国立感染症研究所

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滋賀県で初めて確認されたジフテリア症状が認められたジフテリア毒素産生Corynebacterium ulcerans感染症例

(IASR Vol. 34 p. 143: 2013年5月号)

 

2001年の千葉県での発生例以来、本邦でもCorynebacterium ulcerans のヒトにおける感染症例が散見されるようになった。C. ulcerans は、人獣共通感染症を起こす細菌であり、これまでの本邦での報告例ではペットからの感染が疑われる生活歴を背景に持つ症例が多い。

症例:57歳女性

既往歴:特記事項無し

家族歴:夫と2人の息子が同居

生活歴:家の内外を出入りする猫14匹と犬7匹、および飼育小屋にヤギ2匹を飼育している。

現病歴ならびに治療経過:2011年某日より38℃の発熱と咽頭痛を自覚し、感冒薬を服用したが改善がみられず、近医内科を受診した。発症2日目に症状が悪化したため再診し咽頭炎として当院紹介となり、高熱と摂食不良のため緊急入院となった。初診時、咽頭粘膜に偽膜形成が認められ、鼻咽頭と咽頭から検体が採取された。培養検査の結果、グラム陽性桿菌が検出された。分離された菌は細菌学的検査によりジフテリア毒素を産生するC. ulcerans と同定された。

エリスロマイシン(EM)点滴治療を約1週間行い、症状および咽頭所見は改善し退院となった。退院後もしばらく外来で内服加療した。現在再燃なく経過している。

入院中にペットに関する問診を行ったところ、家の内外を出入りする猫14匹、犬7匹、飼育小屋にヤギ2匹を飼育していることが判明した。

細菌学的検査:分離されたC. ulcerans 菌株を解析したところ、PCR法によりジフテリア毒素遺伝子が検出され、培養細胞法でジフテリア毒素産生性が確認された。

考 察C. ulcerans は1928年にGilbert とStewart によって発見され、ヒトにはジフテリア症状をきたす感染症の原因菌として海外では比較的よく知られている感染症である。海外での本菌による症例報告では、人獣共通感染症として、牛や羊との接触や、その非加熱処理の乳製品から、また愛玩動物からの接触感染報告がある。今回の症例では、患者の自宅では、多数の犬、猫さらにヤギを飼育していたが、14匹の飼い猫のうち3匹と飼育しているヤギからCorynebacterium 属菌が検出されたが、C. ulcerans は分離されなかった。

厚生労働科学研究班の報告によると、保健所に収容されたイヌや飼いネコの咽頭ぬぐい液の検査でC. ulcerans の分離、もしくはジフテリア毒素遺伝子の検出を確認しており、大分県での調査では9.8%(92例中9例)、愛媛県での調査では5.0%(101例中5例)が陽性であったと報告されている。

本症例では、飼育している動物からC. ulcerans の分離はできなかったものの、感染源として飼育動物の可能性が高いと考えられた。本症例のように咽頭偽膜形成に代表されるジフテリア症状が認められた場合は、動物の飼育に関する生活環境について問診を行い、C. ulcerans 感染症を疑うことが重要と思われた。

 

大津赤十字病院・耳鼻咽喉科、検査部細菌室
   廣瀬知子 寺田裕美
滋賀県衛生科学センター
     河野智美 石川和彦
国立感染症研究所細菌第二部
     山本明彦 小宮貴子

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