国立感染症研究所

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狂犬病から回復した症例、2011年―米国・カリフォルニア州

(IASR Vol. 33 p. 106, 109: 2012年4月号)

 

米国において狂犬病から回復した3例目の報告である。

2011年4月25日にカリフォルニア州郊外に住む8歳の女児が咽頭痛、嘔吐を主訴に小児科を受診した。その後、日中の活動はできていたが、嚥下困難をきたし、少量の水しか摂取できなくなったため、4月28日に地域の救急部門(Emergency Department:ED)を受診し、脱水に対して点滴を受けた。さらに、腹痛、頸部痛、背部痛のため、4月30日に再度EDを受診したが、ウイルス感染症を疑われ帰宅した。5月1日には咽頭痛、全身衰弱のため3度目のED受診をし、意識混迷(錯乱)、呼吸窮迫が存在しており、気管挿管され、第三次医療施設へ搬送された。この時の頭部CT、腹部CTでは有意な所見はなかったが、胸部CTでは左肺の下葉に無気肺が認められた。

小児集中治療室に入院時の髄液検査では、細胞数 6/μl、タンパク 62mg/dl、糖 67mg/dlであった。その後、急性弛緩性麻痺と脳炎が進行し、MRI(T2強調/FLAIR)では、脳室周囲の白質と皮質・皮質下領域に異常信号が認められた。カリフォルニア州公衆衛生部局のウイルス・リケッチア検査室におけるカリフォルニア脳炎プロジェクトの介入のもと、エンテロウイルスやウエストナイルウイルスなどに関する検査が緊急実施されたが、結果は陰性だった。臨床経過から狂犬病を疑われ、さらに狂犬病特異的抗体検査、遺伝子検査(PCR 法)、狂犬病ウイルス抗原検査が実施された。その結果、PCR 法、狂犬病ウイルス抗原検査では陰性だったが、血清および髄液中の狂犬病ウイルス特異的抗体が陽性であり、狂犬病と診断された。治療として、ケタミン、ミダゾラムによる鎮静、アマンタジン、ニモジピンによる脳動脈攣縮予防等が施行されたが、抗狂犬病ガンマグロブリンや狂犬病ワクチンは投与されなかった。5月8日には自発的に頭部を動かすなど、徐々に回復し、6月22日に退院となった。その後も、認知機能障害なく、日常生活を送っている。

予防として、患者の唾液に曝露された可能性のある27名(家族、クラスメート、PICUスタッフ、EDのヘルスケアワーカー)に狂犬病の曝露後ワクチン接種が行われた。その後、さらなる狂犬病患者は同定されていない。

なお、女児には、発症前6カ月以内に地域外に旅行した経歴はなかった。発症の約9週前と4週前に、通学する学校近くの野良猫にひっかかれた既往があった。野良猫に狂犬病ワクチンの接種歴はなかった。これらの猫を捕獲し観察したところ、1匹の健康状態は良好であったが、1匹は追跡調査ができなかった。

急性進行性脳炎患者の診療時には、狂犬病を鑑別診断にあげ、検査を行う必要がある。また、狂犬病予防のためには、家庭で飼育している動物に対するワクチン接種、ワクチン接種を受けていない野生動物との接触の回避、曝露後の迅速なワクチン接種が重要である。

(CDC, MMWR, 61, No.4, 61-65, 2012)

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