国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.36 No.6(No.424)

西アフリカにおけるエボラ出血熱 2015年5月現在

(IASR Vol. 36 p. 93-94: 2015年6月号)

エボラ出血熱(Ebola hemorrhagic fever:EHF)はエボラウイルスによる重篤な急性熱性疾患であり、ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱等とともに、ウイルス性出血熱(viral hemorrhagic fever:VHF)の一つである。本疾患は必ずしも出血症状を伴うわけではないことなどから、近年ではエボラウイルス病(Ebola virus disease:EVD)と呼称されることが多い。

エボラウイルスは、マイナス1本鎖RNAをウイルス遺伝子として持ち、フィロウイルス科エボラウイルス属に分類され、現在5つの亜種(ザイール、スーダン、ブンディブギョ、タイフォレスト、レストン)の存在が知られる(本号48ページ)。西アフリカでのEHF流行の原因はザイールエボラウイルスによるもので、ザイール株による感染の致命率が最も高いとされる。

EHFは、1976年にスーダンとコンゴ民主共和国(旧ザイール)で初めてその存在が確認された(IASR 32: 190-191, 2011)。エボラウイルスの自然宿主は野生動物、特にコウモリと推定されている。流行における最初の患者(初発例)は感染野生動物の体液と接触することで感染し、EHF流行においては患者の血液や体液を介したヒト-ヒト間の感染が起こる。症状の出ていない潜伏期間中(2~21日間)の感染者からは感染しないとされている。EHFの一般的な症状は、突然の発熱、強い脱力感、筋肉痛、頭痛、喉の痛みなどに続く、嘔吐、下痢、発疹、肝機能および腎機能の異常、出血傾向である。現在のところ、治療は補液等の対症療法のみである(本号6916ページ)。

アフリカにおけるEHF発生動向
1976年にEHFが報告されて以来、ウガンダやコンゴ民主共和国等、中央アフリカ諸国を中心に約30事例のアウトブレイクが報告されている。1976~2013年までに報告された事例の症例数および死亡例数の中央値(範囲)は、それぞれ44例(1~425)および29例(1~280)であった。各事例の流行期間は、数週間~4カ月程であった(本号4ページ)。

2014年3月に西アフリカのギニアでのEHFの集団発生事例が世界保健機関(WHO)に報告されて以降、国境を接するシエラレオネ、リベリアに感染が拡大し、過去最大のEHF流行となった(本号4ページ)。この流行の発端は、2013年12月に発症したギニアの2歳児とされている。2015年5月20日現在、WHOへの報告患者(疑い・可能性例を含む)は計26,969例(うち死亡11,135例)であり、ギニア3,635例(同2,407例)、リベリア10,666例(同4,806例)、シエラレオネ12,632例(同3,907例)が報告されている。西アフリカ3カ国(ギニア、リベリア、シエラレオネ)における新規患者発生数は、2014年後半にピークに達し、2015年に入って減少してきた(図1)。2015年5月20日現在、ギニア、シエラレオネでの新規患者の報告数は、ピーク時の週100例に比べ、週10例程度に減少してきている。リベリアでは2015年5月9日にEHF流行の終息宣言がなされた(本号4ページ)。

推定感染経路
西アフリカ3カ国でのEHF流行も過去のEHF事例と同様に、ヒトの感染初発例の感染源は野生動物とされている。その後、患者の血液や体液との直接的な接触に加え、伝統的な葬儀・埋葬における遺体や、遺体を清めた水との濃厚な接触により、一度に複数の人が感染し、これが繰り返された(本号478ページ)。また、西アフリカ3カ国では、EHF患者の治療・看護にあたった医療従事者において、接触感染予防対策が適切に実施できなかったことから、医療施設自体が感染の場となった(本号67ページ)。

なお、西アフリカ3カ国からの輸入例またはそれらによる感染患者が計7カ〔ナイジェリア、セネガル、マリ、米国、スペイン、英国、イタリア(2015年5月14日現在)〕から報告されている。しかし、いずれも疑い患者の隔離、確定例接触者の隔離などによって輸入国での流行は限定的であった(本号12ページ)。

性別と年齢
2015年5月20日現在、西アフリカ3カ国いずれの国においても、患者数は15~44歳の年齢群が最も多い。

各国の年齢群別人口10万人当たりの患者数は、ギニア(0~14歳11、15~44歳39、45歳以上53)、リベリア(同33、120、132)、シエラレオネ(同79、211、279)である。男女差はない(本号4ページ)。

予防と対策
感染経路は直接接触感染が主体であるので、対策には適切な感染予防法の実践が重要である。感染死亡者の死体との接触を控えること、適切な患者の隔離と対症療法、確定患者の接触者調査と必要に応じた隔離により、感染連鎖を絶つことができる(本号11ページ)。なお、ワクチンや治療薬は開発中で、現時点で承認されたものはない(本号9ページ)。

国際社会は、西アフリカ3カ国と調整し、感染の連鎖を絶つために連携し、組織的な対策を行った。WHOは2014年8月に、「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern)」を宣言し、保健医療対策を主導し、日本を含む各国は専門家を西アフリカ3カ国に派遣し、人的貢献を行った(本号6716&19ページ)。国連は同9月に、国連エボラ緊急対応ミッション(UN Mission for Ebola Emergency Response:UNMEER)を揚げ、国連関連の専門または補助機関および外部支援組織等との調整・連携を行い、一体化した対応を行った(本号11ページ)。

日本における実験室診断体制
感染症法に基づく感染症発生動向調査では、EHFは、全数把握の一類感染症として診断後直ちに届け出ることが医師に義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-01-01.html参照)(本号314ページ)。

発熱等の臨床症状、海外渡航歴、EHF患者との接触歴等から、医師によってEHFの疑似症患者であると判断された場合、患者は隔離のため特定または第一種感染症指定医療機関に移送される(本号1416ページ)。移送後に採取された血液検体は、直ちに国立感染症研究所(感染研)に送付され、感染研においてエボラウイルスの有無を判定するための遺伝子検査が行われる。感染研ではエボラウイルスのL遺伝子をターゲットにしたリアルタイムPCRとPCR従来法およびNP遺伝子をターゲットにしたPCR従来法と、複数のPCR検査を同時に行っている (本号17ページ)。

2015(平成27)年5月現在、厚生労働省健康局結核感染症課長通知(健感発0511第2号)により、ギニアまたはシエラレオネに過去21日以内の滞在歴が確認され、38℃以上の発熱症状を呈する者、または21日以内にVHF患者の体液等との接触歴があり、かつ、体熱感を訴える者は、VHFの疑似症患者として取り扱われることとなっている。2014(平成26)年10月27日~2015(平成27)年5月19日まで、EHFの疑似症となった7例の患者はすべてエボラウイルス遺伝子検査陰性であった(本号1617ページ)。

今後の対策
西アフリカ3カ国におけるEHF患者の新規患者発生数は、2015年に入ってから減少しているが、上記3カ国と国際社会は、流行が確実に終息するまで、流行状況を慎重に監視していかなければならない。また、国内外のEHFを含むVHF患者発生に備え、診断・検査の体制を整備しておく必要がある(本号17ページ)。

 

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