国立感染症研究所

劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは

(2013年02月08日改訂)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は突発的に発症し、急速に多臓器不全に進行するβ溶血を示すレンサ球菌による敗血症性ショック病態である。メデイアなどで「人食いバクテリア」といった病名で、センセーショナルな取り上げ方をされることがある。

疫学

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は1987年に米国で最初に報告され、その後、ヨーロッパやアジアからも報告されている。日本における最初の典型的な症例は1992年に報告されており、毎年100-200人の患者が確認されている。そして、こ のうち約30%が死亡しており、きわめて致死率の高い感染症である。主な病原体はA群溶血性レンサ球菌である。A群溶血性レンサ球菌感染による一般的な疾患は咽頭炎であり、その多くは小児が罹患する。一方、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は子供から大人まで広範囲の年齢層に発症するが、特に30歳以上の大人に多いのがひとつの特徴である(IASR 2012年8号参照)。

病原体

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、主にA群溶血性レンサ球菌Streptococcus pyogenes により引き起こされる。S. pyogenes はグラム陽性の球菌で、連鎖状の配列を形成する。鞭毛を有していなく、芽胞を形成しない。また、カタラーゼ陰性である。ヒツジまたはウマの脱繊維血液を5%の割合に添加した血液寒天平板培地上でS. pyogenes を24 時間培養すると、直径0.5mm以上のコロニーを形成し、発育集落の周囲が完全に透明な溶血環が認められるβ溶血、または、β溶血に比べると溶血環は大きくなく、透明度や輪郭の鮮明さが劣るα溶血を示す。このS. pyogenes には数多くの表層抗原因子が知られている。このうちM蛋白質は菌の疫学マーカーとしてよく用いられているが、宿主細胞への付着や抗貪食作用をもつ病原因子のひとつでもある。また同時に、感染防御抗原としても重要な機能を果たしている。

臨床症状

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(severe invasive streptococcal infection 、または streptococcal toxic shock syndrome ;STSS)の患者は、免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず、突然発病する例がある。初期症状としては四肢の疼痛、腫脹、 発熱、血圧低下などで、発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、発病後数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群 (ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、ショック状態から死に至ることも多い。近年、妊産婦の症例も報告されている。

Stevens らの報告によると、本症の最も一般的な初期症状は疼痛であり、急激に始まり、重篤である(Stevens,1992,Stevens et al,1989)。続いて、圧痛あるいは全身症状が見られる。疼痛は通常四肢で見られる。疼痛の開始前に、発熱、悪寒、筋肉痛、下痢のようなインフルエン ザ様の症状が20%の患者にみられる(Stevens,1992, Stevens et al,1989)。全身症状としては、発熱が最も一般的である(ただし、患者の10%はショックによる低体温を示す)(Stevens,1992, Stevens et al, 1989)。錯乱状態(confusion)が患者の55%でみられ、昏睡や好戦的な姿勢がみられることもある(Stevens,1992, Stevens et al,1989)。局所的な腫脹、圧痛、疼痛、紅斑のような軟部組織感染の徴候は、皮膚の進入口が存在する場合によくみられる。発熱や中毒症状を示す患者で紫色の水疱がみられると、壊死性筋膜炎や筋炎のような深部の軟部組織感染を起こしている可能性が考えられる(Stevens,1995)。

病原診断

通常無菌的である部位(血液、脳脊髄液、胸水、腹水、生検組織、手術創など)からβ溶血を示すレンサ球菌が検出される。本症では顕著な菌血症を示すので、血液のグラム染色標本を検鏡するとレンサ球菌が直接観察される。分離培地には血液寒天培地を用いるが、溶血性レンサ球菌はこの培地上でβ溶血を示す直径0.5mm 以上のコロニーを形成する。本菌はグラム陽性球菌で連鎖状の配列を形成し、鞭毛を有していなく、芽胞を形成しない。また、カタラーゼ陰性である。その後、血清群別、糖分解試験等の生化学的性状試験や検査キットにより、A群溶血性レンサ球菌であることを同定する。

治療

抗菌薬としてはペニシリン系薬が第一選択薬である。また、組織内の菌密度が上昇すると菌の発育が抑制され、βラクタム系薬の効果が低下する現象が知られ ており、本症のように極端な敗血症病態では、細胞内移行性の高いクリンダマイシンを推奨する意見もある(Stevens et al.,1994)。さらに、免疫グロブリン製剤の効果も報告されている(Burry et al.,1992)。

血圧維持には大量の輸液が必要であるが、輸液量の許容範囲が狭いため、肺動脈圧の経時的観察が必要である。

壊死に陥った軟部組織は本菌の生息部位であり、筋壊死による腎不全および代謝性アシドーシスの悪化を防止するため、可及的広範囲に病巣を切除することが必要である。

感染症法における取り扱い  (2012年7月更新)

全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならない。

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参考文献

  1. Stevens DL :Invasive group A streptococcus infections. Clin Infect Dis 14:2‐ 13,1992.
  2. Stevens DL :Streptococcal infections of skin and soft tissue. In “Atlas of Infectious Diseases(Stevens DL, Mandell GL, ed)”.3.1‐3.11,Churchill Livingstone, New York, 1995.
  3. Stevens DL, Tanner MH, Winship J et al: Reappearance of scarlet fever toxin A among streptococci in the Rocky Mountain West:severe group A streptococcal infections associated with a toxic shock‐like syndrome.N Engl J Med 321 :1‐ 7,1989.
  4. Stevens DL,Bryant AE,Yan S :Invasive group A streptococcal infection:new concepts in antibiotic treatment.Int J Antimicrob Agent 4:297‐ 301,1994.
  5. Burry W,Hudgings L, Donta ST et al.:Intravenous immunoglobulin therapy for toxic shock syndrome.JAMA 267 :3315‐ 3316,1992.
 
(国立感染症研究所細菌第一部 池辺忠義)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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