国立感染症研究所

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関西空港検疫所で検査診断されたチクングニア熱症例

(IASR Vol. 34 p. 68-69: 2013年3月号)

 

2011年2月1日にチクングニア熱が検疫感染症に指定されて以降、関西空港検疫所で初めて輸入感染例が発見されたので報告する。

症 例:患者は2012年12月23日に仕事でフィリピンのセブ島およびミンダナオ島ダバオに渡航し、2013年1月10日に帰国した奈良県在住の日本人男性(23歳)で、検疫時の主訴は発熱(38.6℃)、両腕および腹背部の発疹、関節痛、全身倦怠感であった。現地では蚊に刺されており、1月10日、帰りの便に搭乗してから発熱を自覚していた。関西空港検疫検査場を通過時、サーモグラフィーで発熱反応が認められたため、検疫官の指導により健康相談室に入室した。検疫医官が渡航地および渡航期間を考慮し、マラリア、デング熱、チクングニア熱の血液検査が必要である旨の説明を行ってから採血した結果、翌11日午後、チクングニア熱と診断された。ただちに検査結果を患者に電話で連絡し、チクングニア熱に関する説明をした上で感染症専門外来の受診を勧奨するとともに、保健所の指示に従うよう指示した。

検査結果:チクングニア熱については、チクングニアウイルス特異的プライマーを用いたTaqMan RT-PCRにより、特異的遺伝子の検出が認められた。Vero E6細胞を用いウイルス分離を試み、分離されたウイルスについても、TaqMan RT-PCRにより、特異的遺伝子の検出を確認した。また、国立感染症研究所(感染研)において実施したTaqMan RT-PCRの結果においてもチクングニアウイルスであることが確認された。さらに、感染研にてダイレクトシークエンス法により塩基配列を決定した結果、遺伝子型はアジア型であった(図1)。なお、同時に検査したマラリア迅速検査(Malaria Ag P. f/Pan:SD社)およびアクリジンオレンジ(AO)染色法によるマラリア原虫顕微鏡検査、デング熱NS1抗原簡易検査(DENGUE NS1 Ag STRIP:BIO-RAD)、デングウイルス特異的型別プライマーによるTaqMan RT-PCRおよびデングウイルスIgM capture ELISA(IgM捕捉ELISAキット:FOCUS社)は、すべて陰性であった。

経 過:その後の経過を本人に確認したところ、解熱剤の服用なく11~12日にかけて解熱傾向がみられ、発疹も消失してきたため、3連休明けの1月15日に大阪市立総合医療センター感染症外来を受診したということであった。本人の了解を得て、同医療センターの医師に確認したところ、受診時発熱、発疹、関節痛等の症状は消失しており、血液検査でも特に異常値は認められなかったということであった。現在通常の生活を送っている。

チクングニア熱はトガウイルス科アルファウイルス属に属するチクングニアウイルスによる疾患で、ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介される疾患である。1953年にタンザニアで発熱患者から初めてウイルスが分離されて以降、サハラ砂漠以南のアフリカ、インド、東南アジアなどで時折、流行が報告されていたが、症状の割に致死率が極めて低い疾患として知られていた。しかし、2005年初頭にコモロ諸島、その後インド洋の他の島国(モーリシャス島、レユニオン島等)に拡大した流行の際に、レユニオン島では、2005年3月~2006年の3月までに24万人以上の患者が発生し、死者も237人が報告されたことから、ウイルスの変異も考えられている。2007年にはイタリアで国内流行がみられ、また、2010年には南フランスでも同症の国内感染例が報告されるなど、世界的に流行は拡大している。ヨーロッパの例でもわかるように、輸入感染例から定着する可能性があり、同症をネッタイシマカ以上に効率的に媒介するヒトスジシマカは日本にも生息することから、国内で流行することが危惧されている。同症は2006年以来、本邦で38例の輸入感染症例が報告されており、うち昨年は10例が報告されている。今回の症例は39例目となり、今年に入ってからは1例目となる。

関西空港検疫所では同症がシンガポールに定着した2008年から厚生労働科学研究の一環としてRT-PCR法により、3年間で99件の検査を本人の同意を求めた上で、鑑別が容易ではないデングウイルス検査と同時に実施してきたが、陽性となる例はなかった。また、検疫感染症に追加されてからは、2011年に179件、2012年に310件、2013年に入り16件のチクングニアウイルス遺伝子検査を実施しているが、今回初めて陽性例が確認された。検疫所全体としては成田空港検疫所で2011年2月にIgM capture ELISA法で2例、同年11月にRT-PCR法で1例の陽性例が、また、中部空港検疫所で同年6月にRT-PCR法で1例の陽性例が確認されている。

情報提供いただいた成田空港検疫所および中部空港検疫所に深謝いたします。

 

関西空港検疫所
石原園子 草苅紫乃 佐藤之義 笠松美恵 井村俊郎
国立感染症研究所ウイルス第一部第2室
高崎智彦 小滝 徹 中山絵里

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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