国立感染症研究所

abroad b ico2016年6月16日更新
国立感染症研究所albopictus06

概要

  • albopictus062007年のミクロネシア連邦ヤップ島での流行以降、2016年6月9日時点で、ジカウイルス病は、中南米やカリブ海領域で流行が持続し、アジアや南太平洋地域への地理的拡大も見せている。日本でも10例のジカウイルス病の症例が確認されており、いずれも流行地への渡航歴がある輸入症例である。
  • 流行地における研究のレビューにより、妊婦のジカウイルス感染が母子感染による小頭症等の先天異常の原因になると結論付けられた。また、疫学研究によりジカウイルス感染とギラン・バレー症候群との関連も明らかにされた。
  • 日本では、ジカウイルス感染症は、感染症法上の4類感染症と検疫感染症に追加されている。また、「蚊媒介感染症の診療ガイドライン」(第2版)が公表され、診療体制の整備が進められている。
  • 妊婦及び妊娠の可能性がある人の流行地への渡航は控えるとともに、流行地への渡航者に対しては、ジカウイルス感染症の情報提供及び防蚊対策の徹底を、より一層周知することが重要である。
  • 性行為感染及び母子感染のリスクを考慮し、
    1. 流行地に滞在中の男女は、症状の有無に関わらず、性行為の際にコンドームを使用するか、性行為を控えること
    2. 流行地から入国(帰国を含む)した男女は、ジカウイルス病の発症の有無に関わらず、最低8週間(パートナーが妊婦の場合は妊娠期間中)は性行為の際にコンドームを使用するか、性行為を控えること

      が推奨される。

 

背景

 ジカウイルス感染症は、フラビウイルス科フラビウイルス属のジカウイルスによる感染症で,流行地で蚊に刺されることによって感染する。ジカウイルスは、1947年にウガンダのZika forest(ジカ森林)のアカゲザルから初めて分離された。ジカウイルス感染症は、2月5日に感染症法上の4類感染症に指定され、ジカウイルス病と先天性ジカウイルス感染症に病型分類されている。

 ジカウイルス病は、1950年代からアフリカと一部の東南アジア地域でヒトにおける流行が確認されていた[1]。2007年にはそれまで流行が確認されたことのなかったミクロネシア連邦のヤップ島で流行し、2013~2014年には仏領ポリネシアで約3万人の感染が報告された。2014年にはチリのイースター島、2015年にはブラジル及びコロンビアを含む南アメリカ大陸で流行が確認され、流行地が急速に拡大している。一方、本邦においては、現在までのところ、2013年12月に仏領ポリネシア、ボラボラ島での滞在歴のある男性(27歳)、女性(33歳)の2症例[2]、2014年7月にタイのサムイ島での滞在歴のある男性(41歳)の1症例[3]、2016年2~6月に中南米及びオセアニア太平洋諸島での渡航歴のある7症例、計10例が確認されている。

 2016年8、9月にはブラジルのリオデジャネイロでオリンピックとパラリンピックが開催され、多くの邦人が渡航することが予測される。また、妊婦のジカウイルス感染が小頭症等の先天異常の原因となることもあり、流行地への渡航等に関するリスクを評価した。

 

疫学的所見

 米国CDC、欧州CDC(ECDC)によると、2015年以降2016年6月3日までに、中央及び南アメリカ大陸、カリブ海地域では38の国や地域(アルゼンチン(トゥクマン州)、アルバ、バルバドス、ベリーズ、ボリビア、ボネール、ブラジル、コロンビア、プエルトリコ、コスタリカ、キューバ、キュラソー島、ドミニカ国、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、仏領ギアナ、グレナダ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、ジャマイカ、マルティニーク、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、ペルー、仏領サン・バルテルミー島、セントルシア、セント・マーティン島(仏領サン・マルタン及び蘭領シント・マールテン)、セントビンセント及びグレナディーン諸島、スリナム、トリニダード・トバゴ、米領バージン諸島、ベネズエラ)、アジア・西太平洋地域では12の国や地域(米領サモア、フィジー、ミクロネシア連邦コスラエ州、マーシャル諸島、ニューカレドニア、パプアニューギニア、フィリピン、サモア、ソロモン諸島、タイ、トンガ、バヌアツ、ベトナム)、インド洋地域ではモルジブ、アフリカではカーボベルデから症例が報告されている。

