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ニガナの白和えを原因食品とするEscherichia albertiiによる集団食中毒事例-沖縄県

(IASR Vol. 37 p.252-253: 2016年12月号)

2016(平成28)年5月に沖縄県内の1保健所管内で食中毒疑い事例が発生し,E. albertiiによる集団食中毒事例であることが判明したので概要を報告する。

 事例概要

2016年5月26日,愛知県生活衛生課から当県生活衛生課へ「沖縄県に修学旅行に行った高等学校にて食中毒の疑いがある」旨の連絡があった。当該団体376名は,5月22日~24日の日程で旅行し,食事は12施設を利用していた。376名中217名(57.7%)が有症症状を示し,主症状は下痢(64%),腹痛(56%),倦怠感(40%) および頭痛(38%) であった。発熱,吐き気,嘔吐はそれぞれ14%,8%,1%であった。潜伏期間は32.8時間であり,5月24日~25日に発症時間が集中する一峰性の患者発生パターンを示した。他の有症者の嘔吐物や糞便に曝露されるなどの感染症を疑うエピソードはなく,食品等による単一曝露が疑われた。管轄保健所による疫学調査,愛知県衛生研究所および当所による病因物質検査によって,当該事例はニガナの白和えを原因食品とするE. albertiiによる集団食中毒事例であると断定された。

検査概要

愛知県衛生研究所において有症者19名を対象に,腸管出血性大腸菌等の食中毒細菌20種およびノロウイルスについて検査が実施された。対象の食中毒細菌およびノロウイルスは陰性であったが,19名中16名のソルビトール・マッコンキー寒天培地(SMC培地)上にソルビトール非分解の特徴的な集落が多数観察された。分離株は非運動性,β-glucuronidase陰性,eae陽性であり,E. albertii診断用プライマー1,2)を用いたPCRを実施したところ,lysPmdhclpX陽性であったことからE. albertiiが起因菌として同定された。

当所において,食中毒疑い施設12施設の従業員便108検体,うち9施設の検食158検体のE. albertii分離同定検査を実施した。E. albertii分離同定検査は,検体を緩衝ペプトン水で破砕し,42℃で1晩培養後,lysPを対象にスクリーニングPCRを実施した。スクリーニングPCR陽性の培養液をSMC培地およびXLD培地に塗抹し,37℃で1晩培養した。SMC培地上のソルビトール非分解集落およびXLD培地上の無色透明集落を対象にE. albertii診断用プライマーを用いたPCRを実施したところ,A施設の検食ニガナ(キク科の葉野菜)の白和えおよびA施設従業員からE. albertiiが分離された。分離されたE. albertiiについてアピ20,アピ50CH,下痢原性大腸菌の既知病原遺伝子(stx1stx2stx2fipaH,LT,STp,STh,eaeaggRastAafaD)のPCRおよび病原遺伝子とされるcdt遺伝子のPCR3,4)を実施した。有症者,ニガナの白和えおよびA施設従業員由来株はすべて同一の生化学的性状を示し(),病原遺伝子としてeaecdt-IIおよびcdt-Vを保有していた。分離株についてXbaIを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を実施したところ,有症者,ニガナの白和えおよびA施設従業員由来株は同一PFGEパターンを示し,同一株であることが示唆され,さらにニガナの白和えには同一の単一株が存在すると考えられた()。また,別ロットの原因食品原材料2検体(ニガナ,豆腐),豆腐製造施設の井戸水3検体,ニガナ栽培畑土壌,肥料,使用水の計3検体,原因施設および豆腐製造施設の拭き取り検体30検体も同様にE. albertii分離同定検査を実施したところ,結果は陰性であった。

考 察

別ロットの原材料は陰性であったが,有症者,ニガナの白和えおよびA施設従業員由来株のPFGEパターンの一致,愛知県修学旅行団体以外の2団体121名にはニガナの白和えは提供されておらず食中毒様症状を呈した有症苦情はなかったこと,ニガナの白和えは加熱工程が入らない食品であることから本事例株は原材料由来であることが考えられた。

謝 辞:本事例のE. albertii同定検査に当たり,ご協力いただきました国立感染症研究所感染症疫学センター・村上光一先生およびご助言いただきました大分県衛生環境研究センター・成松浩志先生に深謝いたします。

 

参考文献
  1. Hyma KE,et al.,J Bacteriol 187: 619-628,2005
  2. Oaks JL,et al.,Emerg Infect Dis 16: 638-646,2010
  3. Tóth I,et al.,J Clin Microbiol 41: 4285-4291,2003
  4. Janka A,et al.,Infect Immun 71: 3634-3638,2003


沖縄県衛生環境研究所
 髙良武俊 仲間絵理 喜屋武向子 柿田徹也 久場由真仁 加藤峰史 久高 潤
沖縄県北部保健所
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愛知県衛生研究所
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