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コレラ,2015年―WHO

(IASR Vol. 37 p.257: 2016年12月号)

コレラは依然として世界中の多くの地域で公衆衛生上の重要な問題である。2015年は42カ国から計172,454例のコレラ症例が報告され,うち死亡例が1,304例であった(致命率0.8%)。前年と比べ報告数は9%減少であった(2014年190,549例)。すべてのWHO地域から症例が報告され,アフガニスタン,コンゴ民主共和国,ハイチ,ケニア,タンザニアが全体の80%を占めた。地域別では,全症例の41%がアフリカから,37%がアジアから,21%がヒスパニオーラ島(ハイチおよびドミニカ共和国)からの報告であった。輸入症例は13カ国から85例報告された(日本を含むアジア5カ国,ヨーロッパ6カ国,アメリカ2カ国)。

コレラによる死亡例は23カ国から報告され,致命率>1%が15カ国で,そのうち致命率>5%がミャンマー(11.7%)とニジェール(7.8%)であった。適切な治療がなされれば致命率は1%未満に抑えられるので,高い致命率は不十分な症例管理や治療開始の遅れを表しているかもしれない。この報告は,各国のサーベイランスシステムによって探知されたWHOへの報告に基づく。そのためコレラ報告数は,症例定義や実験室診断能力の違い,経済への悪影響を避けるための報告しぶりなど,様々な要因が影響している。特に紛争地域では適切なサーベイランスや対策を実行することは困難で,過少報告となりがちである。推計によれば,世界中で年間130万~400万人のコレラ患者が発生し,21,000~143,000人がコレラで死亡しているとされる1)

地域別では,“アフリカ” は16カ国から計71,176例(うち死亡937例,致命率1.3%)の報告があり,前年の32%減であった。アフリカからの報告の62%をコンゴ民主共和国(19,182例,うち死亡276例),ケニア(13,291例,うち死亡67例),タンザニア(11,563例,うち死亡144例)の3カ国が占めた。“アメリカ” からは6カ国から計36,664例(うち死亡337例) の報告があり,ハイチ,ドミニカ共和国,キューバ,米国,メキシコの5カ国は国内例の発生があり,カナダは輸入例(3例)のみであった。米国は4例のうち3例が輸入例,1例は輸入海産物の摂食と関連のある国内例であった。ハイチでは2010年10月からコレラ流行が続き(2015年12月まで計754,972例,うち死亡8,863例),2015年は患者が36,045例(前年の30%増),死亡は332例(致命率0.9%は前年の1.1%より減少)であった。ドミニカ共和国は3年連続の減少(2013年1,954例,2014年603例,2015年546例)で,死亡は15例(致命率2.7%)であった。“アジア” は13カ国から計64,590例(死亡30例,致命率0.05%),そのうちアフガニスタンから58,064例(死亡8例,致命率0.01%)イラクから4,965例(死亡2例,致命率0.04%),インドから889例(死亡4例,致命率0.4%)の報告があった。“ヨーロッパ” は6カ国から輸入例のみの報告(22例で死亡なし)があった。“オセアニア”では豪州で2例の輸入例があった。

今までの経験からコレラ対策には,人やモノの検疫や輸出入の制限は効果がないことがわかっている。コレラ発生地域に隣接している国々は,コレラが国境を越えて拡大しないよう,自国のサーベイランスを強化し,アウトブレイクを迅速に探知し,対策を準備することが奨励される。

経口コレラワクチン:現在使用可能なWHOに事前認定された経口コレラワクチンは3種〔Dukoral,ShancholとEuvichol (2015年12月に認定)〕で,緊急事態やコレラ流行地での予防や対策目的で使われる。これらの3種のワクチンは2回投与により防御できる。2013年から経口コレラワクチンは,GAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の支援によって備蓄され,アウトブレイクや人道的危機への緊急対策のための各国からの要求により,また緊急でなくとも大流行地域で使用される。2015年にはWHOの援助により224万ドーズの経口コレラワクチンが輸送され,バングラデシュ,カメルーン,ハイチ,イラク,マラウイ,南スーダン,タンザニアでの集団予防接種ワクチンキャンペーンで使用された。

  

参考文献
  1. Ali M,et al.,PLoS Negl Trop Dis 9(6): e0003832
    http://journals.plos.org/plosntds/article/asset?id=10.1371/journal.pntd.0003832.PDF
    (WHO,WER 91: 433-440,2016)
    (抄訳担当:感染研・木下一美)

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