた。これはワクチン推奨株を卵で分離・増殖する過程で生じる変異の影響と考えられる。一方、解析した株は、2024/25シーズンのWHOのワクチン推奨株として新たに選ばれた細胞分離A/マサチューセッツ/18/2022株と卵分離A/タイ/8/2022株に対するフェレット感染血清とよく反応し、2023/24シーズンのWHOのワクチン推奨株血清に対する反応性よりも良かった。

 

B(ビクトリア系統)図3

2023年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したすべての流行株が、2023/24シーズンのWHOのワクチン推奨株であるB/オーストリア/1359417/2021(細胞および卵分離株)に対するフェレット感染血清とよく反応した。

 

B(山形系統)

2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。

 

遺伝子系統樹
 国立感染症研究所インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター第一室が解析した季節性インフルエンザウイルスの遺伝子配列を用いて、HA遺伝子系統樹を作成した。国内外で流行しているウイルスと比較するため、各地方衛生研究所にて分離された株の遺伝子配列だけではなく、海外で分離された株の遺伝子配列も解析に加えている。なお、海外の研究機関で解析された遺伝子配列はインフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data:http://platform.gisaid.org/epi3/frontend)から入手している。 
2023/2024シーズン系統樹(データ更新日:2024年3月21日)NEW

インフルエンザウイルスは、A(H1N1)pdm09、A(H3N2)、B Victoriaいずれも遺伝子的に多様化が進んでおり、HA遺伝子系統樹内でそれぞれの集団に対しクレード名が付けられている。近年このクレード名が複雑化しているため命名法の変更がWHOにて検討されている。
参考: influenza-clade-nomenclature (https://github.com/influenza-clade-nomenclature)
本稿では、従来のクレード名と新クレード名を併記している。

 

A(H1N1)pdm09図1

2023/24シーズンの流行株はHA遺伝子系統樹の6B.1A.5a内で、6B.1A.5a.1(略名: 5a.1 = 新クレード名B)(D187A, Q189E)と6B.1A.5a.2(略名: 5a.2 = 新クレード名C)(K130N, N156K, L161I, V250A, E506D)(代表株A/Victoria/1/2020, A/Victoria/2570/2019)に分岐している。現在5a.2内にはサブクレード5a.2a(K54Q, A186T, Q189E, R259K, K308R)(= C.1)、さらに5a.2a.1(P137S, K142R, E224A, D260E, T277A, E356D, I418V, N451H) (= C.1.1) (代表株A/Wisconsin/67/2022)、D94N, T216A, I533Vを有するサブクレード(= C.1.7)が、また5a.2a.1 (C.1.1)内にT216Aを有するサブクレード(= C.1.1.1) (代表株A/Victoria/4897/2022)が派生している。我々が解析した株の71.4%が5a.2a.1に、28.6%が5a.2aに属した。新クレードの分類では、65.2%がC.1.1.1に、16.8%がC.1に、11.2%がC.1.7に、6.2%がC.1.1に属していた。また、NAタンパク質にH275Y置換を有するオセルタミビル耐性株が1株検出されたが、このウイルスの伝播は確認されていない。

 

A(H3N2)図2

最近の流行株は、HA遺伝子系統樹上のクレード3C.2a1b.2a.2 (Y159N, T160I, L164Q, G186D, D190N)(略名: クレード2 = 新クレード名G)に属している。クレード2内ではさらに2a (H156S) (= G.1)、2b (E50K, F79V, I140K) (= G.2)に分岐している。2a内では現在、2a.1 (D53G, D104G, K276R) (= G.1.1)、2a.1b (I140K, R299K) (= G.1.1.2)、2a.3 (D53N, N96S, I192F, N378S) (= G.1.3)、2a.3a (E50K) (= G.1.3.1)、2a.3a.1 (I140K, I223V) (= J)などが分岐している。2a.3a.1 (J)にはさらに、J.1 (I25V, V347M)、J.2 (N122D, K276E)、J.3 (V505I)、J.4(Q173R, K276E)が派生している。2023/24シーズンでは、世界的には2a.3a.1内のJ.1およびJ.2が主流である。我々が解析した株はすべてクレード2に属し、95.3%が2a.3a.1であり他に2a.1b, 2bも検出された。新クレードの分類では、86.3%がJ.1、4.2%がJ.2であり他はJ.3 (3.7%), G.1.1.2 (2.6%), G.2.1 (2.1%)であった。

 

B (ビクトリア系統)図3

近年のウイルスは、成熟HAに3アミノ酸欠損をもつクレードV1A.3(162-164アミノ酸欠損、K136E)(新クレード名A.3)に属しており、ほとんどはその中のV1A.3a.2(略名: 3a.2 = C)(A127T、P144L、K203R)に属している。C内ではC.1 (H122Q)、C.2 (T182A, T221A)、C.3 (E128K, A154E)、C.4 (E198G)、C.5 (D197E)が派生しており、C.5には更にC.5.1 (E183K)、C.5.2 (Q200P)、C.5.3 (V87A, E183K)、C.5.4 (V117I, E128K, A154T, K326R)、C.5.5 (R80G, E184K)、C.5.6 (D129N)、C.5.7 (E183K, E128G)が派生している。我々が解析した株は全て3a.2 (C)のC.5に属し、44.4%がC.5.7、29.6%がC.5.1、25.9%がC.5であった。

 

B (山形系統)

2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。

 

NA遺伝子系統樹

A(H1N1)pdm09

A(H3N2)

B(ビクトリア系統)

 

 

 

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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