 013~2014年の仏領ポリネシアでのジカウイルス病の流行時、ギラン・バレー症候群の症例数の増加が報告された[4]。2015年7月にはブラジル、12月にはエルサルバドル、2016年以降にはコロンビア、スリナム、ベネズエラ、ホンジュラス、ドミニカ共和国でも同様にギラン・バレー症候群の症例数の増加が報告されている[5]。仏領ポリネシアにおけるジカウイルス病とギラン・バレー症候群の症例対照研究では、ギラン・バレー症候群を発症した42例中41例(98%)が血清学的に発症前にジカウイルスに感染していたことが確認され、ジカウイルス感染とギラン・バレー症候群との関連性が明らかにされた[6]。また、カリブ海のグアドループからは急性脊髄炎、フランスからは髄膜脳炎を合併したジカウイルス病の症例(いずれも脳脊髄液からジカウイルスRNAが検出されている)が報告された[7,8]

 胎児が小頭症と確認された妊婦の羊水からジカウイルスRNAが検出され、出産後まもなく死亡した小頭症を呈していた出生児の血液及び脳組織からジカウイルスRNAが検出された[9]。ブラジル保健省(Ministério da Saúde)はジカウイルス感染と小頭症の流行に関連があると発表し、また同時にジカウイルス病に関連した死亡例が報告されたことも発表した[10,11]。2015年10月から2016年6月4日までの間に7,830人の小頭症が疑われる胎児又は出生児が報告されている。しかしながらが、現時点ではジカウイルス感染との関連性がある確定例は1,551例であり[12]、症例の発生地は北東部に集中している[13]。ハワイとスロベニアにおいて、妊娠中にブラジルに居住歴があり、発熱、発疹等ジカウイルス病に矛盾しない症状の既往がある母親から、小頭症の出生児と胎児が報告された[14,15]。米国本土でも同様の報告がある[16]。ブラジルにおけるコホート研究[17]では、発熱、発疹を呈した妊婦88人中、72人(82%)からジカウイルスRNAが検出された。これらの妊婦72人のうち42人が胎児超音波検査によって経過観察され、12人(29%)に小頭症を含む胎児異常が認められた。一方、ウイルスが検出されなかった16人では胎児超音波検査による経過観察が行われたが、胎児異常は認めなかった。2013~2014年の仏領ポリネシアでのジカウイルス病の流行時には8例の小頭症児を認めており、妊娠初期(第1三半期)に妊婦がジカウイルスに感染すると小頭症児発生のリスクが高くなる可能性が指摘されている[18]。さらに、ブラジル、バイアでの疫学調査においても妊娠初期のジカウイルス感染が小頭症発生リスクと強い相関があることが報告されているが[19]、妊娠中期(第2三半期)、後期(第3三半期)のジカウイルス感染により小頭症の発症リスクが高まる可能性は否定できない[18]。こうした疫学的な研究や、妊娠期間中の感染との関連性、次項に示す臨床的特徴、ウイルス学的に神経親和性があり[20]、小頭症児の脳組織からジカウイルス存在の証拠が得られたこと等から、米国CDCは、妊婦のジカウイルス感染が小頭症等の先天異常の原因になると結論付けた [21,22]

 2016年3月31日以降、WHOもジカウイルスがギラン・バレー症候群と小頭症の原因とする科学的コンセンサスが得られたとしている[23]

臨床所見

ジカウイルス病

 ジカウイルス病の潜伏期は2~12日(多くは2~7日)とされている[1,24,25]。発症者は主として軽度の発熱(<38.5℃)、頭痛、関節痛、筋肉痛、斑丘疹、結膜炎、疲労感、倦怠感などを呈し、血小板減少などが認められることもある。斑状丘疹は掻痒感を伴うことが多く、90%以上に認められるのに対して、発熱の頻度は36-65%とされている[26,27]。また、大半の症例は入院を必要としなかった。また、不顕性感染が感染者の約8割を占めるとされている。米国CDCが流行地からの入国者に対して行ったジカウイルスの不顕性感染に関する検査結果によると、無症候で検査を受けた2,557人中ジカウイルス病と確定されたのは7人(0.3%)であった[29]

ジカウイルス病の合併症

 仏領ポリネシア等では、上述のようにジカウイルス病流行時にギラン・バレー症候群の症例数が増加したことが報告されている。また、ギラン・バレー症候群だけでなく、急性脊髄炎や髄膜脳炎を合併した症例も報告されている[30,31]

