IASR-logo

首都圏内の空港に関連する遺伝子型D8の麻疹発生事例について

(IASR Vol. 38 p.52-53: 2017年3月号)

2016年7月末, 関西国際空港を利用した旅行者や従業員計5人に遺伝子型H1の麻疹が感染伝播し, うち1人を発端とする家族内伝播(4人が新たに発症)と海外有名アーティストのコンサート(千葉県)における散発的伝播, さらに別の1人から関西空港事業所勤務者33人の集団感染が発生したことは広く知られている1)。国内の国際空港において, 流行地を含む海外から渡航した感染者と遭遇し, 麻疹に感染するリスクがあることが明らかとなった。約1カ月後に, 首都圏の某空港(以下, A空港という)においても, 共通の麻疹ウイルスの伝播を示唆する事例が発生したことが, 感染症発生動向調査(NESID)から得られた情報および自治体等関連機関間の情報共有によって明らかとなったことから概要を記す。

麻疹ウイルス遺伝子型がD8で, かつ2016年8月28日にA空港を利用したことが明らかな麻疹症例は5人で, いずれも首都圏の自治体からの報告であった。症例の年齢中央値は34歳(範囲20~46歳), 男性が5人中4人を占めていた。全例で発熱と発疹を認めたが, 詳細は不明で, 1例に腸炎の合併を認めた。発症日は9月3日~9日の間で, 発症例は9月6日が最多であった。ワクチン接種歴は1回のみが3人, 未接種, 不明がそれぞれ1人であった。感染源に関する情報としては, 8月28日に韓国の金浦国際空港からA空港に向かう同一の航空便に5人中3人が搭乗しており, 他の2人については, 行動歴からA空港を利用したことが明らかであったため, A空港における(あるいは同一の航空便に搭乗した3人については機内も含め)共通の感染源からの曝露が原因であると示唆された。なお, 5人の遺伝子型D8のN遺伝子上の遺伝子型決定部位の塩基配列はすべて同一であった。これらの結果はWHOのデータベースであるMeaNSに登録された2)

同時期に, 韓国において金浦国際空港(ソウル)の従業員が麻疹を発症したことから, 韓国CDC(韓国疾病対策センター)による接触者調査の実施や, 医療機関への注意喚起が行われた3)。9月7日に発症した韓国の症例と国内の症例が同一の感染源に由来するかどうかは, 疫学的リンクも含めて必ずしも明らかではないものの, 日本国内で検出された5人のうち3人が韓国からの同一の航空機に搭乗していたこと, 金浦国際空港の従業員から検出されたウイルスの塩基配列が日本国内で検出されたものと同一であったことから, 共通の感染源の存在が示唆された。

その後, 国内の5人の発症者に対しては, 各自治体による接触者調査が行われた。うち2人については, 職場内および家族内感染による二次感染者が計2人(各1人)報告され, ともに遺伝子型D8の麻疹ウイルスが検出された。感染源となる発症者が麻疹の診断を受けた後, それぞれ11日目, 8日目の発症であった。この2人を含め, A空港における共通感染源に端を発すると考えられる症例は計7人となったが, NESID上ではさらなる感染の拡大は認められなかった。

関西国際空港の事例よりやや遅れて, A空港においても共通の感染源が原因と考えられる麻疹ウイルスの曝露により複数の麻疹症例が報告され, その後一部に二次感染もみられた。これらの事例から示唆されることとしては, 国際空港は流行国から持ち込まれる麻疹ウイルスに曝露を受けるリスクが高い場所であるということである。関西国際空港事例からも, 事業所としてこれらの空港を考えた場合に, 平常時からの従業員における麻しん含有ワクチン接種歴の把握と, 記録による2回の接種歴が確認できない場合は, 麻しん含有ワクチン接種を受けることを啓発していくことが重要である。加えて, 海外への渡航者に対しても, ワクチン接種が不十分な状況であれば, 渡航前の麻しん含有ワクチン(麻しん風しん混合ワクチンが望ましい)の接種が強く推奨されるとともに, 啓発を強化することが重要である。

謝辞:本事例に関連して, 情報共有やリスクの評価にご協力をいただいた保健所, 衛生研究所, 本庁, 各医療機関, および情報交換をいただいた韓国Centers for Disease Control & Prevention, 韓国National Institute of Health等の関係者の皆様に心より御礼申し上げます。

 

参考文献
  1. 大阪府ホームページ, 関西空港内での麻しん(はしか)の集団関連事例について(更新日:平成28年12月1日)
    http://www.pref.osaka.lg.jp/iryo/osakakansensho/mashinsyudan.html
  2. World Health Organization, Measles Nucleotide Sequence (MeaNS)
    http://www.hpa-bioinformatics.org.uk/Measles/Public/Web_Front/main.php
  3. 韓国CDCホームページ(2016年9月21日)
    http://www.cdc.go.kr/CDC/notice/CdcKrIntro0201.jsp?menuIds=HOME001-MNU1154-MNU0005-MNU0011&fid=21&q_type=&q_value=&cid=71138&pageNum=

国立感染症研究所感染症疫学センター 砂川富正 松井珠乃 大石和徳
東京都福祉保健局健康安全部感染症対策課 杉下由行 二宮博文
川崎市健康福祉局健康安全研究所 三﨑貴子 丸山 絢
川崎市健康福祉局保健所感染症対策課  小泉祐子 黒澤仁美
国立感染症研究所ウイルス第3部 駒瀬勝啓
国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース 渡邊愛可 小林祐介

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan