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本邦12例目となるC. ulcerans ヒト感染症例

(IASR Vol. 34 p. 381-382: 2013年12月号)

 

Corynebacterium ulceransC. ulcerans)は、人畜共通感染症であり、ジフテリア菌毒素産生能をもつものがあり、上気道感染においては偽膜形成を特徴とする感染症である。国内では上気道感染以外にもリンパ節炎や皮膚炎なども含め発症例の報告を散見する。現在確認できる中では国内12症例目となるC. ulceransによる急性鼻咽頭炎を経験したので報告する。

症例:71歳 女性

既往症:特記事項無し

ジフテリアワクチン接種歴:なし

家族歴:特記事項無し

飼育歴:猫 複数匹飼育あり(うち1匹に鼻汁など感冒様症状有り)

現病歴:2012(平成24)年11月12日より鼻閉、咽頭痛、後鼻漏出現し11月16日近医受診し、急性副鼻腔炎や急性咽喉頭炎を疑われ同日当院へ紹介受診となった。初診時、多量の水様から膿性鼻汁と後鼻漏があり、口腔からの視診により確認できるほどの鼻咽頭から中咽頭上方まで連続する偽膜形成を認めた。鼻腔ファイバー所見では、後鼻孔を閉塞し、鼻咽頭を充満する非常に厚く強固に付着する偽膜形成を認めた。同部位より偽膜の一部を採取し細菌学的検査へ提出した。下咽頭、喉頭には軽度発赤を認めた。血液検査では、WBC 9,150/μL、好中球70%、CRP 4.61 mg/dLと軽度の炎症を認めた。外来にてセフトリアキソン点滴し、レボフロキサシン内服の投薬し帰宅となった。翌17日再診し、鼻閉など症状が強く同日に入院となる。セフトリアキソン点滴施行し鼻閉も軽快し、同月19日退院となった。退院後はレボフロキサシン内服を11月31日まで行い、自覚症状、局所所見の改善を認め終診となった。

細菌学的検査
11月16日に採取した偽膜からの検体の培養同定検査でC. ulcerans 2+、Haemophilus parainfluenzae少数、嫌気性グラム陰性桿菌1+、Streptococcus pneumoniae少数、嫌気性グラム陰性球菌を認めた。C. ulcerans の薬剤感受性検査ではABPC、PIPC、CTM、FMOX、CMX<CTRX、CFDN、CDTR、CFPN、MEPM、EM、AZM、CPFX、LVFX、MINOに感受性陽性であり、CLDMに耐性であった。埼玉県衛生研究所でPCR法およびElek法によりジフテリア毒素遺伝子陽性と毒素産生を確認した。また、飼育中の猫からも同菌を分離した。分離された2株のC. ulcerans は、いずれもジフテリア毒素産生性であることを国立感染症研究所(感染研)の培養細胞法による測定でその毒素活性を確認した。

血清学的検査
感染研にてジフテリア抗毒素価の測定を培養細胞法で行い、8.16 IU/mLであった。

考 察
C. ulcerans は、ジフテリア毒素を産生しうる人畜共通感染症であり、本邦においては身近にいる猫や犬などペットからの感染が多いようである。海外においては牛などの畜産動物や未殺菌の生乳摂取による感染報告もあるが、人から人への感染事例の報告はまだない。本症例では感冒様症状の猫からの感染と考えられ、同一の菌が検出されている。一般的には認知度の高い菌とはいえず、ペットの感冒様症状の有無に注意を払い、そのような動物へ接触の際にはマスクや手洗いなどで感染予防を行い、動物病院へ連れて行くこと、といった啓発が必要である。C. ulcerans が確認された際には、ペットを除菌することも重要であり、さらに患者のジフテリア抗毒素価を測定し、感染防御レベル(0.1 IU/mL未満)でワクチン接種の必要性があると考えられる。本症例は8.16 IU/mLであったためワクチン接種は行わなかった。

また、医療従事者はこのような症例を経験した際にはペットの飼育歴を確認し、積極的に細菌学的検査を行うべきである。

さらに治療に関しては、米国CDCのガイドラインでは抗毒素療法とエリスロマイシンまたはペニシリンGの併用が推奨されているが、βラクタム系は有効ではないという報告もある一方で、本症例のようにβラクタム有効症例もあるため、今後も治療内容の集積が必要である。

 

朝霞台中央総合病院耳鼻咽喉科 仲田拡人
埼玉県衛生研究所臨床微生物担当 嶋田直美 青木敦子
国立感染研究所細菌第二部 山本明彦 小宮貴子

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