先天性ジカウイルス感染症

 2015年8~10月にブラジルで認めた小頭症症例35例の臨床的特徴によると、25例(71%)は頭囲が性別・出生時週数に応じた頭囲の平均値の3 SD(標準偏差)未満の重症例であった。同時に、5例(14%)で先天性内反足、4例(11%)で先天性関節拘縮、2例(18%)で網膜異常等を認め、検査においては、17例(49%)に神経学的検査異常(筋緊張や腱反射の亢進など)、全例に何らかの神経画像検査異常(頭蓋石灰化や脳室拡大など)を認めた[32]。また、ジカウイルス感染に関連する小頭症児における眼所見に異常所見が認められることも報告されている[33]。2013~2014年の仏領ポリネシアでの流行に関連した先天性ジカウイルス感染症の症例が19例報告された[34]。小頭症の症例だけではなく、小頭症は認めないが脳に器質的異常が認められた症例や、脳幹機能に異常が認められた症例が報告されている。

 

感染経路

 ジカウイルス感染症はヤブカ(Aedes)属のAe. aegypti(ネッタイシマカ)、 Ae. hensilliAe. polynesiensisAe. albopictus(ヒトスジシマカ)などによって媒介される。ヤップ島での流行ではAe. hensilliが、仏領ポリネシアでの流行では Ae. polynesiensisとネッタイシマカがそれぞれ媒介蚊と考えられている[35]。また、シンガポール及びガボンにおける研究報告によると、ヒトスジシマカがジカウイルスの媒介蚊としての役割を果たす可能性が推定されており[36,37]、メキシコの媒介蚊のサーベイランスにおいても、ヒトスジシマカからジカウイルスRNAが検出された[38]。日本国内に広く分布するヒトスジシマカはデングウイルスと同様にジカウイルスにも感受性がある。

 その他に、母子感染(胎内感染)、輸血、性行為による感染経路等がある[1]。流行地から帰国した男性から、発症前に渡航歴のないパートナーへ性行為によって感染したと考えられる事例が報告されている[39,40]。米国ではアフリカ、中南米、カリブ海地域から帰国した男性から感染した事例が10例(2016年6月2日現在)報告され、うち1例は男性から男性に感染した事例である[41-43]。ブラジル渡航中にジカウイルス病を発症した男性から女性への性行為による感染事例では、発症24日後に男性の精液検体から感染能を有するウイルスが分離されたと報告されている[44]。本事例では同日に尿中と精液中のウイルス定量も施行した。男性のウイルスRNA濃度は尿中では2.1×104コピー/mlであったのに対し、精液中では3.5×107コピー/mlと明らかに高値であった。さらに、本事例の男性と女性から得られたサンプルを用いた全遺伝子シークエンス解析結果から、男女間の性行為によるジカウイルス感染経路が明らかになった。

 これまでに報告された性行為による感染事例の中では、ジカウイルスの感染性がジカウイルス病の発症後41日間程度維持されている可能性が示されている [45]。また、発症62日後にPCR法によりウイルスRNAが検出されたとの報告があるが、これは必ずしも感染性があることを示すものではない[46]。さらに、流行地域から帰国した無症候の男性からパートナーへの性行為を介した感染も報告されている[47]。現時点ではジカウイルス病の女性から性行為によってパートナーへ感染した事例は報告されていない。

 また、ジカウイルス病のウイルス血症の持続期間に関して、妊婦以外では、最長で発症11日後に血液からPCR法でジカウイルスRNAが検出された報告が見られる[48]. 一方、妊婦がジカウイルス病を発症した場合のウイルス血症の持続時間の知見は少ない。最近の報告では、胎児がジカウイルスに感染した妊婦において、感染後10週経過後も血中からジカウイルスRNAがPCR法で検出されている [49]

 母乳から出産8日後にジカウイルスRNAが検出されたという報告があるが、ウイルスは分離されなかった[50]。現時点では唾液、尿、母乳を介して感染した事例の報告は見られず、WHOは母乳栄養を推奨している[51]

 

診断方法

 特異的な臨床症状・検査所見に乏しいことから、実験室内診断が重要となる。ジカウイルス病の主要な検査方法は遺伝子検査法によるウイルスRNAの検出(血液、尿)である。ジカウイルス特異的IgM/IgGのELISAによる検出法も報告されているが、デングウイルスIgMとの交差反応が認められる症例もあるため、結果の解釈には注意が必要である。また、中和抗体価を測定すればデングウイルス感染とジカウイルス感染は血清学的に鑑別できる。また、急性期と回復期のペア血清での測定が重要である。

