国立感染症研究所

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The Topic of This Month Vol.33 No.7(No.389)

ブルセラ症 1999年4月~2012年3月

(Vol. 33 p. 183-185: 2012年7月号)

 

波状熱やマルタ熱として知られるブルセラ症(Brucellosis)は、ブルセラ属菌(Brucella spp.)による人獣共通感染症で、1999年4月1日施行の感染症法に基づく感染症発生動向調査では4類感染症として、診断した医師に全数届出が義務付けられている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-28.html)。また、家畜伝染病予防法では「ブルセラ病」として家畜伝染病に指定されている。

ブルセラ属菌はグラム陰性、偏性好気性短小桿菌(特に新鮮分離株では球菌のようにみえる)(図1)で、芽胞や鞭毛は持たず細胞内寄生性を持つ。ヒトに感染する主要4菌種は、病原性の高い順にB. melitensisB. suisB. abortusB. canis である(表1)。家畜ブルセラ菌(以下、本文中ではBrucella ovis を除くB. melitensisB. suisB. abortus の3つ)とイヌブルセラ菌(B. canis )は感染症法による三種病原体* である(IASR 28: 185-188, 2007)。家畜ブルセラ菌は米国CDCによるバイオテロ関連病原体カテゴリーBであり、また、畜産業への影響の大きさからアグリテロの病原体としても注意が必要である。

感染経路と症状:感染家畜の乳や乳製品の喫食が最も重要な感染経路である。感染動物の肉の喫食、感染動物やその死体・流産時の汚物との接触や汚染エアロゾルの吸入でも感染する。授乳や性交などによるヒト-ヒト感染もあるが、極めてまれである(本号4ページ)。潜伏期は1~3週間だが、時に数カ月にもなる。症状は原因不明熱が主で、全身的な倦怠感、疼痛、悪寒、発汗などインフルエンザ様であり、数週間~数カ月、数年に及ぶこともある。合併症は、骨・関節に最もよく見られるが、他にも、胃腸、肺、中枢神経系、心血管系など(本号5ページ)多岐にわたる症状を示すことがあり、中でも心内膜炎はブルセラ症による死亡原因の大半を占める。B. canis 感染では一般に症状は軽く、気がつかないケースも多い。

患者発生状況:世界で毎年約50万人の新規患者が発生している。主な分布域は中国、インド、西アジア、中東、地中海地域、アフリカとラテンアメリカなどで、患者数は増加傾向にある。中国では近年、主にB. melitensis による患者が急増している(本号10ページ)。家畜ブルセラ病対策が進んでいる国では、海外からの帰国者・訪問者(本号5ページ11ページ)、輸入汚染乳製品の喫食者、ハイリスク集団(酪農家、獣医師、と畜場従業員、検査従事者)に散発的に認められる。

日本では、1933年に第1例が報告されている(4類感染症として届出疾患になる前の文献報告は本号4ページ)。届出疾患となった1999年4月以降、感染症発生動向調査では19例が届け出られている(表2)。うち、7例は家畜ブルセラ菌感染(B. melitensis 5例、B. abortus 2例)であるが、現在国内の家畜は清浄化しており(本号9ページ)、すべて輸入例である(表2a)。日本在住の外国人が、ブルセラ症流行地域である母国に帰国した際に感染する例も報告されている(本号5ページ、IASR 33: 101-102,  2012)。残りの12例は国内のイヌ(3%前後が感染している)を原因とするB. canis 感染である(表2b)。大半が抗体陽性のみによる診断だが、イヌ繁殖施設でのブルセラ病流行における従業員の急性期の患者からは菌も分離されている(本号7ページ)。

