国立感染症研究所

健康上の助言/新しいインフルエンザA(H7N9)ウイルスによる人感染

(公式) CDC HEALTH ADVISORY CDC 健康上の助言)
CDCヘルスアラートネットワーク(HAN)を介して配布
201345日、午前10ET
CDCHAN-00344

 

まとめと背景

201344日の時点で、中国の公衆衛生当局は、中国の4つの異なる省から人における新たな鳥インフルエンザAH7N9)ウイルス感染症14例を報告している。 すべての患者は重篤な呼吸器疾患で入院し、6人が死亡した。これらは、鳥インフルエンザAH7N9)ウイルス感染症の最初の人への感染である(上海から6人、安徽省から1人、江蘇省から4人、浙江省から3人の報告)。うち、13例は27歳から87歳までの成人、1例は4歳の小児であり、全例が2013219日から331日の間に発症した。症例間での人から人への感染伝達や、疫学的リンクは同定されていない。可能性がある感染源に関する情報が把握されているが、まだ確認されていない。調査後に妥当な情報と見なされた時にその情報は提供される。

 

 

最初の3例から分離されたウイルスの予備的なデータは、ウイルスはノイラミニダーゼ阻害剤に対して感受性があることを示唆している。中国の公衆衛生当局による調査が進行中である。

 

これらのケースは、新たなA型インフルエンザウイルスが人に感染し、人の重篤な呼吸器疾患を引き起こす可能性があることを想起させるものである。新しいインフルエンザウイルスは、人の間で現在循環しているA型インフルエンザウイルスサブタイプと異なり、主に鳥や豚由来を含むインフルエンザウイルスである。近年では、いくつかのアジア諸国やエジプトにおける高病原性鳥インフルエンザAH5N1)ウイルス、メキシコにおける高病原性鳥インフルエンザAH7N3)ウイルス、および米国におけるインフルエンザAH3N2v(=変異型)ウイルスにおける人感染が報告されてきた(http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6136a4.htm, http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/EN_GIP_20130312CumulativeNumberH5N1cases.pdf, http://emergency.cdc.gov/HAN/han00325.asp)。人における鳥インフルエンザA型ウイルス感染症の臨床症状は、軽度な症状としての結膜炎、発熱、咳から、H5N1や最近のHN9感染において見られたような死亡に至る劇症肺炎を含む重篤な病像まで、かなり多様である。現在までのところ、インフルエンザAH7N9)ウイルスの人から人への伝播の証拠は無かった。

 

現時点では、人における鳥インフルエンザAH7N9)ウイルス感染症の症例は米国では検出されていない。新しいインフルエンザウイルスの迅速な検出や特徴を解明することは、さらなる患者発生を防ぐため、関連している臨床像を評価するため、これらのウイルスが人の間で伝播するための何らかの能力があるかどうかを評価するため、国家として努力を傾注すべき重要な点であることは確かである。臨床医は、通常のインフルエンザシーズン外であっても、肺炎を含む急性呼吸器疾患患者を評価する際に、可能性のある鑑別診断としてインフルエンザも考慮されよう。

 

臨床医は、もし呼吸器疾患を有する患者がそれらしい渡航歴や曝露歴があるならば、新しいインフルエンザAH7N9)ウイルス感染症の可能性を考慮すべきである。 新しいインフルエンザAH7N9)感染症例の大部分は、成人においては重篤な呼吸器疾患に至っているが、このウイルスへの感染は、一部には軽度の疾患を引き起こしたり、小児の病気を引き起こしたりする可能性がある。呼吸器疾患の患者で、病因が確認されていない人のためにインフルエンザ診断テストを実行する場合、臨床医は鳥インフルエンザA型ウイルス感染症や、米国における変異インフルエンザの新たな症例であるかどうかを同定できる。新しいインフルエンザAH7N9)ウイルス感染患者は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法により、A型インフルエンザウイルスに対して陽性で、かつサブタイプ同定不能となるであろう。

 

米国では新しいインフルエンザAH7N9)ウイルスが疑われる感染症は、検出後24時間以内にCDCに報告されるべきであり、州の保健部門は、新しいA型インフルエンザウイルス感染の可能性のある全ての調査中の患者について、速やかにCDCに通知する必要がある。

 

臨床医と州および地方保健局への中間提言

 

症例の調査と検査

 

インフルエンザの症状に合致し、以下の曝露基準のいずれかを満たしている患者は、インフルエンザRT-PCR検査の候補となる。RT-PCR法を用いたインフルエンザ診断検査実施に関する決定は、利用可能な臨床的および疫学的情報により、また、臨床医がインフルエンザAH7N9)ウイルス感染症を疑う人に対しても行われるべきである。