 

WHOおよび諸外国の対応

 2016年6月9日現在、米国CDCは、より詳細な調査結果が得られるまでは現在流行している47の国や地域(アルゼンチン、アルバ、バルバドス、ベリーズ、ボリビア、ボネール、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、キューバ、キュラソー島、ドミニカ国、ドミニカ共和国、エクアドル、エルサルバドル、仏領ギアナ、グレナダ、グアドループ、グアテマラ、ガイアナ、ハイチ、ホンジュラス、ジャマイカ、マルティニーク、メキシコ、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、プエルトリコ、仏領サン・バルテルミー島、セントルシア、セント・マーティン島(仏領サン・マルタン及び蘭領シント・マールテン)、セントビンセント及びグレナディーン諸島、スリナム、トリニダード・トバゴ、米領バージン諸島、ベネズエラ、米領サモア、フィジー、ペルー、ミクロネシア連邦コスラエ州、マーシャル諸島、ニューカレドニア、パプアニューギニア、サモア、トンガ、カーボベルデ)の標高2000m以下の地域への妊婦の渡航を控えるように勧告している[52,53]。妊娠予定の女性に対しては、男性パートナーを含め、渡航する場合には防蚊対策を厳重に行うことが推奨されている。

 また、ECDCは妊婦及び妊娠予定の女性に対してジカウイルス病の流行地への渡航を控えることを推奨している。過去3か月以内に感染事例が報告された国や地域として、2016年5月26日現在、米国CDCが挙げているものに加え、フィリピン、タイ、ベトナムを挙げている[54]。また、免疫不全や重度の慢性疾患を有する渡航者は、渡航前に主治医に相談し、防蚊対策のアドバイスを受けるべきであるとしている[55]

 また、2016年6月7日にWHOは、1) 流行地に居住もしくは流行地から帰国した妊婦のパートナーは、少なくとも妊娠期間中はコンドームを使用するか性行為を控えること、2)流行地から帰国した妊娠を希望するカップルや女性は、帰国後最低8週間(男性に発疹、発熱、関節痛、筋肉痛又は結膜炎のジカウイルス病の症状が見られた場合は6か月間)は妊娠を延期すること、3) 流行地から帰国した男女は、帰国後最低8週間(男性に上記のようなジカウイルス病の症状が見られた場合は6か月間)はコンドームを使用するか性行為を控えることを推奨した[57]。また、WHOはギラン・バレー症候群を含む神経症状に対して注意喚起を行い、ジカウイルス感染症患者における神経症状のモニタリングを推奨している[9]

 米国CDCも、流行地に渡航歴のある男性について、パートナーが妊娠している場合、妊娠期間中は性行為を控えるかコンドームを使用することを勧めている[42]。パートナーが妊娠していない場合でも、ジカウイルス病を発症した男性は少なくとも6か月、発症しない場合でも男性は帰国後少なくとも8週間は性交渉を控えるかコンドームを使用することを推奨している。現時点では、性行為感染のリスク評価のために男性の血清や精液の検査を行うことを推奨していない。また、流行地に渡航歴のある挙児希望のある女性は、症状の有無に関わらず流行地を離れてから8週間の避妊、ジカウイルス病と診断された女性は診断後8週間の避妊を推奨している[53]

 米国CDCは、ジカウイルス感染症が、妊娠と先天異常に与える影響をより正確に把握するために、新しい二つのサーベイランスシステムを構築した。The U.S. Zika Pregnancy Registry (USZPR)は、米国州及び、プエルトリコを除いた米国領を対象とし、The Zika Active Pregnancy Surveillance system (ZAPSS)は、プエルトリコを対象として、無症候かつ妊娠期の異常が見られないが、ジカウイルス病と診断された妊婦も含めて登録をして、前向きに観察している[58]

