国立感染症研究所

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immunology 2015 2Relationship of the Quaternary Structure of Human Secretory IgA to Neutralization of Influenza Virus

Suzuki T, Kawaguchi A, Ainai A, Tamura S, Ito R, Multihartina P, Setiawaty V, Pangesti KN, Odagiri T, Tashiro M, Hasegawa H.

Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jun 23;112(25):7809-14.

 生体内において最も産生量の多い抗体であるIgA抗体は分泌型IgA抗体としてインフルエンザ等の粘膜組織を標的とした感染症に対する生体防御の最前線を担っており、現在、世界中で分泌型IgA抗体の誘導を目指した経鼻投与型粘膜ワクチンの開発が進んでいる。分泌型IgA抗体は血液中に存在するIgG抗体とは異なり多量体を形成している。その多くは二量体であることが広く知られているが、微量ながら二量体よりも大きな多量体を形成した分泌型IgA抗体が存在する事が半世紀ほど前から知られていた。しかしながら、これらの二量体よりも大きな多量体の分泌型IgA抗体の四次構造と生体内における役割については全く明らかにされていなかった。


 本研究では、経鼻不活化インフルエンザワクチンのヒトにおける有効性発現機序を理解するためにワクチン接種によりヒトの気道粘膜上に誘導される抗体の四次構造と機能を解析し、ヒトの呼吸器粘膜には二量体に加え、三量体、四量体、四量体よりも大きな多量体を形成する分泌型IgA抗体が存在することと、それらの大きな分泌型IgA抗体は二量体よりも高いウイルス中和活性を有しているほか、抗原性の離れたウイルスに対しても中和活性を持っていることを明らかにした。さらに、高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)により抗体分子を1分子レベルで解析することにより、アスタリスクもしくは四葉のクローバーのような形状をした三量体、四量体の分泌型IgA抗体が抗体外周部に存在する多数の抗原結合部位でウイルス抗原を効率良く捕らえていることも明らかにした。本研究成果は、二量体以上の多量体の分泌型IgA抗体の四次構造と生理的機能の関係性を明らかにするという免疫学の分野における重要な成果であるだけでなく、ヒトにおいて経鼻ワクチン有効性発現機序とウイルス感染に対する生体免疫機構についても重要な知見をもたらし、理想的な経鼻ワクチンの設計において多くの示唆を与えるものである。
 なお本研究は、国立感染症研究所 感染病理部/インフルエンザウイルス研究センター、インドネシア保健省国立保健開発研究所との共同研究の成果である。

図の説明

高速原子間力顕微鏡で撮影した四量体IgA抗体

 

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