診断と検査:ブルセラ症の診断では、症状が不明熱など特徴に乏しいことから、流行地への渡航歴と渡航先での喫食歴、動物との接触歴など、感染機会の有無を把握することが重要である。また、ブルセラ属菌は実験室感染が多い菌として知られている。そこで、感染機会がある不明熱の患者など本症を疑いうる場合、医師は検査室にその旨連絡し、その検体の取り扱いに注意を促す必要がある(本号5ページ)。ブルセラ症診断時の届出基準は、菌の分離・同定または試験管凝集反応による抗体陽性である(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-28.html)。

1)抗体検査:ブルセラ症は通常、慢性経過をたどり、有症状期に抗体を保有していることが多い。また、細胞内寄生菌のため“抗体陽性=保菌が疑われる”と考えられ、血清抗体検査の診断意義はきわめて大きい。検査では、死菌体を用いた試験管内凝集反応が行われる。野兎病菌、エルシニア菌、コレラ菌などとの交差反応に注意が必要である。抗体検査は、民間の臨床検査機関に保険適用で依頼可能である。

2)菌の分離と同定:血液培養瓶を用いた患者の血液培養では、最低21日間の培養が推奨されている。週2回、血液寒天培地などにサブカルチャーを行うが、3日以上で直径2mm程度と発育はやや遅い。疑わしいコロニーはグラム染色や運動性・生化学的性状の検査を行う。分離菌株の同定にはPCRによる遺伝子検出も有用である。すべてのブルセラ属菌に保存されている細胞表面タンパクBCSP31の遺伝子を標的としたPCRが最も広く用いられている。その他、16S rRNAやIS711遺伝子なども用いられる。国立感染症研究所ではPCRを組み合わせて、ヒトに感染しうる主要4菌種を鑑別・同定している(http://www.nih.go.jp/niid/images/lab-manual/brucellosis_2012.pdf)。

治療:単剤での治療では再発しやすいことから、2剤併用が原則である。1986年のWHO専門家委員会による、成人に対する推奨療法はドキシサイクリン(DOXY)+リファンピシン(RFP)であった。ただ、RFPはDOXYの血中クリアランスを早め、脊椎炎など合併症にはDOXY+ストレプトマイシン(SM)の方が効果的である。また、ゲンタマイシン(GM)の方が、SMよりも副作用が少ないといわれるため、近年では、DOXY+GMまたはDOXY+GM+RFP(3剤併用)が効果的とされている[http://www.who.int/csr/resources/publications/deliberate/WHO_CDS_EPR_2006_7/en  および EJ Young, Brucella species, In: Principles and Practice of Infectious Diseases Seventh edition (Mandell GL,Bennet JE, Dolin R eds), Churchill Livingstone, 2010]。小児にはスルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)合剤+RFP(またはGM)の併用、妊婦にはST合剤+RFPが用いられる。

予防対策:乳と乳製品の適切な加熱殺菌処理は基本であるが、家畜へのワクチン接種や“摘発・淘汰”という感染動物の根絶を目的にした獣医学的対策が、ヒトの感染予防上も、最も有効である(本号9ページおよび IASR 16: 127, 1995)。これらの方法によってブルセラ症患者が激減した国や地域も多い。効果的なヒト用ワクチンはない。

まとめB. canis 感染は、イヌの血液、胎盤や流産胎仔などに触れる機会を持つ者を除けば感染リスクは高くない。一方、家畜ブルセラ菌感染については、国内の家畜から感染することはないと考えられるが、世界ではいまだに重要な人獣共通感染症の1つである。今後も輸入感染症としての注意が必要であり、流行地域への旅行者に対しては、現地で加熱殺菌の不十分な乳や乳製品、肉の喫食を避け、動物との接し方に気をつけるように注意を促す必要がある。

 


*三種病原体:所持には厚生労働大臣への事後届出と施設が三種病原体等取扱施設基準を満たしていることが必要。病院や病原体等の検査機関が、業務に伴い所持することになった場合、滅菌譲渡の届出は不要だが、10日以内に滅菌または三種病原体取扱施設への譲渡が必要(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/03.html)。

 

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