 イギリス公衆衛生庁(PHE)は、流行地に渡航歴のある男性は、パートナーが妊娠している場合は妊娠期間中、妊娠の可能性がある場合は、ジカウイルス病の症状がない場合でも流行地から帰国後28日間、ジカウイルス病の症状を認めたか確定診断された場合には6か月間のコンドームを使用することを勧めている[59]。また、流行地から帰国した女性は帰国後28日間(症状がみられた場合は回復後更に28日間)妊娠を控えることを推奨している。
このような事態を鑑み、WHOは、2016年2月1日に緊急委員会を開催し、小頭症及びその他の神経障害の集団発生に関して「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。6月14日には第3回緊急委員会を開催し、ブラジル・リオデジャネイロオリンピックの開催による、ジカウイルス感染拡大のリスクについて評価した。その結果、開催時期がブラジルの冬季であるため蚊の数は減少すること、蚊の対策を強化していることから、オリンピック開催によって、国際的にジカウイルスが拡大するリスクは極めて低いと結論付けた。

 

日本の対応

 日本では、2016年2月15日にジカウイルス感染症(ジカウイルス病又は先天性ジカウイルス感染症)が感染症法上の4類感染症に追加され、全数報告によるサーベイランスを開始し、検査体制が整備された。同時に検疫感染症にも追加され、検疫における監視体制が開始された。2016年3月11日には「蚊媒介感染症の診療ガイドライン」の第2版が発出され、また、診療体制の整備も進められ、日本感染症学会からもジカウイルス感染症協力医療機関のリストが公表されている。2016年3月30日に、媒介蚊の対策として、「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」が改訂された。

 

リスクアセスメント

 中央及び南アメリカ、カリブ海地域では今後もジカウイルス病の発生が続く。また地理的に流行地が拡大することも懸念される。日本では、感染症法上の4類感染症追加後、7例のジカウイルス病が報告された。中南米やオセアニア太平洋諸島から帰国後の渡航者であるが、今後も、東南アジア・アフリカを含む流行地からの入国者(帰国者を含む)が国内でジカウイルス病と診断される場合があると考えられる。

 ジカウイルス病は予後良好の熱性疾患であるが、妊婦がジカウイルスに感染すると胎内感染により出生児や胎児に小頭症等の先天異常を引き起こすことがある。そのため、可能な限り妊婦及び妊娠の可能性がある人の流行地への渡航は控えた方が良いと考える。

 国内に生息するヒトスジシマカがジカウイルスの媒介蚊となり、2014年のデング熱の国内流行のように、蚊の活動期には輸入例を発端としたジカウイルス病の国内流行が発生する可能性は否定できない。ただし、2015年4月に告示された「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」に則り、平常時から媒介蚊の対策が進められておりジカウイルスの伝播防止にも効果が期待される。国内の蚊の活動期においては、ジカウイルス病流行地からの入国者(帰国者を含む)は症状の有無に関わらず、潜伏期を考慮して少なくとも帰国日から2週間程度は特に注意を払って忌避剤の使用など蚊に刺されないための対策を行うことが推奨される

 性行為による感染に関する知見が集積されつつある。流行地から入国(帰国を含む)した男女は、ジカウイルス病の症状の有無に関わらず、少なくとも入国後8週間(パートナーが妊婦の場合は妊娠期間中)は性行為の際にコンドームを使用するか、性行為を控えることが望ましい。なお、現時点では性行為による感染のリスク評価を目的とした精液中のジカウイルスのRNA検査は推奨しない。

 今後の対応として、まずは、流行地への渡航者にジカウイルス感染症の情報提供及び防蚊対策の徹底をより一層周知することが重要である。具体的な防蚊対策は、蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第2版)に記載があるが、皮膚が露出しないように、長袖シャツ、長ズボンを着用し、裸足でのサンダル履きを避ける、必要医薬品又は医薬部外品として承認された忌避剤を、年齢に応じた用法・用量や使用上の注意を守って適正に使用する等である。

 また、諸外国と連携し、ジカウイルス感染症の臨床症状・検査所見、小頭症等の先天異常やギラン・バレー症候群等の神経合併症に関する新たな知見を収集していく必要がある。また、妊婦がジカウイルス病を疑われた場合は、蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第2版)に基づいて適切に対応する。なお、輸血による感染伝播を予防するため、海外からの帰国日から4週間以内の献血を控えることを遵守する。
以上のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいている。事態の展開と得られる新たな知見に基づき、リスクアセスメントを更新していく予定である。

 

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更新履歴

    • 2016年1月20日 初版
    • 2016年1月26日 第二版 
    • 2016年2月5日 第三版
    • 2016年2月16日 第四版
    • 2016年4月5日 第五版
    • 2016年5月13日 第六版
    • 2016年6月16日 第七版(この記事)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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