国立感染症研究所

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デング熱報告例に関する記述疫学(2014年1月~9月)

(IASR Vol. 35 p. 276-278: 2014年11月号)

2014年8月、約70年ぶりに国内で感染したデング熱症例が報告され、その後も国内感染の症例が報告されている。2014年第1~39週までに感染症発生動向調査システム(NESID)に報告されたデング熱症例について、報告内容をまとめた。

デング熱症例は計292例、うち国内感染例(以下、国内例)は149例、国外感染例(以下、国外例)は143例であった(2014年10月1日現在)。診断週に基づく国内例の報告例は第35週に始まり、第36週で最多の62例となったあと減少傾向となり、第39週では6例となった。感染推定地域は、149例中東京都が147例(99%)で、千葉県1例、都道府県不明1例であった。感染推定地域について、「東京都渋谷区」よりも詳細に「代々木公園関連」とする記載があった症例は、東京都内を感染推定地域とする147例のうち91例であり、同集計期間に厚生労働省より発表された代々木公園関連124例1)、という内容と大きな差があった。なお、報告数自体の差については、報告例のNESIDへの登録や集計に係る時間差などによる。報告自治体については、東京都を中心に18都道府県にまたがっており、報告例の多い自治体は、東京都99例(66%)、神奈川県11例(7%)、埼玉県10例(7%)などであった。一方、国外例は第1週より、週当たり4例程度で継続的に報告されており、最多は第35週で21例であった(図1)。推定感染国は、アジア・中南米の21カ国であった。年齢・性別をみると、国内例の年齢中央値は27歳〔四分位範囲(IQR)20-45〕、国外例では年齢中央値は32歳(IQR 22-45)、国内例に比べ10~50代で男性が多い傾向があった(図2)。報告された臨床・検査所見を表1に示す。病型は国内例ではデング熱148例、デング出血熱1例(0.7%)で、国外例ではデング熱136例、デング出血熱7例(5%)であった。臨床所見は国内・国外例ともにほぼ全例に発熱を認め、次いで頭痛、発疹の頻度が高かった。国外例でショックとなった症例が1例あったが、両群で届出時点での死亡例はなかった。診断方法に関しては、国内例では多くの症例で非構造蛋白抗原(NS1)の検出(74%)で診断されており、国外例では、52%がPCR法、42%がNS1で診断されていた(重複あり)。血清型が報告された症例は、国内例24例で、全例が1型、国外例は59例で、うち1型が26例(44%)、2型が17例(29%)、3型が10例(17%)、4型が6例(10%)であった。感染推定日から報告までにかかった日数を表2に示す。国内・国外例ともに発症から約7日以内に報告されていた。

報告数は第37週以降、減少傾向にある。国外例において10~50代で男性が多い理由は、デング熱流行地への渡航者数が男性の方が多い、渡航先での行動に差があるなどの可能性が考えられた。症状に関して国内・国外例ともに死亡例はなかったが、届出時点の報告であるため、届出以降に重症化した症例や死亡者などが届けられておらず、過小評価している可能性がある。感染推定日と発症日が明らかな症例から算出された潜伏期間は、最長で13日、さらに国内・国外例ともに約25%の症例が7日以上となっており、これは発症前の行動歴を聴取するにあたり考慮すべきことと思われた。

主な制約として、複数の理由による過少報告が挙げられる。まず、国内例の1例目以前に発症した症例ではデング熱についての認知度が低く、診断されていない可能性がある。また代々木公園周辺への訪問歴がない症例ではデング熱を疑われなかった、もしくは検査対象にならなかった可能性がある。さらに、デング熱は発症しても自然治癒する疾患であるため、発熱のみ等の軽症例はそもそも医療機関を受診していない可能性がある。NESIDへの届出内容に関しては、現在の病型ではデング出血熱と届けられた症例が2009年のWHOのガイドラインで示されている重症デングであるのか判断できないこと、感染推定地域に関する詳細な情報が欠けている症例が多いことが課題として挙げられる。国内例が報告された際、複数の症例の行動歴の共通性等から、感染推定地域を絞り込むことは感染拡大防止対策を立てる上で重要である。発症前の行動調査をできるだけ詳細に行い、疫学情報を集約できるようにしておくことが望ましいと考えられた。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている地方感染症情報センター、保健所、衛生研究所、医療機関に感謝申し上げます。

 
参考文献
  1. 厚生労働省 デング熱の国内感染症例について(第二十報)平成26年9月26日
    http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20140926-02.pdf
国立感染症研究所感染症疫学センター
  実地疫学専門家養成コース(FETP)
  ウイルス第一部
 

 

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