国立感染症研究所

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本州以南第2例目の届出となった犬のエキノコックス(多包条虫)症─愛知県

(IASR Vol. 35 p. 183: 2014年7月号)

エキノコックス症は、感染症法では4類に指定され、動物由来感染症の対策強化を図った2003年10月の一部改正により、犬の感染事例についても診断した獣医師に届出が義務づけられるようになった。今回、愛知県内における野犬の寄生虫調査中、本症に感染した個体を発見し、北海道以外の都府県では第2例目となる届出を行ったので、その概要を報告する。

当該個体は、2014年3月11日に知多郡阿久比町で捕獲後、県動物保護管理センター知多支所に収容された中型雑種の雄成犬である。腸管寄生虫の保有状況を調べる目的で直腸便を検査したところ、多数の条虫卵が検出された。虫卵は酪農学園大学においてテニア科に属する条虫類のものと形態学的に同定され、さらに詳細な種鑑別のため、国立感染症研究所で遺伝子検査が実施された。12SリボソームRNA領域のnested PCR法を行い、得られた増幅断片(250bp)の塩基配列を解読した結果、北海道由来の多包条虫Echinococcus multilocularisと完全に一致したことから(accession number AB936073)、4月4日、所管の半田保健所への届出がなされた。

エキノコックス症の原因種のうち、わが国に常在が認められるのは多包条虫で、その流行地は北海道のみに限局する。そのため、感染症法に基づき届け出られた犬の感染例は、2005年に埼玉県で発見された例1)を除けば、いずれも北海道で発生した事例であった。しかし、これまでの疫学調査の結果、本種が種々の家畜の人為的移動に伴って国内各地へ持ち込まれていることが明らかにされており2-4)、とくに犬は遠隔地への伝播において主要な役割を果たす動物と考えられている4,5)

当該犬にはマイクロチップや鑑札等の装着がなく、北海道との関連を含め、その由来を確認することはできなかった。したがって現在のところ、今回の例が何らかの理由によって生じた感染個体の侵入を検知したものなのか、あるいはすでにその生活環が局地的に定着しているのかは不明である。だが、本届出の契機は糞便中に排泄された虫卵を検出したことである。このことは、当該犬がヒトをはじめ、さまざまな中間宿主への感染源となり得ていたことを意味する。野生動物間に流行巣を形成した多包条虫の根絶はきわめて困難であり、その拡大前に適切な処置をとることが望ましい。そのためには早急に感受性動物を対象とした疫学調査を進め、エキノコックス症の侵入実態を把握する必要がある。
 

参考文献
  1. IASR 26: 307-308, 2005
  2. IASR 30: 243-244, 2009
  3. IASR 31: 210-212, 2010
  4. Morishima Y, et al., Emerg Infect Dis 12: 1292-1294, 2006
  5. 土井陸雄, 他, 日公衛誌50: 639-643, 2003

空と太陽どうぶつ病院 登丸優子
酪農学園大学 福本真一郎
国立感染症研究所 森嶋康之

 

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