国立感染症研究所

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Elizabethkingia anophelisクラスターの調査, 2014~2016-米国イリノイ州

(IASR Vol. 38 p.68: 2017年3月号)

Elizabethkingia属菌は環境に存在する多剤耐性グラム陰性桿菌で, 医療関連感染の原因となる。Elizabethkingia anophelis(EKA)は2011年に初めて蚊の中腸から分離同定された。EKAによる医療関連感染では高い発症率と症例致命率(23.5%)が示唆されている。

訳者注:本文にて引用されている文献〔Lau SKP, et al., Elizabethkingia anophelis bacteremia is asso-ciated with clinically significant infections and high mortality, Sci Rep 6, 26045; doi: 10.1038/srep26045 (2016)〕によると, 2004~2013年の観察期間に, 香港の5病院でEKA菌血症とみられる症例が17例あったことがわかり, このうち15例は肺炎(5), カテーテル関連菌血症(4), 新生児髄膜炎(3), 医療関連菌血症(2), 好中球減少性熱(1) と診断されていた。合併症として, 急性肺水腫, 鬱血性心不全, 多臓器不全, 播種性血管内凝固症候群, 敗血症性ショック, 吐血, 急性腎不全, 代謝性アシドーシス, 脳室内出血などがみられた。

2016年2月, 米国ウィスコンシン州保健局はイリノイ州保健局(IDPH)等の隣接する保健当局に対し, ウィスコンシン州住民の間でEKAのアウトブレイクが続いていると通知した。IDPHが州内の医療・公衆衛生・検査関連機関において過去2年間に分離されたElizabethkingia属菌を米国CDCに依頼し分析した結果, 2014年6月23日~2016年3月31日に11症例から分離された12菌株はすべてEKAで, うち11菌株はウィスコンシン州の株と異なるクラスターを形成していることがパルスフィールド・ゲル電気泳動と全ゲノム配列解析 (WGS) で判明した。ゲノムの80%を占める共通配列において, 平均39.6(範囲9~60)の一塩基多型(SNPs)が確認された。

IDPHはリスク因子と感染経路の調査を行った。症例は, 2014年1月1日以降にイリノイ州で無菌検体や気道検体からEKAが分離され, 少なくとも1検体でCDCの特定したクラスターパターンとの相違がWGSで60 SNPs未満であった者, と定義した。10症例がこれに合致し, 血液(8) または呼吸器検体(2) でEKA陽性であった。10症例は年齢中央値68歳(範囲35~83歳), 男性7名, 州北部の隣接しない3郡に在住していた。基礎疾患〔閉塞性肺疾患(9), 糖尿病(8), 慢性創(7)〕があり, 挿管(8), 人工呼吸管理(8), 胃瘻(7) が行われていた。2016年6月2日までに7名死亡, うち6名はEKA陽性検体提出後30日以内に死亡した。すべて医療施設に入院, 9名は2カ所以上に入院(延べ19施設), ただし同一医療施設での入院は限定的だった。

Elizabethkingia属菌の感染はIDPHへの報告対象でないため, ベースラインの報告数は不明であった。そこで, 上記19施設を対象に2012年1月1日~2016年5月16日のEKA感染症例を調査したところ, 15施設で計77症例〔年平均17.1症例(範囲13~19), 施設平均5.1症例(範囲1~16)〕とわかった。2012~2013年に発生したElizabethkingia meningosepticaのアウトブレイクで環境から採取された菌株は, 実は今回のクラスターに属するEKAと判明した。

EKA分離症例のクラスターには共通の医療関連曝露がなく, 2014~2016年の症例数は過去と比べ多くなく, さらに2014~2016年の菌株は2012~2013年の環境分離株と一致したことから, 感染源は単一というよりもむしろ, 重症患者での散発的な感染が続いている状況と考えられた。

分子型別では, 疫学データのみではわからないクラスターの判別が可能である。しかし, その結果の解釈は, 変異率や多様性の情報に乏しい希少病原体の場合には特に注意を要する。この調査結果は, 疫学や臨床のデータがアウトブレイク調査に重要であることを示している。


[CDC, MMWR 65(48): 1380-1381, 2016]
(抄訳担当:感染研/防衛医科大学校・金山敦宏)

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