 

1.新しいインフルエンザAH7N9)ウイルス感染患者が確認されている国への最近の渡航、特に直接の、または濃厚な動物(野鳥、家禽や豚など)と接触があった、または、インフルエンザAH7N9)ウイルスが動物の間で循環していることが知られている地域への渡航があった患者。現在、中国は人における新しいインフルエンザAH7N9)の感染報告がある唯一の国である。

2. 新しいインフルエンザ(H7N9)ウイルス感染症と確定された者と最近接触した患者。

 

臨床医は患者から鼻咽頭スワブまたは吸引物を採取し、ウイルス輸送培地に保存し、州または地域の保健部門に連絡し、州の公衆衛生検査機関またはCDCにて輸送し、迅速な診断依頼をすべきである。新しいインフルエンザAH7N9)ウイルス感染症の診断検査に関する更なる詳細は、以下を参照のこと。

Interim Guidance for Laboratory Testing of Persons with Suspected Infection with Highly Pathogenic Avian Influenza A (H5N1) Virus in the United States

 

公衆衛生当局が推奨する現在の臨床的疫学的スクリーニング基準に基づき、インフルエンザAH7N9)ウイルス感染が疑われる場合は、検体を新しい病原性インフルエンザウイルスに対する適切な感染防止対策を用いて採取し、州あるいは地域の保健部門に送り、検査されなければならない。ウイルス分離は、これらのケースで試みてはならない。

 

サブタイプに分類できないすべてのA型インフルエンザウイルス検体は、追加の診断テストのために、直ちにCDCに送付される必要がある。鳥インフルエンザAH7N9)の確定診断はCDCで実施される。

 

市販のインフルエンザ迅速診断テスト(RIDTs)による検査では、呼吸器検体を用いては、鳥または変異型インフルエンザA型ウイルスを検出できない場合がある。したがって、インフルエンザ迅速診断テスト陰性の結果は、インフルエンザウイルスの感染を除外するものではない。また、A型インフルエンザが陽性の検査結果となっても、インフルエンザウイルスの変異型や鳥インフルエンザ又は変異ウイルスは確定できない。なぜならば、これらの検査は、A型インフルエンザウイルスのサブタイプ間では区別が出来ないからである(この検査では、人のA型インフルエンザウイルスと、鳥あるいは変異型のウイルスとを区別出来ない)。したがって、RIDTsA型インフルエンザ陽性であり、新しいインフルエンザウイルス感染の懸念がある場合は、呼吸器検体を収集し、州の公衆衛生検査機関でRT-PCR検査をするために送付される必要がある。治療方針の決定はインフルエンザ迅速診断テストが陰性との結果に基づいてなされるべきではない。なぜならば、インフルエンザ迅速診断テストの感度は中程度の感度を有するのみに過ぎないからである。

 

感染対策

臨床医は、新しいA型インフルエンザウイルス感染症について調査中の患者に対する適切な感染制御ガイドラインを把握しておくべきである。感染は、これまでに同定された症例においては重篤な呼吸器疾患を引き起こすことが示されているので、新しいインフルエンザAH7N9)ウイルス感染症について調査中の患者をケアする医療従事者(HCP)を含めて、インフルエンザAH7N9)ウイルスの感染伝播の特徴がもっと明らかになるまでは標準予防策に加え、飛沫、接触、および空気予防策に従う必要があり、それらには目の保護も含まれる。

 

重症急性呼吸器疾患患者のケアを行うHCPに発生する呼吸器疾患のすべてのクラスタも調査される必要がある。

 

治療

インフルエンザ疑いで入院している人に対しては、新しいA(H7N9)ウイルス感染症の疑いを含め、臨床医は、査確定を待たずに、抗インフルエンザウイルス薬(経口オセルタミビルまたはザナミビル吸入)を用いた経験的治療をできるだけ早く開始する必要がある。

 

高いリスクを有する人(5歳未満の小児、65歳以上の者、特定の基礎疾患を持つ者)で新しいA(H7N9)ウイルス感染症を含む、重症度の高いあらゆるインフルエンザ疑いの患者に対しては、臨床医は、検査確定を待たずに、抗インフルエンザウイルス薬(経口オセルタミビルまたはザナミビル吸入)を用いた経験的治療をできるだけ早く開始する必要がある。

 

抗ウイルス薬による治療は、インフルエンザの発症後できるだけ早く開始出来たときが最も効果的である。治療の早期開始は、より最適な臨床上の効果をもたらすが、重症度が中等度、重度、あるいは進行性の疾患の治療に対しては、発症より48時間以後に治療を開始しても、まだ有効であるかもしれない。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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