国立感染症研究所

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2011年に人から広域に分離された腸管出血性大腸菌O157およびO26 のPFGEパターンのクラスター解析

(IASR Vol. 33 p. 127-128: 2012年5月号)

 

国立感染症研究所細菌第一部に送付され解析を行った2011年分離のヒト由来EHECは2,182株あり、そのうちO157は1,215株、O26 は458株であった(2012年2月現在)。2011年にはXba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンがO157で607種類(2011年に初めて検出されたパターンはg1~g502)みられ、少なくとも3つ以上の異なる都府県から分離された同一PFGEパターンが16種類あった。このうち、6つ以上の都府県から分離されたO157には5種類の泳動パターンがあり[Type No.(TN)c57、c272、d483、d580、f93]、特にTN c272およびf93を示す株は、それぞれ11都府県、19府県の広域で分離されていた(図1)。また、O26では、2011年にXba IによるPFGEパターンが164種類(このうち2011年に初めて分離されたものはg1~g155)みられ、7県から分離された同一PFGEパターン(TN b84)があった。TN c57、c272は2007年から断続的に分離されているパターンであり、TN d483、d580は2008年に初めて分離されたパターン、TN f93は2010年に初めて分離されたパターンである。これらの株についてBln IによるPFGEパターンを比較すると、TN d483およびd580では変異株が数種類存在したが、他のパターンでは変異型はほとんどみられなかった。それぞれのパターンを示す株は、2~10カ月にわたって各地の散発事例から分離されていた。また、TN f93を示す株は、7~8月に19府県の広域から分離されており、散発事例だけでなく集団発生事例も含んでいた。

広域分離株および一部の散発事例由来株についてMultiple-locus variable-number tandem repeat analysis(MLVA)法により、O157で9種類、O26で18種類の遺伝子座におけるリピート数について調べると、一部の広域分離株では複数の遺伝子座でリピート数が異なる株があったことから、その遺伝学的な多様性が示唆された。MLVAタイプ間の関連性をMinimum Spanning Treeで図2に示す(円の大きさは分離株数に基づき、距離は変異の度合を反映する)。TN f93およびc272を示す株は、リピート数の一致する株(大円で表示)の集合体であるが、その他の株ではリピート数が少しずつ異なっている株(変異株;枝分かれした小中円で表示)が集合して構成されていることがわかる。特に過去から断続的に分離されているTN c57、d483およびd580の株では、多数の変異株が集合しており、多様な遺伝子型の株が含まれていることが示唆された。TN f93およびc272を示す株については、変異株があるものの、大部分が、集団発生由来株で報告されているわずかなリピート数の変異、すなわち、1遺伝子座について繰返し数が1つ異なる変異を示す株であった。O26 については、すべての株でリピート数が一致していた。

PFGEタイプが同一である株にも、分離時期が長期に及ぶ場合には変異株が含まれていることがある一方で、MLVAにおいても同一タイプの株については、その関連性が高いと考えられる。このような株による広域発生事例を早期に探知し拡大を防ぐとともに、原因究明に向けた対策が重要である。


国立感染症研究所細菌第一部
寺嶋 淳 伊豫田 淳 泉谷秀昌 三戸部治郎 石原朋子 大西 真

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